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<東ティモール国際私法の一部について>

1 東ティモールについて

東ティモール(葡:Timor-Leste)は,インドネシアのバリ島から東,スンダ諸島の一番東にあるティモール島(「ティモール」は,「東」とのこと。)の東半分(さらに,LESTEも、「EAST」。)を主な領土とする国です。ポルトガルによる植民地時代,二次大戦前後の各国の占領,二次大戦後のポルトガルからの独立,インドネシアによる占領,国連による暫定統治を経て独立しました。21世紀にできた国,ということになります。

最近は,コンサドーレ札幌,ヴァンフォーレ甲府,湘南ベルマーレ,大分トリニータに在籍していた元U20ブラジル代表のキリノ(2017年現在はアナポリス,ブラジル)が,国籍を取得したことでも話題になりました(なお,アジアの国籍を持っている外国人がいれば,Jリーグでは,出場できる外国人の選手枠が1名増えます。)。そこで,今回は,東ティモールの国際私法の概要、債権、夫婦関係、反致の部分を簡単に見て行こうと思います。

2 東ティモール国の国際私法について

東ティモールには民法があり,2011年に承認され,インドネシア民法に代わり(なお,代わったのはこれよりかなり前です。)施行されました。

東ティモールの民法典は全2195条あり,この民法典の中に,国際私法規定が存在します(外国判決の承認や国際裁判管轄は同国民事手続法にあります。)。

旧宗主国のポルトガルも(EU内での国際私法ルールがあるものの),ポルトガル民法典の中に国際私法規定があるのと類似しており(注1),また,国際私法規定の中身もポルトガル法の影響を受けています(注2,ただしポルトガルは,1967年EU規則等のEUでの国際私法規定やローマ条約等にも加盟しています。)。

3 条文等について

同国民法中,1巻1篇3章「外国人の権利と抵触法」第13条から第62条にあります(注3)。1967年のポルトガル民法も第14条から第65条に国際私法規定があります(改正につき,注4)。

4 債権について

(1)契約債権

規定としては,同国民法第40条1項(例外として2項)で当事者自治を採用しています。なお,東ティモールは日本と同様,国際動産売買条約(CISG)に加盟しています。

指定の無い場合,単独行為の場合は表意者の常居所地法,契約については当事者の共通常居所地法,それがない場合には,①無償行為については受益者の常居所地法②それ以外は締結地法が準拠法となります(同国民法41条)。

(2)法定債権

事務管理は管理者の活動地の法(同国民法第42条),不当利得は利得者の利得する財産価値の移転がなされる法(同国民法第43条)になります。

不法行為(さらに適法行為による損害も含む)は行為地法(不作為の場合は作為すべきであった地の法,同国民法第44条1項)になります。

ただし,損害発生地で有責,行為地で無責の場合,不法行為者に損害発生を予見しなかった場合に不法行為責任が認められます(同国民法第44条2項)。また,当事者の共通本国法及び共通常居所地法の特則があります(同国民法44条3項,日本の通則法20条に少し近いものです。)。

(3)ポルトガル民法との類似性

これらの規定は,1967年ポルトガル民法41条から45条と同じ内容です。

5 親族について

(1)婚前契約および婚姻の実質的要件

婚姻意思の瑕疵や不存在を含め,各当事者の属人法によります(同国民法第48条,属人法は,当事者の本国法(同国民法第30条1項)です。日本と同じルールになります。)

(2)婚姻の形式的要件(方式)

原則は婚姻締結地の法(同国民法第49条)ですが,東ティモール国内の外国人同士の場合,当事者いずれかの本国法により,当該本国の外交官領事の前で(当該本国が管轄を有する場合)することも可能です(同国民法50条1項)。

その他,①国外での東ティモール人と外国人,東ティモール人同士の特則,②①の場合で,教会法によりなされる場合の特則があり(同国民法50条2項,3項),これは1967年ポルトガル民法第51条2項3項と同じです(注4)。

(3)婚姻関係

共通本国法によります(同国民法51条1項,注5)

これがない場合には,共通常居所地法,さらにそれもない場合には最も密接な関係を有する地の法になります(同国民法第51条2項)。これは,日本の通則法25条と同じ構造です(1967年ポルトガル民法も同じです。注4)。

(4)夫婦財産制

婚姻締結当時の当事者の本国法によります(同国民法第52条1項)。共通の国籍がない場合は共通常居所地法となりますが,これもない場合には婚姻後の最初の居住地になる点が特徴的です(同国民法52条2項,注6)

当事者の一方が,東ティモール人である場合には同国民法典の規定を適用することもできます(同国民法第52条3項)

(5)離婚

法定別居(裁判上の別居)と離婚に関しては,夫婦関係のルールが適用されます。日本の通則法27条と同じ構造です(同国民法53条1項)。

ただし,婚姻係属中に準拠法が変更になる(例えば,婚姻時に,夫婦に共通の本国法があったものの,どちらか一方が別の国に帰化したため,共通常居所地法が適用される場合)場合,離婚原因(事実)はその変更当時にあったことのみによる,とされています(同国民法第53条2項)。

6 その他―反致にについて

外国準拠法の指定は,外国実質法であるという原則をうたいつつ(同国民法第15条),第三国への転致(同国民法第16条),東ティモール国への反致(同国民法第17条),反致が認められない場合(同国民法第18条)を定めています。これは,ポルトガル民法第16条から第19条と同じ構造です。

(1)ざっくりいうと,第三国への転地は,

①転致先に事案の管轄がある場合に認められます(同国民法第16条1項)。

②(①の場合で)東ティモールの国際私法規定で属人法が指定され,東ティモール領域内か指定された属人法の管轄内に当事者が常居所を有している場合,転致は認められません(同条2項)。

③ただし,後見,保佐,夫婦財産制,親権、養親子関係,相続の問題に関しては,指定された本国法の所属する国の国際私法規定が,不動産所在地国に転致し,その不動産所在地法国が事案の管轄権を有している場合に,転致が認められます。

(2)東ティモールへの反致は,一般的に認められています(同国民法17条1項,日本国内での反致は,「当事者の本国法のよるべき場合」(通則法41条)ですが,そのような制限はありません。)。

ただし,東ティモールの国際私法規定で属人法が指定される場合,当事者が東ティモール領域内に常居所地を有するか,当事者が常居所を有している国の法が,東ティモール法に管轄を認める場合に反致が認められます(同国民法17条2項)。



注1 1967年の民法典中の国際私法規定における邦訳文献としては,笠原俊宏「国際私法立法総覧」(冨山房,1989年)362頁以下,山内惟介「ポルトガル民法典中の国際私法規定」桑田三郎=山内惟介「ドイツ・オーストリア国際私法立法資料」558頁以下(2000年)。現行の東ティモール民法典,ポルトガル民法典はインターネットで検索可能。

注2 Miguel de Lemos (2015) Timor-Leste. Alejandro In Carballo Leyda ASIAN CONFLICT OF LAWS , Wolters Kluwer ,249-250

注3 前掲 注2,250頁

注4 ただし,ポルトガル民法については,既に述べたとおり,後に準拠法に関する種々の国際条約等に加盟している。また,1967年のポルトガル民法は,その後,婚姻の方式の特則を定める同国民法第51条,婚姻関係を定める第52条,婚前契約及び夫婦財産制を定める第53条,嫡出親子関係を定める第56条,父母と嫡出子との関係を定める57条につき,内容が改正されている。そして,準正,非嫡出親子関係に関する58条,59条は削除され,養親子関係に関する60条,任意認知,準正及び養子縁組に関する61条の内容が改正されている。

注5 日本では,通則法25条の解釈として,二重国籍同志が婚姻するとき,それぞれ,1つの本国法を決定し,それが共通か否かで共通本国法があるかを決めるため,同じ国籍を夫婦が持っていても共通本国法がない場合がある。そうではなくどれか1個でも共通していればよいのか否か,という問題がある。

注6 1967年ポルトガル民法は,共通常居所地法がない場合に,「夫の属人法」としていた(77年に改正され,改正後は東ティモールの上記ルールと同じ。)。

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