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【極薄科学】死ぬほど薄いシートを作った話

最近、かんなで木を薄く削っている映像を見た。気持ち良いくらいに薄くスライスされた木片は、薄いものでは木の繊維だけ削れているように見えてしまう。世界で一番薄くスライスされた木片シートは2ミクロンという厚みらしく、これは一万円札(100ミクロン)よりもずっと薄い。イメージとしてはスケスケで、向こう側が丸見えになっている感じだろうか。

私はかつて、その厚みに負けないほど薄い金属シートを作ろうとしたことがあった。それもミクロンの千分の一スケールであるナノの世界への挑戦だ。作り方は端折らせてもらうけれども、市販されている薬品・器材さえ揃えれば作ることができる方法だ。

試しにガラスの上に作ってみたシートは金属であるにも関わらず、見た目はまったく無色透明だった。薄すぎて光の反射量が少なすぎるためだろうか、見た目はただのガラスと変わりなく、隣に同じガラスを並べてみると全然区別がつかなかった。そこで、手に持って見る角度を変えてみると、あるところで薄いピンク色をしていることが分かり、どうやら金属シートができているらしいということが分かった。

金属というと、一般には銀色でメタリックな光沢を放つイメージがあるかもしれない。が、それは金属の集合体としての特徴に過ぎない。ここからは、義務教育では教えてくれない物理のガチで面白いところだ。金属をものすごく薄くしたり、原子レベルでバラバラにしてやると、その金属本来の色が浮かび上がってくるのだ。

例えば、金貨に使われている金は原子サイズまで小さくすると本来の黄金色から赤・紫へと変化していく(絵を描く方や陶器を創る方にとっては、この金を絵具として使うのが馴染み深いかもしれない)。その理由は、りんごが赤く見えるのと同様、金が赤い光をより強く反射するためだ。こうなると、貴金属としての価値は失われてしまうけれど、科学的興味の対象としての価値は高いので、現在科学者による金の研究がひそかに進んでいる。

さて、特殊な方法で厚みを測ってみると、10ナノメートル(=1ミクロンの100分の1)のフラットな金属シートができていることが分かった。一般に使われている金箔が100ナノメートルなのだから、それのまた10分の1だ。想像を絶するほどに薄かった。ガラスの上にくっついていなければ、そよ風でも飛ばされてしまうだろう(目には見えないけど)。

しかしながら、ナノテクの極地はこんなものではない。世の中には厚みが原子1個分しかないグラフェンシートというものが存在する。鉛筆の芯の原料であるグラファイトは一冊の本のように何枚もの紙が重なりあったような構造をしていて、そのうちの1枚をペリッとはがしたものがグラフェンシートと呼ばれている。つまり、グラフェンシートというのは炭素原子1個分の厚みを持ったシートということだ。しかも、このグラフェンシートはダイヤモンドよりも物理的に引っ張りに強く、電気的特性も素晴らしいという興味深い性質がある。

そのことを考えると、どんな特性があるかも分からない金属シートを作った私はまだまだだな・・・としょんぼりしてしまった。

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