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「なあに、何の話?」
私たちの行きつけになったカフェの店主、紫乃さんが紅茶を運んできてくれた。会社が近くに移転して、本当に嬉しい。
「今、お店探しをしてるんです。この辺、美味しいカレー屋さんってありますか?」

「美味しい……まあ美味しいけど、ちょっと変わったカレー屋ならあるわよ。ここを出てすぐの道を渡って、ほんの少し行ったマンションの1階に。ランチはやっていなくて、夜だけね」
「変わったカレー屋……?どんな風に?」
「それは行ってのお楽しみかな。妹が同級生とやってるから、私に聞いたと言ってもらえれば早いわ」

それならすぐ行ってしまえとばかりに、後輩タケちゃんと私はカフェを出て向かう。
細い道路を横切って、少しだけ公園と反対側へ行った、茶色っぽいタイル貼りの建物の1階、と。本当にここ、お店なんだろうか?

ドアに手をかけると、内側から開いてビックリした。
「いらっしゃい!お客さん……ですよね?」
「えっと……すぐそこのカフェの紫乃さんに聞いてきたのですが……」
妹さんと言っていたから、このおじさんは明らかに違う。まさか同級生!?なわけないか。

「あっちゃん、お客さん!紫乃ちゃんとこから」
「いらっしゃいませ。も~やめてよ。ビックリしちゃうでしょ。ごめんなさいねぇ、常連さんなの。今日のカレーは欧風と“おうち風カレー”です。どちらになさいます?」

じゃあ……と、私は欧風、タケちゃんはおうち風にする。
奥に厨房があって、キッチンをぐるりとカウンターが囲む。2人がけのテーブル席もいくつかある。オフホワイトの壁に白木が映える、ナチュラルな感じが心地よい。

あっちゃんと呼ばれた女性は紫乃さんの妹さんではなかった。私たちが入った入口とは別のところから2人入ってきた。
「あ、きたきた。こちら、のぞみちゃんが紫乃さんの妹ね。で、こっちはユイさん。私たち、中学からの同級生なの」
「あら、姉のカフェから?ありがとうございます。あのおっとりしたヒト、大丈夫でした?」
「いやもう、私たちの癒しの場所になっています。最近会社がこの近くに越してきて、カレー屋がないかと聞いてみたらこちらを教えて頂きまして」

この後が色々驚愕だった。
3人は独身で“このまま独身かもしれないから助け合いながら暮らせるマンションがあったら良くない?”から始まって、共同購入をしていた宝くじがいい感じで当たって、本当に建ててしまったというのだ。なので、皆さんこの上に住んでいる。そういうマンションなのだ。

3人とも会社員で、仕事の後に夜だけのカレー屋をやりたいね、というのも雑談から出てきた話だそうだ。その日にいる人によるメニューという、実にフレキシブルなスタイルで。だから夜だけだったんだ。

「のぞみちゃんがいる日は美味いチャイが飲めるし、ユイさんがいると美味いコーヒーだな。あっちゃんしかいない日はインスタントだから、要注意ね」

さっきのおじさんが口を挟む。
カレー屋の資金が少し足りなくて、クラウドファンディングで募ったのだそうだ。おじさんは、リターンが通い放題という“かなり高額な”出資をしたらしい。

奥の厨房にいる女性も住人で、管理栄養士で調理師なのだとか。
「ここは朝ごはんを食べる所なの。もちろん部屋にもキッチンはあるから部屋で食べてもいいんだけど、楽しいじゃない?田舎から送ってきた果物とか、頂き物のお菓子とか、皆で分けたりしてね。降りてこなかったら、“調子悪いのかな?”なんて気づくし、そういうための食堂なの」

うわぁ~、住みたい!
カレーも美味しくて、食べていたらサラダが出てきた。
「サラダはサービス。今日は近所で畑をやっている人から野菜を頂いたから、ラッキーね」

食後にのぞみさんのチャイを頂いていると、タケちゃんがささやく。
「先輩、メニューがないから金額がわかりませんね……」
確かに、見渡しても書いていない。

「あのぅ、ご馳走様でした。美味しかったです。お会計を……」
「え?姉からの紹介だから今日はいいですよ」
「いやいや、そんなわけには」
「あ、じゃあおじさんのサブスク使えばいいよ。俺、明日・明後日来ないようにするから」
「いやいや、そんなわけにも」
「う~ん、どうしても払うと言うなら、お一人500円ね」

はぁ!?と思いつつも、千円札を置いて出てきた。
「タケちゃん、今日はおごるわ……また来ようね」
「ご馳走様です!では次は私が!……にしても、情報量が多すぎてまだ追いついていませんよ」

確かに、頭がクラクラする。
また来たい。あんなマンションに住みたい。それは確かだ。


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