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ぺこぱが売れると確信した瞬間

2019年のM-1グランプリは歴代最高といっても過言ではないくらい、素晴らしいものだった。この大会がテレビ番組やお笑いに与えた影響はとても大きいだろう。

ぺこぱ、という漫才コンビを知っているだろうか。彼らは2019年のM-1グランプリで3位という輝かしい結果を残して以来、2020年に大ブレイクを果たした。「ノリツッコまない、優しい笑い」を代名詞に多くの人の支持を受けている。ツッコミ担当の松陰寺太勇は全てのツッコミを否定しない「肯定ワード」を武器に、ボケ担当のしゅうぺいは何とも言えない愛されキャラで「しゅうぺいでーす」というボケを連発する。松陰寺の見た目から一見「一発屋」や「キャラ芸人」というレッテルが貼られてそうなものだが、彼らの大ブレイクには確固とした理由がある。

今回は、お茶の間お笑い好き女子大生がぺこぱの2020年の大躍進を確信した瞬間とその理由、そしてなぜぺこぱがここまでブレイクしたのかを考察していきたいと思う。

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そもそもぺこぱブレイクのきっかけとなった2019年のM-1グランプリは、歴代最高レベルといっても良いほどレベルの高い大会であった。出場者は和牛やかまいたち、見取り図のような普段から数々のテレビ番組や舞台に出演し、ネタの完成度も世間からの知名度も折り紙つきの芸人から、ミルクボーイ、すゑひろがりず、ぺこぱのような一般的な知名度こそ追いつかないもののネタの完成度は抜群な芸人まで、漫才No.1を決めるに相応しい猛者揃いだったのだ。

そんな2019年大会、ぺこぱは決勝1回戦においてネタを最後に披露することとなった。ぺこぱが披露するまでには、かまいたちが視聴者や観客の予想通りの素晴らしい漫才を披露し、敗者復活戦から勝ち上がってきた和牛がその期待に答えるような漫才を見せたかと思いきや、ダークホースだったミルクボーイが会場を大いに沸かせ歴代最高得点を記録した。この時点で1位ミルクボーイと2位かまいたちが決勝2回戦進出を決めていた。そして3位の和牛がぺこぱの得点によって決勝2回戦の進出が決まるかどうかという状況である。

私を含め多くの和牛ファン、視聴者はこの時点で和牛の決勝2回戦進出をほぼ確信していたはずだ。何と言っても和牛はそれまでの2016,2017,2018年大会と3年連続2位を獲得しており、大会以前から漫才のクオリティは文句のつけようがないほど高く、評価されていた。かたやぺこぱについてはどうだろうか。もちろん、彼らのことを知っていた人もいただろうし、実力を知っていた人もいただろう。しかし、TVでの露出度やそれに伴う知名度を鑑みた時、やはり和牛に劣ってしまっていた。そして、知名度がないが故に彼らの漫才のネタなども知らない人も多く、結局多くの人が和牛の進出を予想する構図が出来上がってしまった。

しかし、その後の和牛とぺこぱの結果はみなさん周知の通り、ぺこぱの得点がわずかに和牛を超えて、決勝2回戦進出を決めた。そして、ぺこぱが漫才を披露した瞬間「ノリツッコまない」「肯定ツッコミ」という新しい笑いが多くの人を笑わせ、彼らはお茶の間の知名度を一気に得た。

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ここまでが、ぺこぱの2019年M-1決勝戦での快進撃の流れであるが、私が「これは売れる」と思ったのはネタではなく、その後司会や審査員とのやり取りでのことなのである。
M-1グランプリでは、ネタ披露後に必ず司会の今田耕司氏、上戸彩氏とトークを繰り広げる。また、その後に審査員からの講評を聞き、審査員ともいくつかのやり取りを重ねる。

実は、ここが非常に重要なのである。

M-1グランプリは、漫才が1番上手い人を決める場でもあるが、それと同時にこのネタ披露後のわずかな「平場(ネタ以外の部分)」でいかに盛り上げるか、印象に残るかも重要なように見える。ここ最近のバラエティ番組といえば、多くの芸人がネタを披露するような「ネタ番組」よりも芸人たちがいわゆるひな壇に座ってトークを繰り広げたり、ツッコミやボケを振られた際に瞬発的に繰り出すようなことが求められる番組が多い。となると、M-1以降に「ブレイク」を果たすためには、漫才のネタ以外の部分で活躍しなくてはならない場面が自然と多くなってくる。

これにうまく適応できる部分をM-1で見せつけたのがぺこぱである。先ほども書いたが、司会や審査員とのやりとりは、その場での瞬発力が求められる。生放送で一人当たりに与えられる少ない時間で、いかに盛り上げられるかが勝負になるが、それができたのがぺこぱなのだ。彼らのネタ披露後、まずは新しい漫才のスタイルやその奇抜な格好など、そしてネタを披露してみてどんな心境かなどを聞かれていたが、その対応一つ一つがどれをとっても上手いのだ。正直、「この人たちテレビ慣れしすぎじゃない?」と思わされるほどだった。(和牛ファンとして言うのは辛いが、和牛が苦手なように見えるトークやその場でのボケの出し方、ツッコミ、など全てが面白く、うまかった)ネタももちろん最高だったが、それ以上にこの2人のトーク(特にツッコミの松陰寺の対応)は会場の空気を一気に和やかにさせ、それに輪をかけて「この人たちすごい面白いじゃん!」と思わせるようなトークだった。
さらにこれを裏付けるのが、M-1審査員であるナイツの塙さんの大会後での言葉である。塙さん曰く、ネタ披露後、審査員の中の数人はすでにボケのしゅうぺいの変な部分(よくいえば、いじりがいのある天然な部分)をすでに見つけ、いじりたくてウズウズしていた、というのだ。

このようにして、M-1グランオプリ内の2人のあまりにも達者な対応に、和牛ファンとして悔しいながらも私は「あ、これは売れるわ」と思わざるを得なかった。

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2020年のぺこぱの活躍はみなさんご存知の通りである。毎日何かしらのバラエティ番組に出演しており、彼らを見ない日はなかった。

そんな中でも特に私が注目したのが、テレビ朝日で放送されているロンドンハーツやアメトーークへのコンスタントな出演である。いずれの番組もその回のテーマを元に、芸人たちがトークを繰り広げていく形式である。そして、出演している芸人たちはみな猛者ばかりだ。このようなトーク中心の番組に呼ばれるのにはやはり、彼らの達者なトーク力、ボケやツッコミのワードセンス、それらを生かす瞬発力などが評価されてのことだと思われる。まさに、「売れるべくして売れた」のだ。

ぺこぱは、そのブレイクの理由に「優しい笑い」「否定しないツッコミ」「肯定ワード」のようなコンプライアンス、多様性を重視するメディアや社会の流れにうまく乗ったことがよく挙げられる。それも、もちろん一つの理由としてはあるだろう。バラエティ番組を見ていても彼らの誰も傷つけない笑いは見ていて不快にならないし、家族とも安心して見ていられる。だが、それと同時に彼らの高い技術力もそのブレイクに影響を及ぼしているに違いない。「ただ優しい人たち」ではなく、自分たちの武器である新たな形のツッコミやボケを持ち前のセンスと高い技術で生かせる、そんな「優しい上に面白い人たち」だからこそ、ここまでのブレイクを果たしたのだろう。

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と、ここまで実に約2800字強の考察を重ねてきましたが、これはテレビ業界に精通する業界人が書いたものでも、芸能界に詳しい記者やライターが書いたものでもなく「ただのお茶の間お笑い好き女子大生」が勝手な考察を熱意だけでつらつらと書いたものになります。したがって、解釈違いや私の情報の間違いなどありましたら、ご助言いただけますと幸いです。

最後になりますが、2019年のM-1はぺこぱたちだけでなく、他にも多くのドラマや語れる部分がありますので、是非ご覧になって見てください。

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