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小説の『君たちはどう生きるか』が大好きだけど、映画の方もすごくよかった

私‥‥実はジブリの映画に全然詳しくなく、観たことがあるのがナウシカと、火垂るの墓と、耳をすませばと、千と千尋と、コクリコ坂と、風立ちぬと‥‥えーと‥‥という感じなのだが、しかし『君たちはどう生きるか』があまりにも良かったので、僭越だけど自分の心の記念に書いてしまいたい。

※ネタバレというか最後の方のシーンについて書いちゃってます。



私は、そもそも吉野源三郎の小説『君たちはどう生きるか』が人生の10冊に入るぐらい好きだ。
それとこの映画は関係ないらしいと聞いてはいたが、とはいえ、本当にかけ離れていたら淋しいなと思っていた。
そういう気持ちで観に行った。
でも、期待を裏切られることが全然無かった。
根っこの所でちゃんとつながっているなと思えた。



主人公の眞人が、異世界への入り口である『塔』の中に初めて入った時に、内面の壁が本で埋め尽くされているのが目に入るシーンがある。
あのシーンがまず最高だった。一気に惹きつけられた。
それはまるで『世の中を知る入り口は本である』と言うかのようであった。
これ、私の好きそうな話だぞ〜〜と思った。


私の大好きな作家、庄司薫の小説『白鳥の歌なんか聞えない』の中にも世界中の書物に囲まれて暮らしている知の巨人のような老人が出てくるが、そういう場面は、本の力を信じている私をいつでも心地よく圧倒するのだ。(だったらもっと本を読め、と自分にツッコみつつ)


しかし。
その壁いっぱいの書物の主である大伯父様が積み重ねた積み木は、もう今にも崩れそうになっている。
それは、知性とか教養の大切さが無くなる寸前のこの世の中みたいであった。


さらに。
眞人のお父さんは資本主義の悪いところが出たような人間だし、
ペリカンは食べるものが無いし、
可愛い赤ちゃん達は産まれて来るのがとても大変そうだし、
王様はトランプみたいな所があるし、
インコ達は善良そうだけど王様に疑問を持っていないみたいだし。


もう世界はダメになる寸前みたいに見えた。
私が普段から嫌だな、と思っていることを次から次に見せられている感じがした。


ところが────。
最終盤、そのめちゃめちゃになりかけている世界を見せられた眞人が「どう生きるか」という意味のことを聞かれる。
その答えが、

「友達を見つけます」

だった。


「友達を見つける」だって‥‥!!
そう来るとは思ってなかった。
私、てっきり世界は分断されまくっていがみ合って戦争が止まらなくなって絶望の中で死ぬしかないのかとばっかり思ってた。
それが「友達を見つける」だなんて。
そこで一気に胸がいっぱいになり、エンドロールまで涙が止まらなかった。(歌もよかった)


もし、あそこが「戦います」だったら全然泣けなかったと思う。
礼儀正しくて思慮深い少年が、
嫌なことから逃げるために小さな嘘をついた少年が、
自分の頭で考えて出した答えが「友達を見つけます」だった。


そうだよな。
戦わないで世の中を良くすることだってできるはずだよな、と思った。
友達をつくるという選択だってちゃんとあるのだ。


そりゃあこういうことを言うとお花畑って言われがちなのはわかってる。
でもいいのだ。
考えてみれば、吉野源三郎の『君たちは』の中で私が一番好きなのは、コペル君が悩んだ末に友達と和解するために勇気を出す章だった。


岩波文庫版に丸山眞男の寄せた文章が載っているのだが、最後の方の言葉を引用したい。

「『甘ったるいヒューマニズム』とか『かびのはえた理想主義』とか、利いた風の口を利く輩には、存分に利かせておこうじゃありませんか。」


宮崎駿はまだこの世の中に絶望していないのだな、と思わせてくれる映画だった。





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