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我が家はホラー体験施設

これは私が実際に体験した、金縛りにあった時の話です。

当時の私は木造建築でワンルームのアパートに住んでいました。値段の割には中が広く、いくつかの問題(湿気や日当たり)はあれど気に入っていました。ですが老朽化により取り壊しを余儀なくされ、新しく住む家を探す手間や荷造りの手間、引っ越しにかかる費用のことをとてもストレスに感じていた時期でした。

その日、家に彼女が来ていました。引っ越しのストレスは彼女には見せないようにし、それでも愚痴は聞いてもらいつつ楽しく過ごしていました。

夜、布団の中でふいに体の自由がきかなくなりました。まるで全身が石になったかのように、目を開けることも指一本動かすこともできないのです。金縛りを体感したのは初めてだったのですが、不思議と恐怖は感じませんでした。ただ、体が動かせないという事実を受け入れるので精一杯だったからです。

目を開けられないため暗闇の中なのですが、どうしてか部屋の姿が鮮明に見えているのです。見ているその視線が自分の目から向けられている感覚もありながら第三者の視点でも見ているような不思議な感覚です。声が出そうになりましたが、それもできません。どれくらいの時間だったのかわかりませんが、そのままの状態でしばらく放置されているとだんだん慣れてきて怖さはなくなっていきます。むしろ自分の意思では動かない体を、どこか客観的に見ることに対して楽しさすら感じるようになっていました。

すると急に、玄関の扉の前に誰かがいる気配を感じたんです。最初は気のせいで済ませたかったのですが、明らかに何者かの存在を感じるようになったんです。その感覚がどんどん近づいてきて恐怖に変わるのに時間はかかりませんでした。

玄関の扉がゆっくりと開いていくのが見えました。防犯に疎い私ですが、習慣として彼女が来ているときは鍵を閉めるようにしていました。その日も確実に鍵をかけていたはずなのに。

ついにその人物の姿が見えるほどまでになりました。男と思われるシルエットですが黒い靄がかかっているようでどんな顔をしているのか、どんな服装なのかもわかりません。それとなくですが、ただじっと私の方を向いているということだけはわかっていました。こんな時間に訪れてくる者は、いやそもそも勝手に入ってくるような者がまともな人間なわけがありません。私は自分の身の危険よりも隣で寝ている彼女を守ることを考えていました。

動かない体をどうにかするため必死にもがこうと試みるうちに、自分の体の制御がとれるようになってきました。全身を縛る縄を力づくでほどくような感覚です。腹の底から絞り出すようにしか出ない声も徐々に出せるようになり、やがて狂いだしたかのような叫び声と共に身を起こしました。転がり起きるといったところでしょうか、さながらアクション映画のような、ヒーロー着地のようなポーズでその靄の男の前に飛び出しました。そこには誰もおらず、何事もなかったかのように静まり返っています。ただ横に、当惑して呆然とする彼女がいるだけでした。

その後どうなったかというと、特に何もありませんでした。再び金縛りに合うこともなく、無事に引っ越しも終わりました。あの男はいったい何だったのだろうかとそれだけが気がかりですが、圧倒的ストレスによって起きた睡眠麻痺の中で見た夢だと解釈しています。

友人たちには「俺は自力で金縛りを解いた」と触れ回っていますが、もしあのまま金縛りにあっていたら……。 今となっては確かめようのないことですが、もしもまた金縛りにあったとして再びあの靄の男と対峙することがあれば、ぎりぎりまで奴を引き付けてから解きたいと思っています。



ここからは私の、死生観ならぬホラー観を書き残したいと思います。ホラーと言いますと映画だったりイラストだったりのエンタメに近い物を思い浮かべると思いますが、今回話すのは幽霊または霊的現象に対する私の見解です。それを今回は「ホラー観」とします。

まず前提として(結論にあたると思いますが)、幽霊は存在すると思います。


存在すると断言できないのは、実際に見たことがないからです。私のこのいるかもという可能性には、いてほしいという願望が含まれています。確かに怖いかもしれない、危ないイメージもある、それでもやっぱり居たほうが楽しいじゃないですか。宇宙人より信憑性のあるエンタメだと思っています。

幽霊に会いたいとさえ思っています。だからといって自分から求めに行くような挑戦者ではありません。心霊スポットは絶対に行かないし、コックリさんだったり、ブラッディメアリーがどうとかも絶対にしません。自分から会いに行った幽霊が親切にしてくれるわけないですもの。きっと幽霊側も「うっわ、またかよ。怨だわ~呪呪呪」と迷惑がるに違いありません。

この世のいたるところに幽霊はいると思いますが、彼らが幽霊として存在する理由はいったい何なのか気になりますよね。強い恨みが消し切れないのか、自分探しの途中なのか、はたまた誰かを探してさまよい続けているのか。幽霊に寿命はあるのか、全員がまずは幽霊になるのか、浮遊はできるのか、食事は、トイレは、髪のケアは、幽霊本人には聞きたいことが山ほどあります。

私が幽霊に会いたいと思うのは、怖さを感じたいわけではなく、その存在自体に興味があるからなのです。




それでは最後に、理想の幽霊との出会い方を聞いてください。


まず幽霊から手紙が届きます。

「あなたに一目ぼれしてしまいました。幽霊となった身です。今宵二時に伺います。勝手を許してください。窓から入ります」

私はこれを信じて待ちます。部屋を暗くして。

そして深夜二時、この時期には考えられないような冷気を感じ、彼女が来たことを確信します。あ、幽霊は女性です。彼女はいきなり姿を現さず、窓をたたく音で存在を知らせます。こんこんこんこんこん。五回のノックの音に私は返事をします。

「どうぞ」

優しくこたえたいのですが、なんせ寒さが特別なので口が震えてしまい、歯がかちかちと鳴る音も出てしまいます。彼女のひとことめは、

「ごめんなさい」

私は急いで手元のパーカーを着ます。

「いいえ、大丈夫ですよ。そうですよね、周囲の気温が下がるのを忘れていました。シックスセンスで覚えた知識だったのに」

私の言葉に彼女は嬉しそうに答えた。

「メイキング映像で監督さんがおっしゃってましたね」と。

私は思ってもみなかった返事にすこし気分が高まりし、彼女に質問します。

「あの、もしかして、映画好きですか?」

彼女の両手は落ち着かない様子で、下のほうで何度も手を組み直していたが、私の質問を聞くやいなや別の落ち着きのなさを見せた。

「はい!すごく好きです!洋画ばっかり見てて、生前はネットフリックスでドラマも見てたり、実はマーベル映画とかアクションも好きで!あと、あ、ごめんなさい。そこまで聞いてないですよね」

そうして恥ずかしそうにくしゃっと笑う彼女。彼女は少しイ・ユミに似ている。





可愛いいいいいいいいい~~~!!


しあわせ~~~ そうして話が盛り上がり、彼女が小さく深呼吸して話し出した。

「あの、○○さんは私に今日初めて会ったのであの、いきなりでごめんなさいなんですけど、ごめんなさいなんですけどって言い方変ですよね、死んじゃった時にどこかぶつけちゃったのかな、へへ」




可愛いいいいいいいいい~~~!!



にやけそうになる私だったが、その後に見せた彼女の真剣な表情に答えるようにキリッとした顔を見せる。

「○○さん!初めて会ったとき一目ぼれしました。そして今日こうやって話せたのがすごく嬉しくてすごく楽しかったです。あの、良かったら私、あなたに憑かせてください!

目をギュッとつぶり頭を下げる彼女は猫背。両手は脚の間に挟んで、どんだけ小さくなるんだよってくすっと笑いそうになった。

私は答える。

「ええと、僕でよかったら」

顔を上げた彼女はにやにや顔で、それでいて嬉しそうだとすぐにわかるくらい唇を噛んでいた。

この時間がすごく恥ずかしい。けれど新しい未来を感じられる大切な時間だった。






ということですけど、なんか文句あります?想像してた理想と違ったって?
しかたないでしょ。会うんなら美少女の幽霊がいいんだしさ。

そんで私がほかの女性と話していると、真横で口を尖がらせてフンッとした顔で両手を組んでるんですよ。その彼女は私にしか見えてないんですね~。けれどイタズラはできるようで、その女性の靴ひもをほどくイタズラをします。


可愛いね~~~~


ということで終わりますけど、いつかは皆さんの理想の幽霊との出合い方も聞かせてくださいね。それではおやすみなさい。さようなら

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