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演劇人の才能を知る

※写真は「みんフォト」から拝借。本文とは関係ありません

 私はつかこうへい事務所の舞台は解散前にギリギリ滑り込んだ世代だ。

 大学入試に失敗した高校卒業時の春、高田馬場・東芸劇場の「寝取られ宗介」が初観劇。萩原流行さんの熱演が観客席にも憑依したような熱気があって、すっかり当てられてしまった。きっかけは、父の知り合いの編集者さんがゲスト出演していたご縁から。サラリーマンが連日舞台に立っちゃっていたのだから、かなりすごい。なんでも、その期間は担当の作家さんを高田馬場に呼び寄せて打合せするまでしていたとか。

 つかこうへい事務所は、その年の紀伊國屋ホール「蒲田行進曲」で解散。浪人中だった私だが、この公演も観ることができた。同じ予備校で浪人していた高校時代の友人を誘ったもので、こいつには「誘ってくれたから、つかこうへいの最後の舞台を観ることができたよ」と後々まで感謝された。

 時間がいっぱいあったはずなのに、大学時代はあまり舞台を追わなかった。

 大人気になっていた「第三舞台」は確かに熱気ある公演だったが、「結局はギャグが面白いだけ。ドリフターズのコントと同じだろう」と冷めた目でとらえていた。

 社会人の駆け出し当初は「自転車キンクリート」を数回観に行った。当時付き合っていた女性が主宰者の友人だったもので、確かに才能の迸りが感じられた。

 ここからが本題。

 先日読んだ根本宗子の小説「今、出来る、精一杯。」が素晴らしかった。劇団「月刊『根本宗子』」を主宰している方で、小説はこれが第一作というのが信じられない。

 バイト先に集まっている、方向が違う面倒臭さを抱えた人間たちが、1章ずつ独白する構成。それぞれのその面倒臭さが抉り出されるヒリヒリとした苦痛を味わう快感。息を詰めながら全員を応援することになる。一気読みだった。

 あっという間に読了させる面白さは立派なエンタメでもあるが、やはり直木賞ではなく、芥川賞に分類されるべきなのだろう。これを候補にしなかったら、賞の意義を疑ってしまうわ。

 最近では「劇団、本谷有希子」を主宰する本谷有希子さんが芥川賞を獲得している。私は受賞作「異類婚姻譚」は未読だが、中編2作を収めた「あなたにオススメの」で繰り広げられる、やっぱりヒリヒリする心理描写は素晴らしかった。

 演劇の世界の方による傑作たちを読んでいると、「人間を捉えて描く」という才能にとって、演劇や小説といった形式の違いは問題にならないことがよくわかる。

 あ、つかこうへいさんは直木賞、唐十郎さんは芥川賞か。舞台と文芸の親和性なんて、何をいまさら、ですね。
(22/6/13)

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