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「風」の歌を聴け 〜 トラウマはとっとと癒やして、次行きましょう

「ポリヴェーガル理論」について初めて聞いた時、「めいそう神経」=「瞑想神経」ね、と勘違いしてしまった。正しくは、「迷走神経」。

脳の延髄というところから、背骨に沿って伸びている自律神経。
このうち、交感神経というのは、「闘うか、逃げるか」で目の前の危機に反応する神経。

対して、副交感神経というのは、リラックスしたり、安心安全を感知した時に働く神経。

この副交感神経が、実は2種類あるよ、てゆうのがポリヴェーガル理論の骨子。
それまで、副交感神経が働くと、心拍はおだやかになり、健康によいとされてきた。
ところが、同じ副交感神経でも、脈拍が下がりすぎ、ほとんど仮死状態に近い状態になる働きが見つかって、どうゆうこと?と。

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この理論を提唱したS.W.Porges博士は、生命の進化の歴史を徹底的に調べまくり、ある結論に達した。
魚類から、爬虫類までの生物が発達させたのが「背側迷走神経」。
そして、人類を含め哺乳類以降で進化したのが「腹側迷走神経」。

背側(はいそく)が働くと、消化・吸収の働きが促進され、休息モードに入る。
また、生命の危険にさらされると、もはや「闘うか、逃げるか」では対処できないと察知し、自動的に「フリーズ」する働きも持っている。いわゆる「死んだふり」というやつ

腹側(ふくそく)が働くと、自分ひとりではなく「誰かといっしょ」にリラックスしたい、というつながりモードに入る。

交感神経や背側迷走神経が、子宮にいる間すでに準備されてるのに対し、腹側迷走神経は赤ちゃんでは未完成で、成長に応じて少しずつ育まれていく。
これはどうしてかというと、腹側迷走神経だけは、個体が単独で発達させるのではなく、仲間とのつながりでできあがるものだから。

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最古の哺乳類といわれるアデロバシレウス。彼らは恐竜の時代から、仲間内にしか聞こえない声でコミュニケーションをとっていた。
実は、声帯を震わすノドの筋肉も、特定の周波数の音を拾って聞き取れるようにチューニングしている耳の筋肉も、腹側迷走神経が支配している。

敵にさとられず、仲間とつながるための声。
同じ種同士が、特定の周波数でコミュニケーションをとること。
このことを可能にしたのが、腹側迷走神経、というわけだ。

ノドや耳以外のパーツでは、顔の表情、飲み込む時(嚥下)の筋肉、首の筋肉、胸部にある胸腺などが、腹側迷走神経の複合体として、連携して動いている。

たとえば、おだやかに微笑みながら金切り声をあげる、これは難しい。
相手の方に顔を向けず、うなづきもせず、会話を行うとどういうメッセージが伝わるか?きっと相手は「話を聞いてもらえていない」と認識するだろう。

このように、コミュニケーションにかかわる機能を仕切っている神経だからこそ、集団で生きているわたしたちにとって非常に重要、ということだ。


さて、ここまで勉強してきて、わたしはあるひとつの考えに至った。

ヨガや瞑想は、ひとりひとりの迷走神経が整い、「闘いでも逃走でもない」おだやかな神経回路につながるツールだ。それに、右脳言語としての「音楽」を足すと
 =自分に満足し、リラックスしたまま、人とつながる
ことが可能になる。

音楽は、わたしたちにとってなにか?と問うと
「自分を心地よくするもの」
「元気をくれるもの」
「希望を与えるもの」
などの答えが浮かぶが、人の声帯を通して届けられる音楽は、実は「人と人とのつながり」を形にしたものだ、と言い換えることができる。

音楽を通してわたしたちは、「ひとりではない」というメッセージを受け取る。同じ歌、同じ声に反応する人同士が、目に見えない連帯感でつながる。

「敵か、味方か?」

複雑なコミュニケーションを発達させてきた人間同士が、仲間を見分けるのに無意識に活用してきた方法が、「」による聞き分けではないだろうか?


さて、ここからは私的な考察。

2021/9/4に日産スタジアムで行われた、藤井風の無料オンラインライブを見た。最大で17万人以上が視聴したライブ。
いま藤井風の音楽は、なぜこんなに必要とされるのか。どうしてあの声が、鼓膜を震わせ、わたしたちの心に響くのか。

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彼のプロフィールを見ると、4人きょうだいの末っ子とある。
実家は喫茶店を営み、働く父母を身近に見て育った。
おそらく末っ子ということで、きょうだいやお客さん達からも可愛がられ、人との密接なつながりや、あたたかさを存分に感じて育ったと想像できる。

泣いても笑っても、ありのまま人に愛される経験を重ね、人といる安心安全感を知っている彼は、「腹側迷走神経」を存分に発達させてきたといえる。たとえ外部からのストレスや、内面の葛藤に直面しても、最終的に「もっとも安心できる自分自身」に戻ってくることができる。自分ひとりで難しいときは、他者に助けを求めることができる。

このような安定型のタイプは、自分の穏やかさを周りに伝播することができる。たくさんのメトロノームを使った実験で、バラバラだったリズムが最終的にひとつのリズムに収束する、という「同期現象」が見られることがあるが、彼の声にも、バラバラにささくれ立った人の心を、穏やかなゾーンに導く力があるのでは、と感じる。

2021年風の時代の人類は、「ストレス」に立ち向かうことをやめ、「トラウマ」に引きこもることも捨て、「つながり」の中でおだやかに、ゆるやかに生きていこう。そんなメッセージ性のある藤井風の歌声から、今日も耳を離せない。


※参考図書
「今ここ 神経系エクササイズ」浅井咲子著 梨の木舎
「ポリヴェーガル理論を読む からだ・こころ・社会」津田真人著 星和書店

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