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オムライスだけプロの味

 なぜだ。と思うことがある。
 私は夫に留守を頼むとき、お昼にオムライスなどを作っておくことが多い。冷蔵庫に作り置きでき、レンジで温めて食べられるものがいいので、オムライスの他に、チャーハン、ナポリタン、焼きそば。こういったメニューが、留守を頼む食事の候補に挙がる。
 大体、飽きないようにローテーションにしているのだが、夫はオムライスのときだけ、

「プロの味だった」

 そんな大げさな感想を述べるのだ。しかもなぜか、某SNSのいいねボタンに負けないくらい、親指をグッと突き立てて言うのである。

 ちなみに夫は、私の料理を手放しで褒めることが少ない。餃子がうまく焼けたときは褒めてくれるが、他であまり褒められた記憶がない。それゆえ、夫による「プロの味」発言は、貴重な賞賛であると言える。

 そんなにオムライスが好きだっただろうか。共に暮らして23年。思い返してみても、今まで、夫に好物を訊いて
「オムライス」
 と返ってきたことは一度もない。好物は何かという問いには決まって、
「納豆」
 と、返答する男なのだ。最後の晩餐は何がいいかと訊いても、
「納豆」
 と答えるほど、夫は納豆菌に侵された男なのである。

 どんなに手の込んだ料理を作ろうとも、一生、納豆に敵うことはない。そう思って、私は23年を過ごしてきた。

 なぜだ。と思うことがもう一つある。
 夫が「プロの味」と言ってくれるのは、なぜか作り置きのオムライスのときだけなのだ。出来立てアツアツのオムライスのときは何も言わない。普通、出来立ての方が美味しいと思うのだが、一体、そこにどんな差があるのだろう。

 作り置きのオムライスを、好きな時間に自由に食べる。
 そんなひとり飯の気楽さが、オムライスをプロの味だと錯覚させるのだろうか。だとしたら、作り置きのチャーハンやナポリタンだって、プロの味になるはずだ。

 夫のどこのスイッチを押したら「プロの味」発言が飛び出すのか、全くもって謎である。

 作り方も、これといって特別なものはない。
 冷凍ご飯を解凍し、ピーマン、玉ねぎ、にんじん、きのこをみじん切りする。肉はベーコン、ハム、鶏肉、豚肉、ひき肉など、そのときあるものだ。
 鉄のフライパンを予熱し、煙が少し上がったところで、バターを溶かし、溶きほぐした卵1個を流し入れ、丸い薄焼き卵を作る。焼いた卵を取り除き、バターの香りが残っているフライパンにオリーブオイルを入れ、肉を炒め、みじん切りの野菜と投入し、しんなりするまで炒め合わせる。

 ここまで、何か変わったところはあるだろうか。

 そして、炒め合わせた具の上に、ケチャップを適当に入れ、ケチャップの水分を飛ばすように炒める。そこに解凍したご飯を入れ、混ぜるように炒めればケチャップライスの完成だ。
 味見して物足りなければ、塩や味の素などで気軽に調整する。そして器によそい、その上に丸い薄焼き卵を乗せるだけ。
 食べるとき、ケチャップをかけたり、粉チーズをかけたり、そこは夫の自由に食べてもらう。

 どうだろう。何か変わったところがあるだろうか。いや、ない。

 このオムライスのどこに「プロの味」の要素があるのか。考えてみても、全く見当がつかない。夫はただ気まぐれで、「プロの味」と言っているだけなのだろうか。それとも作り置きのオムライスのときだけ、私の手から何か料理の旨味が増す波動でも出ているのだろうか。

 もしそうなら、その波動を常に放出できるようになりたいものだ。

 

 

お読み頂き、本当に有難うございました!