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今日は、のりこ先輩が休暇を取っている。
紫乃さんのカフェへお弁当を持って行って、そこにいる人たちで和やかにランチタイムを過ごした後、会社に戻る前にちょっとあのカレー屋に寄ってみた。

ランチ営業をしていないのはわかっているのだけれど、いらっしゃるかしらと思ってドアを開けてみる。

あら?と顔を上げた表情は、お姉さんに少し似ているかもしれない。
「こんにちは、タケちゃん。今日は2人、お揃いじゃないのね」
「はい、のりこ先輩はお休みなんです。あの……私、カウンセリングに興味があって」

紫乃さんの妹、のぞみさんは産業カウンセラーだ。キャリアコンサルタントという国家資格も持っている。企業の人事に携わってきたので、その辺の話題にも詳しい。本当はカウンセリングに専念したいのに、退職届を出したら懇願されて、週2~3日はまだ会社勤めをしているそうだ。

「わ、興味を持ってもらえて嬉しいな」

きっかけは、このカレー屋に来るようになって3回目ぐらいの時だった。

「先日、〇〇さんと一緒にいらっしゃいましたね」
と、来店した男性が声をかけられていた。30代ぐらいだろうか。

カウンターで黙々と食べていたようだったが、突然、拳でカウンターを叩いた。グラスの水が揺れる。
「なんだって言うんだ!これだからもう!うるさいっつーんだよ!」
スマホを握りしめる手がわなわなと震えている。

店内は静まり返った。隣ののりこ先輩の顔も凍り付いている。
何か言おうとしたのか常連のおじさんが腰を上げようとした時、すっと影が通った。のぞみさんがその男性の肩にふわっと触れ、でも毅然と
「静かなお部屋へご案内しますね」
とトレーに食べかけのお皿を乗せ、お店の隅にあったドアを開けてその人を誘導した。

「あそこは個室になんですか?」
その日、お店に立っていたユイさんに聞くと
「ああ、あそこはね、レストランの個室みたいなものではなくて、のぞみちゃんがカウンセリングに使ったり、あっちゃんが占いで使ったり」

そして初めて、産業カウンセラーという資格を知ったのだ。“産業”とつくだけあって、働く人と働きたい人が対象だそうだ。っていうか、あっちゃんは占い師なの!?

シンとしていた店内にも会話が戻っていつもの雰囲気になった頃、小部屋の扉からのぞみさんがひょっこり顔を出して
「ユイさん、コーヒー2つお願いできる?」
「のぞみちゃんはカフェオレにしとく?」
「コーヒー牛乳並みでお願い」
「おっけー」

小部屋にコーヒーを持って行ったユイさんが戻ってきて
「チャイに結構エグいスパイスを使ったり、薬臭いハーブティを淹れたりするのに、コーヒーが苦くて飲めないなんておかしいでしょ」
と、ぷぷっと笑い、私達もつられて笑った。

小部屋の反対側にも扉があるそうで、あの男性は店内に戻ることなく帰ったらしい。のぞみさんだけ食器の乗ったトレーを手に戻ってきて、店内のお客さんに謝っていた。

その時に小部屋で何が行われたのかわからない。のぞみさんも多くは語らなかった。そもそもカウンセラーには守秘義務があって、相談内容は裁判所から命令がない限り、外に漏れることはないのだとか。

あの男性のことはともかく、私はカウンセリングというものが気になった。
化粧品を買う時にもカウンセリングなどと言うが、ココロの方はどうなんだろう?私にとって働くということは一体……?

モヤモヤしてきたので、カウンセリングをきちんと受けてみようと思ったのだ。

「そうだ、カウンセリングの後にランチ付きというセットをちょうど考えていたのだけれど、モニターをやってみない?ねぇタキさん、そろそろどうかしら?」

いつもキッチンにいる瀧川さんという管理栄養士さんも、ニコニコして出てきた。
「もしモニターをやってくれたら嬉しいわ。事前に質問に答えてもらって、それに合うものをカウンセリングの間に作れればと思っているの」

「是非、やらせてください!」
なんだかよくわからないまま、私は答えていた。


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