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真面目に毎日煮込んでます。#創作大賞感想

 店頭のショーケースに並ぶ、テリテリの串焼きたちの中でも異彩を放つフォルム、安心するこってりとした旨みの「もつにこみ」、あなたは好きですか。

 私は、大好きです。

 私は埼玉県民なので、東松山市に行くときは、《もつ煮のまつい》のもつ煮を買って帰ることが多い。
 もつ煮には、野菜やこんにゃくなど、具の多いものもあるが、このもつ煮は、豚の白もつのみが、とろりと煮込まれている。
 私も家でたまにもつ煮を作るが、逆立ちしても、こういった名店のもつ煮には敵わない。真似してみようとやってみても、うまくいった試しがない。家庭で煮る量では、ああいった深い味は出せない気がする。

 たっぷり煮ると、煮込みは美味しい。
 煮込み料理においては、それは周知の事実だ。たぶん、火を落とさずに毎日煮炊きをする行為そのものが、煮込みの深い《味わい》につながっているようにも思う。

 毎日、決めて物事をすることは大変なことだ。

 私も毎日、なにがしかの文章を書いたり、読み直したりしているのだが、投稿のほうは、現在は週に一度に留めている。そして今、それも危うくなっているように感じている。
 毎日、誰かに見てもらう文章を書く、ということは骨が折れる。情熱や気概だけでは、毎日意図して同じことをするのは難しい。毎日続けるには、当人に真面目さのようなものがないと乗り切れないような気がする。

 だが、その難しいことをやっている人がいる。
 毎日こつこつ火を落とさず煮込むが如く、インターネットの海原で文章を書き続けている。その人の名を、

もつにこみ

 という。
 もつにこみと名乗っているにもかかわらず、もつにこみさんはモンブランが好物だったりする。

 ここで、モンブラン愛を爆発させた、もつにこみさんのエッセイの冒頭をご紹介したい。

 ガラスケースに並ぶ、キラキラのケーキたちの中でも異彩を放つフォルム、安心するほっくりとした甘さの「モンブラン」、あなたは好きですか。
僕は、大好きです。 

「モンブランは好きですか」の冒頭を引用

 この何気ない数行が、実にやさしく、あいくるしい。
 もつにこみさんは三児の父なのだが、うっかりそんなことを忘れてしまいそうになってしまうくらい、あいくるしい書き出しだ。
 ちなみに、当記事の書き出しは、このもつにこみさんの作品の冒頭をリスペクトしたものだ。こんなふうに、

「モンブラン」、あなたは好きですか。

 などと問われたら、それほどでもなくても、ついうっかり

「はい」


 と答えてしまいそうになる。
 モンブランを《モン》と呼ぶ愛着っぷりを読んでいくうちに、なぜ、もつにこみさんのアカウント名は、《もつにこみ》なのか、という疑問が湧き出す。読み手に「好きですか」と真面目に問いかけていながら、なぜご本人は《もつにこみ》なのだろう。

 《もつにこみ》と《モンブラン》
 同じ《も》から始まるし、同じ五文字だ。
 しかも文字の総画数も12画。そんなところまで同じだなんて、これには私も驚いた。それなのに、大好物のモンブランを差し置いて《もつにこみ》と名乗るのには、何か理由があるのだろうか。

 そんなことを考えながら、記事内にあるモンブラン画像を眺めていると、だんだんとモンブランが食べたくなってくるから不思議である。しかも私は、街中でモンブランを見かけると、無意識にもつにこみを連想するようになってしまった。
 もつにこみとモンブランが、切っても切れない関係になってしまったのだ。

 モンブランをこよなく愛するもつにこみさんは、若い頃によく旅をしたらしい。

 こちらも、もつにこみさんのお人柄を感じさせる作品だ。
 特に、冒頭のタイ編は、私の思い描く《もつにこみ像》が形になって現れているようで、読んでいてこれでもかと頬が緩んだ。

 人から「真面目」と言われ過ぎると、もしかしたら嫌な気分になるかもしれない。でもあえて、私は声を大にして言いたい。 

 真面目のどこが悪いのさ。


 もつにこみさんの真面目さは、温かく深い味わいがある。
 かたくなな真面目さは人を寄せつけないところがあるが、柔軟な真面目さは、魅力的だし安心感がある。
 もつにこみさんのエッセイから滲み出る真面目さは、当然後者だ。

 SNSを眺めていると、少し疲れるときがある。
 短い文章から滲み出る自己顕示欲や自己陶酔を感じ取ってしまい、体の中に得も言われぬ不快さが湧き出すのだ。
 そんなとき、湯あたりしたような、どっとした疲れを感じる。
(ちなみに、私はそういうとき、自分自身のエゴが強まっているんだ、と意識して気をつけている)。

 でも、もつにこみさんが連日投稿される文章には、神経に触るような自己顕示欲や自己陶酔を感じない。読んでいて心理的負担が少ないのだ。
 SNS全盛の現代に、最も必要なスキルではないかと思うのだが、皆が真似できることではない。もつにこみさんの個性があればこそできることなのだろう。

 先程紹介した、ひとりの旅のお土産ばなし(海外編)タイ編で、もつにこみさんは、レストランのシェフに声をかけられる。ご本人は内心驚いてしまったそうだが、シェフの方がもつにこみさんに声をかけたくなった気持ちが、なんとなくわかる気がする。

 もつにこみさんから滲み出る真面目さには、愛嬌がある。つい、声をかけてしまいたくなる愛嬌だ。
 それは、もつにこみさんの投稿にも表れ、味わいのひとつになっている。毎日こつこつ煮込んだ味があるのだ。
 エッセイは作品を読むだけではなく、その人個人を感じるものなのかもしれない。もつにこみさんの投稿を読むうちに、そんなことを考えてしまった。
 もつにこみさん、今日もごちそうさまでした。


もつにこみさんの創作大賞2024の応募作はこちらにまとめてあります。

 創作大賞応募作ではないのですが、「ぱたんぱたん」というエッセイは、もつにこみさんの個性をより感じられる作品です。こちらもどうぞ。

 もつにこみさんは#創作大賞感想でも大活躍。
 私は個人的にこちらの感想文が好きです。斎藤ナミさんの「人生の答えを探し求めてゲイバーを訪ねた夜」の感想文です。


お読み頂き、本当に有難うございました!