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第4節「耳をすませば風立ちぬ」

■第4節「耳をすませば風立ちぬ」

義晴は例のパブで待ち合わせをしていた。
待ち合わせの相手は瑞穂だ。
瑞穂の好きなブランドのセールの最終日。
義晴は荷物持ちを手伝わされる。

「まったく、人をなんだと思ってるんだ。」

そんな事を言いながらも、それに付き合う腐れ縁だ。

「今起きた、15分遅れる。」

そうLINEが入った。

「あぁ、なら30〜45分、いや1時間はズレるな。」

そう思いながらも義晴は

「いいよ、ゆっくり🚃」

とLINEを返した。
瑞穂の遅刻はいつもの事だった。
それでもいつも万が一瑞穂が予定通り来たら、と義晴は律儀に時間を守る。
パブのマスターの井浦とスタッフの美兎が「またか」という苦笑を浮かべる。

「すみません、ジンジャーエールおかわりで。」
「あいよ。」
「瑞穂ちゃん、また遅刻ですか?」
「うん。」
「もう慣れちゃってるな。」
「ゆっくり過ごしてくださいね!」
「本でも読んでる。」

義晴はカバンの中から本を一冊取り出した。

「ヨッちゃんと瑞穂ちゃんて付き合ってるの?」

美兎が辛口のジンジャーエールの栓を抜きながら、義晴に聞く。

「いや?どうして?」
「だっていつも一緒だから。」
「いつも一緒だけど、いつも遅刻する人は恋愛対象にはならないよ。」
「手厳しいなぁ。」

手元に寄せられたグラス。
辛口のジンジャーエールが喉越し良く通ってゆく。
今日のMTVで流れているのはボブ・ディランだった。
若い頃のボブ・ディランだった。
“風に吹かれて”
“くよくよするなよ”
数々のラブソングとプロテストソングを従えて、ボブ・ディランは「フォークの貴公子」となった。

「2016年に日和見になるまでは好きだったかな。」

義晴はそんな風に思いながら、MTVを見つめていた。
およそ15分後、瑞穂は現れた。

「ごめん、待たせたね!」
「いや、思ったより早かった。」
「いつも遅刻する女は恋愛対象じゃないんだろ?さ、いこ!」
「アホか。遅刻は遅刻だよ。」

義晴はそう言いながら美兎に目をやった。
美兎は薄笑いを浮かべて俯いた。

「なるほど、リークしてやがったな」
と義晴は思った。

カウンターの上に残ったのはジンジャーエールと本。

「あ、ヨッちゃん、本忘れてるよ。」

“ジブリアニメで哲学する”

「マスター、ヨッちゃん、この本取りに来ますかね?」
「またあの2人は来るさ。ほっとこう。」
「ジブリアニメで哲学するほど、ヨッちゃんも悩んでるんですかね?」
「ふふ、そりゃそうだよ。見りゃ分かるよ。」

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