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わたしにとって文章を書くということ

久しぶりに文章や言葉と向き合ってみようと思った。

とにかく書かねば何もはじまらないと思って、まずは短編を書いてみた。

昨年の秋に何代目かの新しいカメラを手に入れて少しづつ撮影しているうちに、創作をまたはじめようと思ったのだ。

正直言うとそう思いはじめたのはフリーランス10年目を迎えた2019年頃からで、今思えば、noteを登録したことが最初のきっかけなのかもしれない。

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普段は広告制作を主にしていて、コンテンツマーケティングにどっぷり浸るような日々の中、noteの記事はライフハック系やデザインのあれこれや仕事のことをおもに書いていた。

かれこれ10年以上AdobeのソフトでグラフィックやWEBや動画の制作をしながらも、「広告は大前提として文章をかけること、言葉を紡ぎ出せる力が重要」と気がついた私は、2016年に宣伝会議のライター養成講座に半年通い、広告のための文章を学んだ。

毎週、表参道の空気に刺激を受けながら通った半年と、文章に真剣に向き合った時間のおかげで自分なりに得るものも多かったと思う。

その1番の収穫は、最後の課題演習制作として、一番会いたいと思っていた作家さんに取材依頼をしたことだ。

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わたしはもともとその女性作家さんの著作のファンだった。

当時、青山に小さな出版社を構えていたその作家さんが自分の故郷である岐阜県に移住を決め、古民家を出版社に改装して再出発したことを知った。

数人のスタッフさんと移住し、畑を近くに借りて、食べるもの・着るものなど生きること全てにおいてサスティナブルなライフスタイルを発信するマガジン制作をしていたことに感銘を受け、ダメもとでご本人に手紙を書き、取材依頼をしたのだ。

するとスタッフの方からメールがあり、翌々週の1日だけ指定日をあげて、「この日にこちらまで来ていただけるようでしたら取材を受けます。」と書いてあった。

わたしはお礼の返事と共に「ご指定いただいた日に伺います。」と書き、その後、取材当日に向けて全てのスケジュールを調整した。

* * *

名古屋から列車に乗り、岐阜の山奥にある出版社へ向かった。

自然豊かな土地の空気を吸いながら、その出版社の2階で憧れの作家さんに対面し、約1時間の取材をする大変貴重な機会をいただいた。

最初緊張して手が震えたけど、あたたかい日が差し込む古民家の和室で次第にそれも薄らいだ。

取材を終えると、その作家さんが「お昼を食べて行って」と誘ってくれて、スタッフさんと一緒に食卓を囲ませてもらったのもとてもありがたかった。

畑でとれた無農薬の野菜を使い、スタッフさんたちが台所にたってみんなで炊事している様子も見れたし、作家さんご本人もおしゃべりしながら一緒に台所に立つ様子がとてもアットホームな雰囲気だった。

帰ってから1週間、わたしは文字通り自室に缶詰になって録音したテープを起こし、卒業制作の原稿を書き上げた。

この時は本当に苦しかった。

自分の表現が追いつかず、それでも取材を受けてくださった感謝と共に、今できる最高のカタチに仕上げるため、自分の仕事が終わってから寝食を忘れるほどのめり込んだ悪銭苦闘の1週間だった。

130名以上いたクラスで卒業制作を提出したのはその半分以下だったような記憶だけど、みんなの作品を読んだりするのもとても刺激になり、貴重な機会だった。

社会人になってデザイナーとして働くわたしにとって、物語を創作するということは、遠い過去の記憶となっていた。

大学で映像制作をしていて、当時シナリオの講座に通ったりシナリオ創作術の本を片っ端から読んで、シナリオや映像のコンペにも何度か作品を提出したこともあったが、そんなこともすっかり記憶の彼方だった。

でも2019年のフリー10年目の節目に、どんな形であれ、"わたしの創作をする必要がある"という想いが沸き、その想いはどんどん強くなった。

そのことが結果的に、今の仕事にもこれからも相乗効果で良いアンサンブルを生み出すこともわかっていたからだ。

「ちゃんと広告や制作と向き合うために、ちゃんと自分の創作をやる。」
当時からそんなことをノートにポツポツと書いていたように思う。

でも、創作をするには時間も体力も必要だ。

ましてや置き去りにしてきたものはあっても、それを具現化するものはわたしには何もなかった。

置き去りにしてきたものを数えだすとキリがなく、自己嫌悪のような考えも浮かんでラチがあかなかった。

途方に暮れたまま、時間だけが淡々と過ぎるような日々が続いた。

ましてや、できない言い訳をすることはとても楽だった。

周りを見れば自分以外の人はみんな順調に見え、SNSで目にする映像や創作はきらきらと輝いて見えた。

わたしが今から表現するものなど、何もないように思えた。

人と比べてしまったらそこで終わりだとわかっているけど、比べずにはいられなかったのだ。

そんなわけで、ライター講座の後、何もかもどこへ向かうのかわからないような霧の中をあるく感覚の数年が過ぎた。

追い討ちをかけるように、相棒で数年一緒に過ごしたミラーレス一眼が壊れ、ますますわたしの視界から言葉も映像も消えた。

そのうちに世界は感染症のパンデミックとなった。

***

今思えば、わたしはふてくされていたんだと思う。

卒業し、社会人になり、色んな事情でやりたいことができなくなり、自分の表現はどこか宙に浮いたまま行くあてもなく彷徨っていた。

何とか折り合いをつけ日々制作と向き合うものの、ごまかしは通用しない。

広告の仕事でもデザインでも、制作時にゼロからイチを生み出すエネルギーは、自分がしっかり自分と繋がっていないと生まれてこないし、繋がれていない限りはそこに良質なコンテンツも表現も存在しない。

模索する日々が続き、外側では順調に見えるも内側ではただただ苦しい日々が続いた。

このまま行った先に何があるのか、全く見えなかった。

でも自己内省を続けるうちに、ある時とてもシンプルな答えに至ったのだ。

ごまかさず、逃げず、周りを言い訳にせず、ただ自分と向き合うしかないんだ、ということに。

一昨年、仕事の動画案件で久しぶりに撮影をしたり、父母の病気などで創作に向き合っていた当時の実家の自分の部屋で数日寝泊まりすることになり、その感覚は一層強まった。

日々の仕事や生活の諸々のタスクをこなす最中、ノートに向き合って自分の考えや気持ちをとにかく綴った。

ふてくされていた自分を許して、自分で手をとって一緒に歩くと決意するまでに数年かかった。

他に誰もいなくても、自分だけは自分の味方でいようと思った。

そして昨年新しいカメラを迎え入れ、ファインダーを覗くとまた胸が躍った。

とにもかくにも小さなことから進めて行こうと意欲が湧いてきたのだ。

視界に入る、見えるモノ全てが、映画のシーンに見える感覚が蘇ってきた。

今できることは限られているけれど、今住んでいる海・山見えるこの土地で、まずは小さな短編を作りたいと思っている。

映像制作の土台は常にシナリオ(やコンテ)であり、シナリオの土台は文章となる。

まさに「はじめに言葉ありき」だ。

そこで、練習もかねて少しづつ文字を書くことにした。

まずは、バレンタイン絡みの短編を書いてみた。

単純に時期だったので自分でお題を決めたのだ。

いきなり始まった物語の創作は手探りだったけど、感覚は少しづつ戻ってきたし、まずは最初は自分の書きたいモノを書きたいように書こうと思う。

続けることが肝心だから、制約をあれこれとつけずにやってみることが大事だと思っている。

モチベーションは大いにあったけど、物語(結果6,000字以上!)を書くには想いが重要で、今回わたしは"たった一人"に向けて書いてみた。

* * *

少し前、友人のお子さんと話す機会があった。

小学校5年生の女の子で、最近学校に行けなくなったとのこと。

お母さんから少しだけお話ししてもらいたいと言われ、わたしはとても嬉しくて、ZOOMで顔を見ながら会話した。

学校のことや日常の話をするうちに、そのチャーミングな女の子は本や小説が好きだと話してくれた。

「どこか行きたいところある?」と聞いたら「本屋に行きたい」と言った。

わたしも本屋さんが大好きだから、なんだかとても嬉しかった。

わたしは何も気の利いたことが言えなかったけど、わたしも学校時代はなんとなく居心地が悪かったし、その子の気持ちがとてもわかった。

でも、まがいなりにも大人として生きてるわたしはどこか頭で考えてしまって、この子に余計なことを言いたくない、傷つけたくないなんてどこかで思ってしまっていた。

だけど、何十年も生きてきて思うのは、"今が全てじゃない"ということだった。

インターネットの時代になってもなお、小学生の子たちにとっては、教室から見えるものが自分の世界の全てのような感覚なんだけど、これから大人になったら色んな世界が広がるし、想像もしないような色んな可能性もある。

たくさんの人や考え方、文化や価値観に出会って、生き方はひとつじゃないと知る。

世界を見ることもできる。

そんな未来を思えば、"今はほんの小さな一瞬の出来事なんだ"ということを、ただ伝えたかったのだ。

その想いを今回の小さな物語に込めた。
たったひとりの、その素敵な女の子に向かって。

伝えたい想いは創作の原点となる。

言葉が文章になり、文章が映像になり、わたしは頭の中でファインダーを覗くような感覚が戻ってきた。

小さな友達に「大人になったら楽しいこといっぱい待ってるよ。」って言える大人でいたいし、ずっとそういられるように、何もない自分、足りない自分のまま、一歩ずつまずは地味にやっていこうと思ってる。

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