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おじさまのための水着

せっかく夏なので夏らしいことを書きたいな、と思った。
真っ青な空、もくもくの白い雲、太陽を浴びながら海まで歩く道。
ビーチサンダルに砂が入って来たりして。
日が暮れるのが遅くて、日が暮れた後も夜が長くって。
夏っていいな。
おじさまと泳ぎに行った時だって‥‥‥‥


エート‥‥
‥‥あれ?


記憶を掘り起こせども掘り起こせども、そんな思い出は無かった。
おじさまと海、行ったことなかった。


そもそも私の好きになるようなおじさんって、海とかプールとか無縁な雰囲気なのだ。
まごう方なきインドア派。文化系。
南国とも無縁な感じで、生まれて初めて好きになったおじさまは「ハワイなんて行ってたまるか」とまで言っていた。


しかし、中には
「何年かに一度ぐらいは泳ぎに行かないこともないよ」
というおじさまもいた。
「ほんとですか?!えーじゃあ私も一緒に連れて行ってほしいです!」
「あなた泳げるの?」
「あ、いえその、全然泳げはしないんですけども‥‥でもプールも海も大好きなんです」
と答えると、ちょっと呆れたように笑いながら
「じゃあ行ってもいいけど」
と言われた。
おじさまの言質が取れた私は、やった!と思ってウッキウキで水着を見に行った。


その日は軽い下見のつもりだったのだが、いきなり自分の好みど真ん中のビビッドピンクのビキニを見つけてしまった。
ビキニだけど下はローウエストのボクサーパンツ形式で、程よくエロくて程よく健康的、レトロな雰囲気もある、ものすごく素敵な水着だった。
しかしそれはフランスのラグジュアリーなブランドのやつで、ギョッとするような値段だった。
でもひとたび見てしまったが最後、これ以上可愛い水着は無いのでは??最高といっても過言ではなくない??と、もうその水着以外が目に入ってこない。
しかし値段がな〜〜〜〜。
試着したり店員さんと話したりしながらも決めかねていたのだが、その内『私が着ないで誰が着るのだ』という謎の使命感が湧いてきて、とうとう買ってしまった。
───分割払いで。


ところが。


その後、そこそこすぐに別れてしまったのだ。そのおじさまと。
一回も着ないうちに。
新品のまま。
別れ話の時、水着のことが頭をかすめるぐらい割とすぐだった。


私はそれっきりその水着は着なかった‥‥‥‥と、いうわけもなく。
女友達とプールに行った時、ここぞとばかりに着た。
彼女らが、
「あ、その水着って○○さんのために買ったのに別れちゃって一回も着なかったやつ??」
と聞いてきたので
「そうそうそう、ローンだけが残ったでおなじみのやつ」
と答えた。
夜だったせいかプールもプールサイドもカップルだらけで、みんなものすごく仲が良さそうにぎゅうぎゅうくっついていて、どさくさ紛れにキスとかしていて、なんなら『え、始まっちゃう?!』という雰囲気を振りまいていた。
うらやま‥‥‥いやいやいや。
私はおじさまとプールに行ったってそんなことしないけども。
行ったことないからわからないけど。


先日も友達とその話が出た。
「花野、あの時の水着どうした?○○さんの‥‥」
「ローンだけが残った水着でしょ?まだ持ってるよ!!」
「え、まだ払ってるの?!」
「払いは終わってるよ!!」
いまだにこんなネタにされてるけど別にいいのだ。
あ〜流行に関係ないデザインでよかった〜。
今年見ても超・素敵。
これから先、おじさまと泳ぎに行く予定ができた暁にはいつでも着ていく所存だ。





↓「ハワイなんて行ってたまるか」のおじさま。水着の人じゃありません。








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