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超短編小説『ラフメイカー』


高校で僕は笑い声部に入っている。商店街や学校、テレビで聞こえてくる笑い声を録音をして真似をするという部活だ。


部長は僕の二個上の先輩である三年の東城さん。他の部員は僕だけ。


彼女は僕が入学してまもない頃の放課後、僕が友達と談笑している時に突然
───「君には才能がある!」と興奮気味に言ってきた。


その日以来、放課後になると先輩はよく録音をさせろと言ってくるようになった。最初は断ったのだが、何度も頼み込まれるので仕方なくOKしたらいつの間にかそれが習慣になってしまい、いつの間にか笑い声部に入っていた。


そんなわけで毎日僕は僕の笑い声の真似をしている。




「あーっはっはっは」

突然背後から大きな笑い声がしたのでびっくりして振り返るとそこには東城先輩がいた。相変わらずの黒縁眼鏡にポニーテールという出で立ちだ。ちなみに今はお昼休みである。


「……何やってるんですか?」

僕がそう訊ねると先輩は得意げな表情を浮かべた。

「もちろん君の笑い声を録音しに来たんだ」

いつもなら放課後のはずなのにどうしたんだろう。


「じゃあさっそく始めよう」

「え?ここでですか?」

「そうだよ」

「…」

教室の中には他の生徒もいるしちょっと恥ずかしいんだけど…。だがそんな僕の気持ちなど意にも介さず先輩は鞄の中からレコーダーを取り出して机の上に置いた。そして椅子に座ってスタンバイする。


「さぁ!」

うわ~凄くやる気満々だ……。

「分かりました。やりますよ……」

まぁ仕方ないかと思いながら僕は自分の席についてマイクを口に近づけた。

「あーっはっはっは」

よしこれでいいだろうと思って顔を上げると、そこにはニヤリとした笑みを浮かべている先輩の姿があった。


あれ?なんかおかしいぞ?と思った瞬間、先輩がスイッチを入れた。するとスピーカーから僕の笑い声が大音量で流れてきた。っておい!! 慌てて僕はスイッチを切る。

しかし既に遅かったようで教室中に響いていた僕の笑い声を聞いたクラスメイト達は一斉にこちらを見てきた。中にはクスクスと笑う女子生徒達もいた。


くそぅ…恥ずかしくて死にたい気分だった。きっと変な奴だとか思われてるに違いない……。


だが先輩はまったく気にしていない様子で満足そうな顔をしていた。そして言う。
──「やはり君は素晴らしい!私も負けていられないな!」


すると先輩は今流れた笑い声を真似するように笑った。


「あーっはっはっは あーっはっはっは あーっはっはっは」



クラス中が静まり返る。クラス中の視線がこちらに向いている。 けれどもその笑い声は止まらない。


「あーっはっはっは あーっはっはっは」



すると数人がつられて笑い始めた。「あはは」「あはははは」「あはははははは」


やがてそれは大きな笑いへと変わっていった。皆の注目を一身に集めながら先輩は楽しそうに笑っている。


その姿はとても眩しく見えた。
僕もつられて笑ってしまった。「あーっはっはっは」



すると先輩の手が伸びてきて僕の頬に触れた。ひんやりとしていて気持ちいい。そのせいで思わず目を細めてしまう。


ぼやける視界の中に微笑みが見えた。そして先輩は囁いた。



──「それが君の本当の笑顔なんだ。私と一緒にいる時はもっと笑ってくれたまえ」。

そう言って先輩は自分の口角を上げてみせる。


「·····はい」


僕は照れくさくなりながらもそう答えた。




放課後になり、今日もまた録音をする為に部室へと向かった。ドアを開けるとすでに東城先輩がいた。彼女は椅子に座って文庫本を読んでいたがすぐにそれを閉じて机の上に置き僕に向かって言った。
──「待っていたよ!さぁ早速録ろうじゃないか。


おわり


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日ごろから自分の脳の中に在る妄想の一つ、「ふたりきりの部活」
を、おもいつくまま反射的に書き起こしてみました。眠れない夜に布団の中で、靴下半脱ぎのまま、思いついた妄想です。ここまでスクロールしていただきありがとうございました。また妄想してきます。さようなら。

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