見出し画像

私たち夫婦は、ちょっとズレているくらいの方が面白いし心強い

ある晴れた日曜日。インドア派の夫から「サブをドッグランに連れていこう」という珍しいお誘いがあった。しかし、行こうとしたドッグランはスキー場も併設していて、ウィンターシーズンからグリーンシーズンへの移行準備中でまだ利用できなかったため、行き先を家から車で20分ほどの海岸公園に変更し、散歩することにした。

その公園では他の犬も散歩をしていて、私の夢である多頭飼いをしている飼い主さんともお話をすることができた。

散歩を続けていると、私たちの前にラブラドール4頭と雑種犬1頭の集団がいた。それを見た三郎はリードをぐいぐいと引っ張り、意気揚々とその集団に近づいていった。

近づいてきた三郎に気付いた1頭のラブラドールが、三郎に向かって数回吠えた。三郎は途端に尻尾を下げ怖じ気づいた。5頭の犬が怖じ気づいた三郎に近づいてきて、三郎はあっという間に囲まれた。

大きな犬に鼻先やお尻を嗅がれ圧倒されっぱなしの三郎に、私は「がんばれ、サブちゃん!これもいい経験だ!」とエールを送った。しかし三郎は私の横をすり抜け、夫の足下に駆け上がり助けを求めた。その情けない姿に夫はメロメロの表情をしながら、三郎をその場からさらりと避難させた。

海岸公園からの帰り道、両脇に田んぼが広がり、遠くには立山連峰が見える場所があった。のどかな風景を見て「やっぱりこんな風景好きだわ、いつかこういうのどかなところに住みたい」と言う私に夫は、「そうかあ?なんもないぞ」とさらりと言う。

さらに「田舎に住んで、畑を耕したり庭の手入れをしたり、そんな暮らしに憧れる」と言う私に夫は、「ちい(私)はきっと時間があれば寝てるだろうな」とさらりと言う。

道沿いにある家の前を通り過ぎようとしたとき、その家の庭で小さな椅子に座りひなたぼっこをしているおばあちゃんを見かけた。「きっとひなたぼっこしているんだね、気持ちよさそう」と言う私に夫は、「あのおばあちゃん、完全装備していてひなたぼっこしているようには見えんかったよ」とさらりと言う。

私たち夫婦の何気ない会話にはズレが多い。しかしこのズレを今は楽しんでいる。でもいつ頃から楽しめるようになったのか。

多分、「男女の脳は、回路構成が違い、信号特性が違う」ということを知ってからだと思う。私が慕っている方から男女の脳には違いがあることを聞き、そのことについてわかりやすく書いてある本を教えていただいた。それはAI開発研究者である黒川伊保子さんの「女の機嫌の直し方」(インターナショナル新書)である。

女である私がこのタイトルの本を読んで何がわかるんだろうと思ったが、読み進めていくと、なぜ男と女の対話がすれ違うのかがわかり、私たち夫婦の対話の中で起こっていたすれ違いが解明されていった。面白くて食らえ付くように読んだ。

本を読み進めながら、過去の夫の伝え方や夫の対応、そして私の伝え方や私の対応を思い出していた。そういうことだったのかあと腹落ちしたら、笑えてきた。

それから夫と会話をするときに「私と夫は別の装置(脳)を持っているんだな」とか、「夫は共感ではなく、問題解決のために対話を紡いでいるんだろうなあ」というスタンスでいたら、そんなに腹が立たなくなってきた。

「なんで察してくれないの?」とか「私の気が済むまで話を聞いてよ」は夫にとってはきついし難しい。私自身も、それまでの自分の話し方や態度を顧みてみた。「察してアピール」はやめて、シンプルに伝えることを心がけた。そしたらその方が夫には伝わりやすいこともわかった。

体も声も大きく、見た目はちょっとやそっとじゃ倒れそうにない夫でも、繊細で公平で、使命感溢れる男性脳の持ち主であることを、この本を読んでから垣間見るようになった。

ときには私の話に共感してくれることもあるし、善かれと思って男気のあるアドバイスをくれることもある。絶妙なタイミングで言う夫のくだらない冗談に、私の凹んだ気持ちが吹き飛んでしまうこともある。救われることもあるし、気づきを得られることもある。

だから私たち夫婦は、ちょっとズレてるくらいの方が面白いし、心強い。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?