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愛を知らないAI人間

私はアセクシャル(無性愛者)だ。
故に、『他人に恋をする』という感情がよくわかっていない。

最近、やっと自分のこの性質に『アセクシャル』という名がついていることを知り、一定数の人間が自分のようであることに安堵した。しかし、それまでは周りにそんな人いなかったので、とにかく隠すのに必死だった。

異常だと思われたくない。

今でこそ『個性』が命の職業をしているので、嫌味だろうが「変わっている」はそこそこ褒め言葉だが、当時は逸脱すればするほど周りから人が離れて行く恐怖感に駆られた。
年頃になれば誰に教えられたわけでもなく、女子たちは好きな相手の話で盛り上がる。教室の隅、放課後のマクドナルド、どこかにつけてキャアキャアと語り出すのだ。なんなんだ、誰がかっこいいから付き合いたいとか、誰が誰と付き合っているとか。特に後者は他人の恋愛話じゃないか、なぜそんなにも盛り上がれるんだ?もっと哲学の話とかのほうが、人生に直結していて面白そうじゃないか?それか、好きなカップヌードルの味について熱く討論を交わしたいよ、私は。
しかし、盛り上がっている集団に水を差すのは至難の技であり、同時に人間関係が消失がする危険性が潜んでいる。孤独になりたくない。友達作り下手くそ人間の私は、奇跡的にできた友人失いたくない一心で嘘を吐き続けた。周りの人間たちにも、自分自身にも。


さて、人間界から逸脱しないために私はどうしたのか。簡単な話である。

データをかき集め、『恋愛感情』を錬成するのだ。

恋愛に関する感情も経験も0なら、もう生み出すしかない。私は嫌というほど聞いた友人たちの恋愛トークや少女漫画、テレビドラマ、音楽などから恋愛に関する情報を集める。そこから『普通』と呼ばれる感情を学ぶのだ。


片思い相手から『好きだ』と言われたら涙を流しながら答える。

ただし、相手が自分といると不幸になると思ったら無理に笑って断る。

なんとも思っていなかった相手が自分以外の異性と話していたらもやもやしたら恋を自覚し、

告白して振られたら泣き顔を洗って「綺麗になってやる」と呟く。

しかし、綺麗になって思惑通り相手から迫られても、気軽に答えてはいけない。

あとメールの返信はすぐにしちゃダメで、会いたくて会いたくて震えることもある。


……とまあ、膨大なデータから一通りの感情を学んだら、次は恋愛対象者を選ぶ。
人間、相手の顔だけで好きになることもあれば、中身に惹かれて恋をすることもあるという。好きになりすぎると、『なぜ好きになったか』さえわからない場合もあるらしい。こうなると、対象者を選ぶだけでも一苦労である。
私自身、人間自体は好きだし、性格の良い人は尊敬している。顔の好みもある。男性だったら綾野剛さんみたいな顔が好きだし、女性だったら橋本環奈ちゃん一択だ。ただ、私の性別は女で、性自認も女。だから、この場合の日本社会的『普通』は男性に恋することだろう。
それを踏まえ、身近な存在から顔面以外にも内面も魅力的な『良い人』を必死で探し出す。

そんな生贄のような対象者をなんとか見つけ出すと、次は『私はこの人のことが好きである』と思い込むのだ。自分は相手に恋をしている。『好き』とはこういうものだ、と。
そして、周りの友人との恋愛トークで恥ずかしそうにその作り上げた思いを披露するのだ。顔が蛇みたいでかっこいいの。どんな人にも優しいから好きなの。「もちこの恋バナ聞かせて〜!」は隠れキリシタンの踏み絵のそれに等しいが、このようになんとかして乗り切れば、私は友人グループから島流しの刑にされることなく平穏な日々を過ごすことが許された。



「ほぼAIじゃん」

そんな過去があったことを話すと、親友は的確なツッコミ、もとい感想を漏らした。
言われてみれば、データベースから感情や経験、行動を生成するのはもう人工知能に等しい。そうか。こと恋愛に関して、私はヒト型AIなのか。

恋愛を知らないAI人間である私は、聞いたことのないパターンの恋愛話にはいまだにフリーズし、バグりそうな頭で懸命に感情をインプットしようとする。
早く人間になりたい。無理に『普通』に擬態する必要のない、カップヌードルの好きな味の話だけして楽しめる人間に。

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