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花丸恵の食べたり呑んだり作ったり

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自分が書いた食べ物やお酒などに関するエッセイをまとめました。 食べた感想だけでなく、食べ物に関して疑問や思ったことなども書いています。 今後もどんどん追加していきます。 食いしん…
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#グルメ

まぼろしのホッケ

 昭和59年11月3日文化の日のことである。  当時、小学一年生だった私は、母とふたりで都内某区で行われたイベントに出掛けた。メイン会場である公園へ行ってみると、色づく銀杏の木の下には、たくさんのテントが並び、何か焼いたり揚げたりしたような香ばしい匂いが漂っている。どうやら日本各地の名産を売っているらしく、お店の人の掛け声が賑やかだった。  食べ物に目がない母は、目を爛々と輝かせながら、美味しいものを見逃すまいと鼻息を荒くしている。そんな母に、私は小走りでついて行くのやっと

気づいたらピェンロー

 今年は白菜が安いらしい。  軒並み物価が高騰する中、薄緑の外葉をまとってそびえたつ白菜は、まるで救世主のようである。その力強い姿を見ると、私の頭の中には、湯気の上がった「ピェンロー」が浮かんでくる。  随分前にラジオで、舞台美術家をされている妹尾河童氏の著作「少年H」の朗読を聞いた。ながら聞きしていたので、内容までは思い出せないのだが、聞いていて、おなかがほこほことあったまる、そんな感覚になったのを憶えている。  「少年H」はドラマ化もされて話題になった作品だ。今でも妹

頼りない食パン

 パンに頼りがいを求める人がいるかはわからないが、見るからに頼りないパンがある。  初めてスーパーでそのパンを見かけたとき、学校の朝礼で貧血になって倒れてしまう細面の男の子を連想してしまった。  耳まで真っ白なパンで、事情を知らない人が見れば、生焼けかと目を疑ってしまうだろう。  そのパンの名を、ふんわり食パンという。  このふんわり食パン。  特売ともなれば、何段も積み重ねられて売り場に並ぶのだが、三段も重ねると、一番下のパン達は重みに耐えかね、いささか苦しそうに見え

サイゼリヤに最適化

 私が初めてサイゼリヤを知ったのは高校生のときである。  当時私は帰宅部だったのだが、この頃から物を書くのが好きだったので、その縁で新聞部の手伝いをしていた。部活終わりに、先輩たちが、 「サイゼに行く」  と言うので、「サイゼ?」と思いつつもついて行くことにしたのである。  先輩たちは、ミラノ風ドリアを当然のように注文していた。  メニューを見るのは昔から好きなので、ぱらぱらめくって、その値段を見て驚いた。  安すぎる。  驚きのあまり、私は何を注文していいのかさっぱりわか

銘菓を好むお年頃

 お盆休みが近づいてくると、スーパーやデパートなどでは、帰省土産の販売に精を出しはじめる。  箱詰めされたゼリーや水ようかんが涼しげで、クッキーやおかきの詰め合わせなどを見ていると、帰省もしないのに、つい買いたくなってしまう。  東京土産で有名なのが、昔からあるものだと人形焼きや雷おこし、芋ようかんなどが思い浮かぶが、近年は東京ばなななども定番になっている。  京都は八つ橋、福岡だと博多通りもんなど、各地様々なお土産用のお菓子がある。各地域ごとに、おらが町のお菓子、というも

チリソースの羽衣

 そのお店は赤坂にあった。  絨毯が敷かれており、歩いても音が立つことはない。白い円卓は、隣が気にならない距離感で、卒なく配置されている。  耳をすませば、僅かばかりに話し声が聞こえ、目を凝らせばようやく、隣の円卓で何を食べているかがわかる。  隣は何を食う人ぞ。  気にはなるが、間違っても目を凝らしてはならない。ここは言わずと知れた高級中華のお店なのだ。  円卓の上には、海老のチリソースが盛られた白い皿が置かれている。  これは私が望んで注文した一皿だ。その様子は、こ

一口目は塩でお召し上がり下さい。

 私は生まれてこの方、そんなことを言われたことはないが、グルメ番組などで、そういった場面を見かけることがある。  例えば、とんかつを食べようとして、いざ行かん、と箸を手にしたとき、 「一口目は塩でお召し上がりください」  と言われる。  目の前にあるとんかつは既に自分のものであるはずなのに、作った人にそう言われてしまうと、ハッキリ「嫌です」とは言いにくい。  強制ではないが断りにくい。そういうことに人は何となくモヤモヤしてしまいがちだ。つまり、 「一口目は塩でお召し上がり

ブルボン党チョコリエール派

 参院選の火蓋が切って落とされた。各党の党首が様々な主張を繰り広げ、候補者たちは、限りある議席を死守したり奪取しようと必死である。  2022年現在、日本には9つの党がある。私の子供の頃に比べたら、随分と数が増えた気がする。しかも、党によっては、そこから更に分かれ、派閥やグループというものが存在していたりするのだから、やはり同じ党であっても、個人的な主義主張は、どうしたって違いが出るものなのだ。  近年、明治製菓が、きのこの山、たけのこの里、どっち派?  なる争いを自ら巻き

オムライスだけプロの味

 なぜだ。と思うことがある。  私は夫に留守を頼むとき、お昼にオムライスなどを作っておくことが多い。冷蔵庫に作り置きでき、レンジで温めて食べられるものがいいので、オムライスの他に、チャーハン、ナポリタン、焼きそば。こういったメニューが、留守を頼む食事の候補に挙がる。  大体、飽きないようにローテーションにしているのだが、夫はオムライスのときだけ、 「プロの味だった」  そんな大げさな感想を述べるのだ。しかもなぜか、某SNSのいいねボタンに負けないくらい、親指をグッと突き立

福岡で食い倒れたい

 自分には、あとどれくらい旅をするチャンスが残っているのだろう。  四十を過ぎて、そんなことを思うようになった。  限りある命、行ってみたいところは山ほどある。それなのに、知らない町を旅することが、年齢を重ねるごとに億劫になってきた。夫婦揃って方向音痴のせいもあるかもしれないが、何度も訪れた馴染みの場所は、事前準備も少なくて済むので気が楽だ。  しかし、そうはいっても、一度も行ったことのない場所に足を踏み入れてみたい。そんな思いは募る。夫と今度旅するならどこに行きたいか、そ

こっそりうどん県

 どうも、失礼します。埼玉県民です。  私は現在、東京都出身と言っているが、生まれてすぐは、埼玉の某市に暮らしていた。そこからすぐ父の転勤で、大都会の渋谷区に引っ越すことになるのだが、まだ目が開かない頃、私は埼玉県に住んでいた。もし埼玉が望むならば、私はいつでも埼玉出身を名乗るつもりでいる。  おそらく、埼玉の方から「別にいいや」と、お断りされそうなので、あえて「名乗ろうか?」と、お伺いを立てるつもりはないが、この埼玉暮らしを、私自身結構楽しんでいる。  埼玉の良さは何と

花祭りを盛り上げたい

 明日、4月8日はお釈迦様の誕生日だ。  この日は各地で花祭りが行なわれ、その誕生日をお祝いしている。  だが、この花祭り、残念なことにそれほど盛り上がってるようには見えない。あとからやってきたハロウィンは、渋谷のスクランブル交差点にあれほどの人を集めるというのに、花祭りでDJポリスが出動したいう話は聞いたことがない。  花祭りと同じく、クリスマスもイエスキリストの誕生日を祝うものだが、その盛り上がり方は桁違いだ。  もし、釈迦とキリストが、一般家庭の普通の兄弟だとして、

長芋はいいヤツだ

 私は生で長芋や大和芋が食べられない。  納豆は好きなので、あのぬるぬるした感触が苦手なわけではない。残念なことに、私はぬるぬる系の芋を食べると、手や唇が痒くなる体質なのだ。だから私がぬるぬる系の芋を食べるときは、焼いたり、揚げたりすることが多い。  それに引き換え夫は、ぬるぬる系の芋が大好物だ。納豆やねかぶ、とろろ昆布なども好きなので、おそらくぬるぬるした食べ物は大抵、好物なのだと思う。  自分が食べられなくても、家族の好物となれば、やはり買い物かごに入れてしまうものだ

わたしの愛読書

 私の愛読書は、メニュー表である。 「何を馬鹿なことを」と思われるかもしれないが、メニュー表ほど、面白く、楽しい読み物はないのではないか、と私は思っている。 「メニュー表は、書籍ではない。第一、書店では売ってないではないか。そんなものを《愛読書》と言い切るなんて、君は恥ずかしくないのか?」  厳格な読書家の皆さんに、こんなお叱りを受けそうではあるが、それでも私は、メニュー表を愛読書と言いたいのだ。  なぜならば、私はメニュー表を愛しているからである。  しかし、いくらメ