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はまぐり随想録(1) 食べること・健やかな食とは

 都会で一人暮らしをしていた学生時代、独学で健康食を探究していた時期がある。

 私が大学へ入学する年に母が国家資格を取って鍼灸師になったのだが、その影響もあって私は東洋医学や食養生など、暮らしの中で病を防ぐ"未病"の考え方に興味が湧いていた時期だった。

 学業の合間を縫ってマクロビオティック料理教室へ通って玄米菜食のレシピを学んだり、野菜の重ね煮料理の合宿に参加したり、当時住んでいたエリアのオーガニック食料品店やオーガニックレストランに足繁く通ったりと、大学の勉強以上に健康食の探求に没頭していたといっても過言ではない。

 家でも玄米を炊き、漬物を作り、肉や乳製品を断ち、砂糖不使用のお菓子なども片っ端から作ってみた。

 そんな日々を送ったある日、ふと気がついた。

 友人たちと焼き鳥屋で楽しくお酒を飲んでいても「肉はあまり食べないようにしないと」と考えていたり、スーパーで食品を裏返して品質表示を確認しては「これは色々入っているから食べれない」と戻したり、さしておいしいとは思えない穀物料理でも無理して食べたりと、食に関して常に神経を尖らせている自分がいることに。

 これは本当に健康な食生活なのだろうか。

 食べるという行為は五感を用いる行為なのに、友だちと楽しみながら食べるその場の雰囲気や、おいしいなと思う味覚や香りや彩りや…そういったものを無視して、頭で考えて我慢したり選択したりしていることは、人間として果たして健やかなのだろうか。

 次第に違和感を覚えていった私は、マクロビや玄米菜食やオーガニックといった健康食からいったん距離を置き、もっと根本的なところから、食べるとは何か、健康とはなにかについて考えはじめた。

(続く)

執筆担当:亀山理子(はまぐり堂スタッフ / ネイティブ・ジャパニーズ探究家)1986年生まれ。早稲田大学教育学部学際コース、エコール辻東京フランス・イタリア料理マスターカレッジ卒。宮城県牡鹿半島の小さな集落・蛤浜に暮らしながら、はまぐり堂スタッフとして料理・広報・執筆などを担当。
【はまぐり随想録】
自身の「食と、生きることの探究」から見えてきたこと・浜で暮らす中で考えたことなどをざっくばらんに綴ります。


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