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暗闇に泣く、落花生。

扉を開けるとそこは、
文字通り真っ暗だった 。


間接照明もない。

一瞬怯んだワタシの手をひいて、
アナタはゆっくり、通路を進む。

マスターがいると思しき
カウンターの手元だけが、
僅かな明かりに照らされていた。

暗闇のなかで察知したのは、
酔いたいオトナたちの氣配と。
まだ最後にしたくないアナタと、


帰りたい、ワタシ。


目が慣れてきてぼんやりと、
アナタの姿もわかるようになったころ。


テーブルには、
勝手に出てきた殻のままの落花生と。
名前のわからない柑橘系のカクテルと、


アナタのソルティドッグ。


塩がまるで雪のように、
天使のリングのふりをして、
グラスの縁に丸くあしらわれていた。


劇薬だ。
と思った。


こんなもの飲む奴は病気だ。
とアナタも、笑った。


落花生の殻入れは出てこない。


殻は床に落とすルールなんだって。


足を動かすたび。
誰かが歩くたび。


パキパキとも、バキバキとも、
くしゃっとも、ぐしゃっとも。
擬音語でどう表現したらいいのか、
わからない音が、
鳴った。

店が終わったあとの片付けで、
マスターはこの殻を掃き集めるのが、
好きらしい。


変わった人だ。













これだけ暗ければ、
心の機微などわからないと、
思っていたのか。


嘘になってしまった言葉の数々が、
この闇に溶けるとでも、
思っていたのか。


都合の悪い現実と、
都合の良い未来を、
アナタが掏り替えようとする度に。


ワタシは足を、組み替える。


落ちた落花生の、殻が泣く。













劇薬を手に入れたその口が溢すのは、
アナタにとっては常套句。
ワタシにとっては眠たい嘘。


今じゃ忘れたけど。













儚く溶ける
天使のリングを載せ、
暗闇に埋没した劇薬。


お行儀が良いとも悪いともつかない
オトナのルールで、
代わりに泣く、落花生。


これ以外に結局何も、
残らなかった夜は。


一人乗り込んだタクシーの背後で、
あのお店の暗闇が、
包むように、呑み込んで。


アナタと一緒に、消えた。














お店の名前は知らない。




どこにあるのかも、知らない。



もう二度と、辿り着けない。




暗闇に溶けた、




バーの話。













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フォローしてくださっているkeiさんから、
『お酒』『バー』に纏わる記事の
リクエストをいただきましたので、
書いてみました!

書いてみたらなんだかビターな
お話になってしまいました…!笑
ご所望と異なっておりましたら
すみませんーゆるしてー笑

リクエストで創作してみるのも、
楽しいものですね♡
機会をいただけたら、
書けそうな題材に限りますが、
ゆるりと書いてみたいですね♡

keiさんありがとうございました(。-人-。)✨



flag *** hana


今日もありがとうございます♡






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