ぼくを児童相談所につれてって

　おまわりさん、おまわりさん！　お願いです。ぼくを児童相談所ってところにつれてってください。何しに行くのかって？　保護してもらうんです！

　ぼく、テレビで見ました。お父さんお母さんと一緒にいられなくなった子は、児童相談所で保護してもらえるって。でも、ぼく、行き方がわからないから、交番に行けばつれてってもらえると思ったんです。

　ケガ？　あざ？
　そんなものはありません。だって、ぼく殴られてないもん。でも、ぼく、もうお父さんお母さんとは、一緒にいられないんです。だから今すぐぼくを、児童相談所につれてってください。

　ぼくですか？　ぼくは小学三年生です。
　なんで一緒にいられないのかを話さないと、つれてってくれないんですか？　じゃあ、話します。

　ぼくのお母さんはスマホが大好きで、ツイッターとかインスタとかいうのをやっているんです。そうです。ＳＮＳです。ばえるとかいうやつです。
　お母さんがぼくのことを、そこでいろいろ言うようになったんです。そうです！　投稿です！　おまわりさん、くわしいんですね！

　ぼくが何か話したりすると、お母さんはすぐスマホをいじるようになりました。イイネがついたってよろこんでいました。お母さんがすごく楽しそうだったので、ぼくは何も言わなかったけれど、なんだか、へんな気持ちになりました。

　そのうち、ぼくがタマと遊んでいると、お母さんがスマホのカメラを向けるようになったんです。あ、タマはうちで飼ってる猫のことです。
　しらないうちに撮られているので、ぼく、やめてって言ったんです。でもお母さん、そんなぼくを見て笑うんです。そういうところもかわいいって。

　お母さんは、みんながおもしろいって言ってるとか、かわいいって言ってるとか、そんなことを言うんです。みんながほめてるって。
　でも、みんなって誰ですか？　スーパーのレジのお姉さん？　それとも、クリーニング屋のおばちゃん？　ぼく、お母さんが言う、みんながどんな人かわからないから、こわいです。

　おまわりさん、ぼく…はずかしいから、本当はあんまり言いたくないんだけど、実は好きな子がいるんです。マイちゃんっていうんですけど、この前、マイちゃんからチョコレートをもらったんです。そう、バレンタイン！
　でもお母さんに見つかったら、きっとチョコのこと、みんなに言っちゃう。もしかしたら食べているところを撮られるかもしれない。そんなのはずかしいよ。

　だから、こっそり食べました。お母さんに見つからないように。箱や紙はごみ箱に捨てずに、机の引き出しの奥に入れました。でも、バレンタインをもらったら、ホワイトデーにお返しをしないといけないでしょう？　ぼく、なにを返したらいいのかわからなくて…。

　だから、お父さんに言いました。
　お母さんに言わない約束をして、チョコの話をしました。お父さん、ぼくのこと「モテるんだなぁ」って言って笑ってました。それで、お父さんが休みの日に、二人だけでマイちゃんのお返しを買いに行く約束をしてくれたんです。ぼく、すごくホッとしました。

　それで、昨日、うちにミカちゃんが来たんです。あ、ミカちゃんはお母さんの妹なんですけど、ミカちゃんに言われました。「チョコもらったんだって？」って。どうしてしってるのってきいたら、ミカちゃんがスマホを見せてくれました。

　お父さん、お母さんに全部しゃべっちゃったんです。ぼくの話したことが、全部書いてありました。お父さんになら、話しても大丈夫だって思ってたのに…。

　おまわりさん、ぼく、もう、うちにいられません。お母さんが、ずっとぼくを見てるんです。ネズミのおもちゃを狙っているタマと、同じ目をしてぼくを見るんです。

　ぼく、まだ子供です。お父さんお母さんと話さずにはいられません。でも何か言ったら、みんなにしられちゃう。この前、ぼくがこわい夢を見ておもらししたことも、きっと、全部書いてあるに決まってる！　もし、マイちゃんにそんなことしられたら、ぼくもう、はずかしくて学校に行けないよ！

　おまわりさん、何で笑ってるんですか？
　えっ？　おまわりさんがお母さんにやめるように話してくれる？
　だからお父さんお母さんに、むかえに来てもらおうって？

　いやだ！
　そんなことしたら、今日のことも、お母さん、絶対みんなに言うもん！　そして、かわいいとか言ってごまかして、ぼくの話なんて、ちっともきいてくれないんだ。ぼく、前みたいにふつうにしゃべりたい。タマとだってふつうに遊びたいんだよ。

　おまわりさん、笑わないで！　お願い、笑わないで！　お父さんやお母さんみたいにぼくを笑わないで！　ぼく、みんながいないところに行きたいんだ！
　だからお願いです！　おまわりさん！　ぼくを、ぼくを今すぐ児童相談所につれてって！