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Diary 2024 02 29 面接に来て泣いていた大学生の彼女のこと 

アメリカ企業日本法人で働いていた時のこと。
日本にオフィスができてまだ間もない頃で、社員はまだ十数人しかいませんでした。
営業のアシスタントが必要だったんだけど、本社から採用していいよって承認が降りなくて、社長が秘書の私に、バイトで来てくれる人誰かいないかなって言ってきたので、その時無職だった知り合いの女の子に声をかけてきてもらう事になりました。
彼女は新卒採用された会社で、若気の至りのおかしな自信発動しまくっていろいろやらかし、自身も疲弊して会社を早々に退職したという経緯があり。
真面目だったしきちんとしていた(と当時の私は思ってた)ので、社長に言って、好条件で採用してもらいました。

数ヶ月経った頃だったか、彼女は個人の都合で毎日出社できないという事になり。
それでは仕事にならないので、じゃあバイトはここまでって事になりかけたたら、彼女が「いい人を紹介するので、その子もバイトに雇って下さい。私がいない時はその子に対応してもらえばいい」と言い出し、社長に直談判したり、アメリカの人事にかけあったりと、いろいろおっぱじめました。
最初はおとなしく謙虚にみえた彼女ですが、その頃にはいろいろ露見していて、そこへもってきてそれだったので、私を含むみんなびっくり呆れ顔。
彼女の上司にあたるダイレクターはとっくの昔に激怒で、毎日来れないなら仕事にならんし、そもそもバイトの分際で何を言ってるんだ!と、まぁほんとにガチギレでした。
しかし気弱な社長は彼女に押し切られ、結局その彼女の知り合いとかいう女の子と面接することに。

当時は就職が大変で、就職浪人山ほどいました。
その女の子は大学卒業間近、きれいさっぱり面接落ちちゃったそうで。
たぶんもう本当に心の底から、どこかで働きたいって気持ちでいっぱいだったと思います。真面目そうな女の子でした。
「英語はまだできませんが、がんばります!」
「足りないところはたくさんあると思いますが、勉強します」
社長室のすぐ横の私の席から、彼女の必死な、真摯な言葉が聞こえてきました。
2人目、社長室にはいったのは激怒していた営業のダイレクターでした。
いやもうその人、身体でかいしいかついし、たださえ怖いのに、ムカついてるからもっと怖い。
でも女の子、がんばってきちんと自分のことを説明してました。
ずっと静かにそれを聞いていたダイレクター、開口一番。
「俺は君を雇う気はないよ」
女の子が息を呑む音が聞こえました。
ちょっとおやじ!その言い方!!と、扉ぶち破って乱入しようかと思ったその時。
ダイレクターは、彼に不似合いな静かな声で言いました。

「この会社は立ち上げたばかりの会社で、みんなその道のプロな中途採用のおっさんおばさんばっかりだ。みんな忙しいし、君に仕事を教える余裕はない。君も会社という場所で出来る事なんてないはずだ。勉強します、がんばりますが通用する場所じゃないんだよ、ここは」
「社会人になる最初の一歩はとても大事だ。マナーやスキルも大事だが、会社という組織やそこで働くことがどういうことかを知るのもものすごく大事だ。最初に働くのは、規模に関係なく、そういう基本的な事を君に教えてくれるきちんとした日本の会社にするべきだ。こんな組織も未熟で教育してやる時間もないちっぽけな外資系で、しかもバイトでなんかで社会人の第一歩を始めちゃだめだ。どんな事でもはじめが肝心だ」
「俺も長年会社員やってるから、たくさんいろんな人間をみてきたからわかる。君はちゃんとしてるし真面目な人だと思う。そういう君をちゃんと立派に育ててくれる良い会社は必ずあるよ」

少しの間を置いて、うわあああああああっと大きな泣き声が響き渡りました。

彼女が帰った後、ダイレクターのところにいって、「XXさんがあんな話するなんて思ってもいなかった」と言ったら、彼は本当にクソ苦々しい顔をして、「誰かが言ってやらなきゃならない事だったから、俺がひっかぶったんだよ」と言って怒ってました。
そして、「XX(その子を連れてきたくだんのバイトの人)とは、俺は二度と口をきかないし、もちろん仕事も頼まない」と言い、その後、その通りにしていました。

バイトの女性はその後、何事もなかったかのように、平気のへいざで社長にかけあって週二日出勤になり、その後、バイトの口ききをした私にも砂をかける、いやいや、もう岩を投げつけるような事をしてきました。
見る目がなかった自分を深く深く反省しています。
あの時のあの面談の一件、あんな心無い事をする人間は地獄に落ちろと今でも思っています。
バイトの彼女は、就職でつらい、不安な気持ちでいっぱいだったあの女の子を利用しようとし、さらに深く傷つけた。
だいぶ前の事なので、その女の子が面接の後、どうやって会社を去ったか記憶にないのですが、たぶんつらいつらい帰り道だった事でしょう。
でも、ダイレクターの言った事はすべて本当だし、その通りだと思います。
きちんとした女の子でした。ものすごく緊張していたのもわかりました。
あの時は、とにかくどこかに就職しなきゃ!って気持ちでいっぱいだったと思うけど、ダイレクターが言った事、あれからだいぶ経った今なら、彼女もその意味がわかっているんじゃないかと思います。
どこかで元気に仕事がんばっているといいなと思います。




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