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「土曜日はこちら側の鍵が開いていないから、管理人に声をかけてね」
とのぞみさんに言われた通り、マンションの管理人さんに声をかけた。カレー屋で見かけるので面識はある。

最初の頃、ここは女性専用のマンションなのかと尋ねたら
「男性も住んでるわよ。ほら、あそこにも管理人兼警備員が」
目線を辿ると、若い男性がペコッと頭を下げた。その彼だ。

「土日も管理人業務なんですか?大変ですね」
「日曜日は休みですよ。土曜も半日だし、どうしてもという時は替わってもらえるし」

土曜日は締めているという鍵を開けてもらって中へ。ごゆっくり、と管理人さんは持ち場に戻る。管理栄養士で調理師の瀧川さんが、居住者側の入口から入ってもう準備を始めていた。

昨日までの3日間、おやつを含めて何を食べたか記録するのが宿題だった。それを瀧川さんに渡すと、質問票を渡された。食物アレルギーはあるか、食べられない食材はあるか、などに答えている間に、今日のカウンセラーのぞみさんが降りてきた。

「タキさん、準備はどう?」
「大丈夫よ。カウンセリングの間にランチの準備をするわね」
「ではこちらも始めましょうか」

案内された小部屋には、丸テーブルに椅子が3脚。
「どんな位置が話しやすいかしら?この辺かな?」
と少し調整しながら座る位置を決める。確かに、真正面よりは少し斜めの方が話しやすい。

すりガラスから柔らかな日差しが入る。冬でも温かいという窓辺では、観葉植物がすくすく育っている。早くも癒されてしまう。いやいや、癒されに来たんじゃなかった。

「まず、カウンセラーには守秘義務があるので、ここで話した内容は外に漏れることはありません。だから安心して話して下さい。答えたくないことがあったら、答えなくて構いません。
話はまとまっていなくて大丈夫ですし、途中で話題が変わっても全然問題ありません。浮かんだままをお話しして下さいね。ここまでで質問ありますか?」

「ありません。大丈夫です」
申し込む時にも個人情報の管理だとかカウンセリングの限界だとか、色々説明を受けていたから問題ない。
「では始めましょうか。話しやすいところからどうぞ」

なんだかモヤモヤする。
満たされない感じがする。
いつまでも仕事に自信が持てない。
職場の人間関係は良い。でも、それに甘えている気もする。
キャリアは自分で作る時代と言われても、どうしたいのかよくわからない。

(タケちゃん心のモヤモヤ)

「これでだいたい1セッションの時間ですが、話したいと思ったことは話せましたか?」
つらつらと話していたら、50分経っていて心底驚いた。のりこ先輩や友人と話すのも好きだけれど、そういうおしゃべりとは全く違う。

「そう……ですね。なんかあっという間でした。濃いというか」
「何か気づいたこととか、感じたこととかありました?」
「考えすぎかな、とか……考える前に行動しようかな、とかでしょうか」
「それは良かったです。カウンセリングは一度きりでもOKですし、継続もできますのでいつでもどうぞ。じゃ、ランチにしましょうか」

ここからは瀧川さんの出番。
「タキさん、こちら終わりました~」
「はい、出来てますよ。のぞみちゃん、タクミ君を呼んできてくれる?」
「は~い」

テーブル席2つに2人分ずつセットしてある。瀧川さんと同じテーブルについて説明を受ける。
「献立を見せてもらって、食べる物には気を配っているなぁと感じたわ」
「そうですね、小さい頃からあまり身体が強い方ではなかったので、母が色々考えてくれていました」
「それでバランスを心がけているのね。彩りが良いもの」
嬉しい。

「少しだけ、タンパク質を増やしても良いかと思って、こんなメニューにしてみました。あとは食べながらにしましょう」
「美味しそう!いただきます!」
「まず、ピタパンにドライカレー。カレーは試作品なので、今後ここでも出すかも。このポテトサラダには、何が入っていると思う?」
「なんでしょう、少し甘味を感じます」
「茹でた大豆を潰して入れたの。ドライカレーにお肉が入っているから、こっちは畑のお肉ってことで」

付け合わせの野菜は近所の畑から。同じ畑の野菜のスムージーまでついていて、なんともヘルシーなランチ。のぞみさんと“タクミ君”こと管理人さんも合流して、賑やかランチとなった。

このマンションの屋上ではハーブを育てているのだとか。
カウンターに移って食後のハーブティーを頂きながら、まだまだ出てくるこのマンションの秘密に耳を傾ける。なんでも、このカレー屋の反対側には集会室兼トレーニングルームがあって、そこで管理人さんが住人へ体の使い方や動かし方のトレーニングをしているのだそう。

今日は自分の心の内を覗いて、お腹は良いもので満たされて、刺激的な一日だったなぁ。

「のぞみさん、私……趣味のアクセサリー作りをもっと頑張ってみようかなって。突き抜けるぐらいやれば、自信もついて違う世界が見えそうな気がするんです」
「ひょっとしてこれのこと?」
さらりと髪をかきあげたのぞみさんの耳には、私の作品が!

「そのピアス!作っておいてナンですが、私それ大好きだったんです。売れたのは知ってたけど、のぞみさんが買って下さってたなんて!」
「のりこさんが接客してくれたのね。初めてあなた達がここに来てくれた時、なんか見たことがあるなと思っていてね、昨夜ふと思い出したのよ」

「なになに、どういうことなの?」
という瀧川さんに、紫乃さんのカフェでアクセサリーを販売したことを話す。

「やだ、私も見たかったわ。そういうの、好きなの。次はいつ?」
「えっと……今夜、作りためたのを確認して、紫乃さんに空いてる日を聞いてみます!」

「ここで告知もしましょうよ。小さいフライヤーを作ったらカウンターに置けるし」
「オレも什器運ぶのなんかは手伝えますよ」
「わぁ、嬉しいです。沢山作らなくちゃ!」


大豆入りポテサラ

《ひだまり公園シリーズ》
① メンタル収納スペース
② こちら、ひだまり公園前 ~接近~
③ こちら、ひだまり公園前 ~花~
④ こちら、ひだまり公園前 ~隣人~
⑤ こちら、ひだまり公園前 ~ココロ~


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