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100本のウニと中学校の裏山

こんなにも痛いとは思ってもいなかった。
事件が起こったのは、趣味のSUPで波乗りをしているときのことだ。

動くことを良しとしない今年、どこにも行けなかった私にとって、
2020年ナンバーワンの事件。
いつか忘れてしまわないように、しっかりしたためておこうと思う。


どこか遠くの海で台風が発生した影響を受けて、
波は、いつもより高く、勢いがあった。
夢中になるうちに、いつの間にか潮に流され、
波がブレイクする危険なスポットに。。
私の頭上を遥かに超える波が、息つく暇なく襲いかかる。
水深は浅いが、私には、足をつきたくない理由があった。
絶え間なく押し寄せる高波にもてあそばれて、不安定な体制を整えることができない。
パニックになってしまった私は、
えーい、もう生きるか死ぬかだ。決死の覚悟で海底に足をついた。
ぎゃーーーーー!
通称、ウニ畑。そこは一面にウニが広がっているエリアだ。
足をつくと、もれなくウニの棘が刺さる。

命からがら、必死でその危険なエリアを抜け、
穏やかな海上でおそるおそる見てみたら、、、、

もう、失神するかと思った。

両足の裏全面にぎっしりと、
まるで毛が生えたみたいにウニが刺さっている。。。
死んだ。。。もう終わった。

いつもこうだ。私は。物心ついた時から。
中学生の時も、みんなで校舎の裏山に登り、私だけ崖から転げ落ちたり、
一斉に逃げろ!って時も、私だけ先生がいる方向に逃げてこっぴどく怒られたり。。。
海の上でなぜか突然、中学校の裏山の映像が脳裏に浮かんだりした。
思い出が走馬灯のように。。。ヤ、ヤバい!
あまりのショックに、脳が現実逃避しちゃっているじゃないか!


海は、非情だ。容赦がない。
海は、初心者マークを付けていても、大目に見てくれない。
海は、「ここまでにしといてやろう」と、手加減してくれない。
何度も何度も激しい波を打ちつけ、ボードをふっ飛ばすし、
足の裏全面に、これでもか、と棘を刺す。
もし人間ならば、どんな悪党だってもう少し、温情をかけてくれると思うが。


根気よく数えたら、両足で棘100本。
一歩踏み出すたび、アンビリーバボーな激痛に顔をゆがめながらも、
「何がいけなかったのか?」
「どう対処したらよかったのか?」
海の師匠・先輩たちに聞いて回った。
皆、親身に具体的なアドバイスをくれた、が。
それぞれで、対応策が微妙に違っている。

そうか、つまり、正解なんてないんだ。
100点満点の解答、なんてない。
状況を見て臨機応変に対応していくってことか。
難しいなあ。
私にはまだ理解できないことも多かったが、
ただ、全てのアドバイスには一貫したものがあるのを感じた。
それは、
冷静でいること。
ピンチになったときにこそ、冷静にならなければいけない。
ということ。

今までに経験してないことばかりだ。
波のパワー。潮のスピード。ウニやクラゲの攻撃。
すべてがおそろしい。
立ち向かえないほどの自然の威力を目の前にしたとき、
「もう無理かも」と諦めてしまいそうな、畏怖に近い恐怖心がある。
それでも、冷静でいること。いかなるときも。
絶対に諦めず、冷静に考える。 
考えて、考えて、考える。
生きるために、生きることを、考える。
それが、「生命力」ということなのだ悟った。

正直、生命力があるほうだと自負していた。
どこに行ってもラッキーがついて回るし、
私はどこでだって生きていけると。
でも違う。
所詮、人間社会の中で守られて、要領よく立ち振る舞っていただけだ。
だから、いざという時、自ら危険な崖に近付いて転がり落ちるし、思考停止して何故か怒っている先生めがけて逃げる。


人生における突然のピンチに遭遇したとき、
咄嗟にどうするかを判断する冷静な視野。情報収集力と分析力。
そして、なにより、決して諦めない心の強さ。
足りないなあ、まだまだ全然。
押し寄せる波の前で、中学時代の思い出に浸っている場合ではないのだ。


あれから数か月。
私の足の裏に埋め込まれたウニの棘のタトゥーは、
きれいにすべて抜けていってくれた。
角質とともに、ウニの黒いトゲトゲとも、おサラバだ。
新陳代謝、ありがとう。
生きている、ってこういうことだね。


2020年が暮れていきます。
今年は、想像だにしないことがたくさん起こって、
想像だにしない痛みも味わったけれど、
信じられないほど楽しく、充実した毎日がありました。
私のまわりの世界は、いつだって優しく、温かい。
その、ありがたい証拠と幸せな確信だけを持って、
2021年、新しい時代の波に、軽やかに乗ってやろうと思います。
風を感じて、いつかきっと来る、ビッグウエーブを待ちながら。ね。


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