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心の成長の仕組み-「五常」とは(東洋哲学思想より)

今日は東洋哲学思想の基礎の1つとされる「五行説」、とくに心の仕組みを説く「五常」についてです。この記事は、私の鑑定やメンタリングを受けている方に向けたものですが、易経の哲学・倫理がビジネス本として超訳されているように、この「五常」も現代を生きる私たちが参考にできる要素が多分にあると感じており、特にマネジメント側に立つ方や「心」についてご関心がある方にもお読みいただける内容を意識して書きました。私がこれまでに受けた講義、文献、鑑定を通して得た知見などを織り交ぜながら、なるべく平易な表現で書くことを心がけました。とっても長いので、つまみ読みされる方は「2.4 心の成長の循環とは」&「まとめ」のみお読みいただければと思います。

はじめに

東洋哲学思想の根底には「陰陽五行説」というものがあります。東洋医学(漢方)の基本概念でもあるので、どこかで聞いたことがあるという方もいらっしゃるかと思います。正確には「陰陽論」と「五行説」の2つの理論が融合されて「陰陽五行説」とされているのですが、中国の学問である易学もこの基本思想を大いに参考しており、私たちのように吉凶判断のための易(断易・五行易)を扱う易者の読み取りもこれにならっています。

1. 五行説の「五行」とは

「五行」とは、簡単に言うと”5つに分けたものの見方”です。
五行説は、万物には”木・火・土・金・水”という5つの気質(分類)があり、これらは2種類の循環する動き-”生じる”&”弱める”-でもって互いに関係しあっています。以下、これを表現する図とともにご説明します。

<五行>
5つの気質とそれぞれのイメージです。感覚的に捉えてみるとぴんときやすいかと思います。

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<2種類の循環する動き>
◎"生じる"動き-円の循環

意味:生まれる・助ける・エネルギーを与える・育てる
例:「木」が「火」を生む

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◎"弱める”動き-星の循環
意味:制御する・コントロールする・勝つ・利用する・乗り越える
例:「木」が「土」を制御する

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2. 五常とその循環

2.1 「五常」とは

前段で五行とは"5つに分けたものの見方"だということをお伝えしましたが、この「五常」は五行にならって人間の心の仕組みを5つに分け説いたものになります。自然界の生長と同じように、人間の心にも春夏秋冬のような変化があり、私たちが置かれた環境(家、会社、友達など)や対峙する物事によりその心の在りようは異なります。これまでに鑑定を受けられた方の中でも稀に一貫して同じ方もいらっしゃいますが、大抵は仕事や自分自身など対峙する事象により変わる方の方が多いように感じます。

心の仕組みを意味する五行(五常)は以下のような意味をもちます。五常の漢字は、それぞれの心の状態を象徴する一文字と捉えてください。
※それぞれの詳しい意味やこれが弱まった時にどんな行動や状態に陥りやすいのかなど、「2.4.心の成長の循環とは」パートで説明しています。

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これらを円(生じる)と星(弱める)の循環に沿ってみていくと、次のような流れになります。

2.2 五常の円の循環(生じる)

この循環は、ある五常(=心の持ちよう)が成熟すると次の五常に自然と移行する動きを意味しています。人の心はこの循環に沿って螺旋階段上に発展していくとされていて、この”次の五常”への移行には、それぞれ次のような発展があります。

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①木【仁】→火【礼】

世界でたった1人の自分を容認すると自分の態度や見た目に意識が向く("私"から"私と相手(あなた)"の世界への移行)

②火【礼】→土【信】

"相手"を越えて自分が生きるコミュニティ(社会・世界)に視野が広がり、目に見えない「信頼」や「自信」を土台として生きるようになる

③土【信】→金【義】

自分・相手・社会を信頼してはじめて「約束」を交わすことができるようになる。契約・約束・絆で社会とつながることができる。

④金【義】→水【智】

約束事で社会とつながれるようになると、それを全うする過程で知識を蓄え智恵を働かせられるようになる。

⑤水【智】→木【仁】

自分への理解が深まると器が拡大し、さらなる自分への愛や感謝につながる(自己愛の領域が広がる)。


2.3 五常の星の循環(弱める)

この循環は、ある五常がその矢印の先にある五常を弱める動きで、いずれの五常も行き過ぎると他の五常をコントロールしたり悪い意味で利用する関係となるため、注意が必要なものと捉えてください。

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①木【仁】→土【信】

行き過ぎた自己愛は独りよがりとなり、周囲からの信頼を損なう

②土【信】→水【智】

自分や周囲への盲信は、正常なものの考え方や理解を阻む

③水【智】→火【礼】

行き過ぎた損得勘定は、他者から見て見苦しい立ち居振る舞いを招く

④火【礼】→金【義】

周囲の目ばかり気にしていると、人と約束を交わし守ることが困難になる

⑤金【義】→木【仁】

自らが全うできる約束や責務以上のものを背負いこれを優先すると、自尊心が損なわれる


2.4 心の成長の循環とは

ちょっと混乱させてしまうかもしれませんが、【自分の心が成長する or 心を成長させるステップ】という見方においては、先程の“星の循環“を逆行することになります。下図の赤い矢印の廻りです。

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人の心の成長は「水【智】」から始まり、赤い矢印の順に成長していきます。つまり、水【智】→土【信】→木【仁】→金【義】→火【礼】の順に成長すると言うことです。心が成長するということは、自分が「今の自分」を乗り越えて器を拡大しながら未来に進んでいくということを意味しています。また、この心の成長は先述の”円の循環”のように熟すと自然と次の五常に流れていくものではなく、意図したり実際にその行動を起こすことにより乗り越えるものとなります。この心の成長の流れを踏まえて、それぞれの五常について簡単に説明していきたいと思います。

なお、私が鑑定やメンタリングの中でお伝えしている心の指南も、この心の成長の仕組みを踏まえてお話ししています。

★水【智】

・智のはじまりは、理解・知ること。これにより何かと何かの「差」がわかり、健全な損得勘定を働かせることができるようになります。

・全てを理解してはじめて本当の意味で「損」と「得」を分別できるようになるため、本来はこの全てを理解する(明らかにする・整理する)過程無くして損得勘定を働かせることはできません。

・全てを理解してから必要なものとそうでないものを選り分けることが、最も得をすること。裏を返せば、物事の本質を理解してこそ、正しい判断をすることができるとも言えます。この境地が「損得勘定が極まる」状態。

・損得勘定を働かせるようになると、自分の中に謙虚さが現れます。

・謙虚さとは、理解を深めるために事実を事実として受け止めて認める自らの在り方。例えば何かをもらうシーンでは、遠慮しつつもあげたいと言う相手の気持ちをまずは受け止めて受け取ることを意味しています。(ちなみに、「謙遜」とは五常の【智】から捉えるととても高度な技術で、「今は受け取れないけど未来に受け取ります」ということを意図しているそうです。「遜」という漢字は"孫(未来)に続く道”とも読めます。)

智の五常が不足する時は、盲信や過信を招くとき。まずは自分が自分の感情を理解したり観察して味わうことを意識して、すべてを明らかにすることに注力してみてください。

★土【信】

・智による理解を経るとありのままを受け入れることができるようになり、自分や相手への信頼、自信、尊重の気持ちが湧いてくるようになります。

・私たちは大地が崩れず常にそこにあることを疑いもしないのは、そこに信頼があるからです。この心の状態が【信】の境地。

信の五常が不足すると、自分への自信が不足するため、目の前の状況を素直に受け入れられなくなります。自分以外の外側に上手くいかない理由を求めたり、自分が変わらないまま相手を思い通りにコントロールしようとしたりと感情的になる場面が増えます。こんなときは、もう一度目の前の事象を理解し(【智】をやり直す)、ありのままの姿を善悪なしに受け入れること(【信】への働きかけ)からはじめます。

★木【仁】

・ありのままを受け入れられるようになったら、その状態やそれを作り出した自分にマルを与えることができるようになります。許し、なんならそんな自分が愛おしく思えたりする、そんな状態が【仁】の境地です。

・自分の居場所探しにも似ていて、新しい職場ではまずルールや周りの人たちのことを理解し、ルールや彼・彼女たちのことを受け入れようとします。そうすることで、実際には自分がココにいても良いんだという「許可」を自分に出すことができています。「郷にいれば郷に従え」という言葉の意味する所です。

・仁は、自分を含む身近な人から大切にしたらそこから愛が広がっていくという自然な心の状態を表しています。

例えば、他者の失敗が許せなかったりするのは、仁が弱っているときです。自分の何かを許すことができないため、同じだけ他者の失敗も許せずにいます。自分を許すことができないと「どうせ自分は・・・」という気持ちが芽生え、自分より格下だと思っている相手をコントロールしようとしたりと自己顕示欲を発動させてしまうのもこれに同じです。理想主義者は仁の問題を抱えやすいのですが、とにかく自分の感情に注意深く目を向けて、自分を許し続ける練習を重ねることが重要になります。罪悪感を手放すこともポイントになります。行き過ぎた仁はまた、「執着」を意味することも忘れてはなりません。

★金【義】

・義は、約束を守る、尊い自己犠牲、責務を果たす、目的・目標の達成、本物であろうとするなど、自分が未来を決めてその未来と(実現を)約束をすることを意味します。

・ありのままの自分を許す(仁)ことができると、自分が信じる「未来」を決めてそこに突き進むことができるようになります。また、そのためなら少々の自己犠牲も致し方ない、自分が決めたことを全うしようという心の成長段階に至ります。

・「大義」という言葉がありますが、これは大きな義のためには多少の犠牲もいとわない、そんな「正しさ」を意味しています。大義は道に沿っているため、どのような道を極める時もこの「大義」を掲げることが不可欠になります。

・目的を叶えた未来の自分を信頼すること(信)、人と比べないこと(仁)、進むために「自分で決める」こと(義)、この3つに気をつけることが義を育むポイントです。

義が行き過ぎると「正しさ」の押しつけが生じます。どのような主義思想も、自分とは違う考えを許さずに押し通そうとすれば、立ち居振る舞いがみっともなくなり周りの賛同も得られず逆効果です。「仁義」と言う言葉のとおり、「仁(愛)」を経て「義」を果たすという順番が大切です。

★火【礼】

・自分の可能性を信じて大義や目標を掲げ、それを実現すると決めたあとには「行動」に移ります。【礼】はこの行動のことを指しており、相手に対する態度、立ち居振る舞い、言動などの"内面から派生する見た目"を意味します。

・礼は思いやり(仁)を丁寧に表現することからはじまります。まずは言葉遣いや仕草、身なりを丁寧にすることに意識を払うように心がけてみます。そうすると、自ずと「自分がなりたいと思うような人間」に近づいていきます。

・このように言動や立ち居振る舞いに注意を払えるようになると、自分と相手との適切な距離感をつかめるようになり、結果として相手への感謝や尊敬の念が湧いてくるようになります。

・礼の力を育むには、自分がお手本にしたい人、尊敬や憧れを抱く人の真似をすることです。お手本にならいそれを続けることで、自ずと理解するようになり自分のものにすることができます。まさに「形から入る」という言葉の通りです。

礼が行き過ぎる、つまり「人からどう見えるか」ばかりを気にすると、人と絆を結ぶことができなくなります。あくまで、大義や目標など自分の決めた未来への道を突き進む上で必要な、丁寧な立ち居振る舞いや言動に意識を向けることが大切です。相手への愛・思いやり(仁)があってこそ、礼が活かされます。

まとめ

五常は自分の状態をわかりやすく表したバロメーターのようなもので、自分を整えたり成し遂げたい何かを実現するために必要な"心の在りよう"の道を見つけてくれるものです。

この心の成長の仕組みは、

・自分と自分の目の前の出来事すべてをすっかり理解する(智)ことで、善悪なくそれらを受け止められる境地(信)に至り、

・この信頼の境地に入ると自分や自分の目の前の人たちの不甲斐なさや失敗すらも許すことができ、愛や思いやりをもって接することができるようになる(仁)。

・自分が自分であることを許せたら、自分の人生に目標をもったり未来を切り拓く力や覚悟が芽生え(義)、

・これらを実現するために行動する(礼)

という流れを示しており、行動に至る過程と行動こそが人生なのではないかということを示唆しています。

私がはじめてこの「心の成長として捉える五行(五常)」を知った時は、本当に眼から鱗でした。この流れや構造を知っているだけで、今の自分が陥っているドラマに気づけたりと自分を俯瞰する助けになっています。

今は環境が異なりますが、会社員として組織に属していた時はやはり自分が本来背負える以上の責務が一時的に舞い込むこともありましたし、そんな環境に慢性的に身を置いて頑張り続ける人たちも沢山見てきました。そんな時はやはり立ち居振る舞いや言動、身なりにその乱れが現れていて、組織では対立構造が生まれたり(嘘やごまかしを交えた)不健全な競争も一部では起きていました。私自身はいま1人で事業をやっているので当時と環境は異なりますが、この五常の循環は人生のどんな場面にも生かせる『心の指南』にほかならないと感じています。


参考文献

◎タオのメソッド(会員はkindleだと無料みたいです!)

◎陰陽五行教室(by 仲屋風水デザイン)のテキスト

◎漢方基礎講座(by 薬日本堂漢方スクール)

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