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BISTRO BOSS コーンスープ

意外と見つけられてないんですけど、どこに売ってるんやろ?あのパッケージが好き!!

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冬の夜は自動販売機に会いたくない。
煌々とした灯りが否応無く視線を誘う。

一度誘いに乗れば私の目は性能が良く大変馬鹿で、BOSSがいるのか、いや違う、冬にだけ優しく人の心と胃袋を温めてくれるBISTRO BOSSがいるのかを、一瞬にして上段から下段へZの軌道でサーチしてしまう。
悪足掻きで上から探す。一番上にはないはずなのだ。中段か下段に二種類、鎮座している。

買いたいのではない。
思い出すきっかけを探す自傷行為だ。
これを買ってくれた人にはもう会うことはない。

たまに会うだけの関係だった。
気持ちを預けることはしてはならないし、求めてもいけないことを知っていた。
結局ちゃんとした食事もすることはなかった、と今思い出した。
だから余計に、忘れられないんだ、BISTRO BOSSのコーンスープ。
あの日。待たせてごめんね、寒かったよねと運転席から声がかかったのは、首に手を当てていた私を見てだろう。
走り始めたかと思えば、ちょっと待ってて、と車を停めて自販機に買いに行ってくれたのがこれだった。

良いパートナーだと思っていた。
彼のことはなにも知らない、けれど信頼していたのだと思う。
ぎりぎりのラインを押して押して限界をどんどん拡げていくことができた。
私も彼の新しい扉を開くことができた。いや、足りなかったのだろう。
捨てられたのだから。

楽しかったこと、優しい言葉をもらったこと、それだけ思い出して幸せをつまみ食いしたいのに、終わってしまった今、思い出のつまみ食いは食べられない骨を味もなくなってるのにしゃぶっているだけだ。
骨も砕いて埋めてしまいたいのに。

未読のラインをいじましく見てしまう。
ドタキャンを詫びる言葉が彼からの最後のメッセージ。私の返信には興味がなし、か。
もうふた月経つよ笑えるダサさだな、と呟く。
指が勝手に目が勝手に、真っ白な時間を忘れられない心が勝手に。


既読になった。
ようやく終われる。
夜中だったけれど、自販機をいくつか回り、BISTRO BOSSのコーンスープを見つける。
よく振って、プルトップを上げて、いただきます。さようなら。



10日後、メッセージが届いた。
おかえり、パートナー。

忘れられるわけが、ないよね。


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