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摩擦係数ゼロの求人広告表現

前回、求人広告にセンスはいるの?いらねえの?いるよなぁーっ!という無敵のマイキーみたいな問いかけをnoteにしたためました。

で、その記事でぼくは何よりセンスが古くなっちゃうのが嫌で、と書いたんですね。ほこりっぽい、くすんだ色のセンスだったらないほうがマシである、と。

実際にはどんな表現が古いセンスのダサい表現にあたるんだろうか、とぼんやり考えていたところ、たまたま自分とこの会社で採用の話があり、求人広告を出すことになりまして。いきがかり上、ディレクションをするわけです。

ディレクションする以上は掲載媒体の現状を、ということで新聞でいうところの読朝毎御三家にあたるリクナビネクスト・マイナビ転職・dodaに掲載されている求人広告をさらっと閲覧しました。

するとどうでしょう、あるわあるわ、こんな手垢のついた表現まだ使ってるの?

こんなんじゃ、そりゃ中途半端な人材系ライターもどきに「こんな求人広告はブラックだ!」みたいな記事を書かれてアフィの収入源にされるわなあ、と絶望的に。

とはいえ落ち込んでいても仕方がないので、今回は久しぶりに求人広告制作の技術的な話として、もうやめよう!摩擦係数ゼロの広告表現をテーマにお送りします。

ご応募お待ちしてます

いきなりで面食らった方もいらっしゃるかもしれません。でも、ぼく、いまから25年前に求人広告の世界に戻ってきた時からずっと思ってるし、言い続けてきたことです。

当たり前だろ?

求人広告出してんだからご応募お待ちしてるのなんて、わざわざ言う必要あるか?そりゃインタビューか何かで社長なり人事採用担当なりが口にするなら問題ないわ。

でも限られた広告スペースでなんでこんなわかりきった、しかも言われてもなんの感想も浮かばないツルッツルの言葉を使わにゃならんのよ。

この10文字分使ってもっと求職者に有益な情報を渡しなさいよ、と思います。

わきあいあい/アットホーム

営業が撮影してきた画像が手元に届く。おそらく撮影時に一生懸命現場を盛り上げたんだろう。そこに映し出されている人たちは男女全員満面の笑顔である。

するとあなたは恐ろしいことに、キャプションにこの6文字を入れたくなるのである。

わきあいあい

あるいはわきあいあいと入力したときうっかり漢字変換されて「和気藹々」なんていう葛餅みたいな字面を目にしてしまい、ぶんぶんと首を横に振りながらこう書くかもしれない。

アットホーム

どちらの言葉も摩擦係数ゼロだ。わきあいあいというひらがな6文字を見て、ああこの会社はすごく人間関係がいいんだなと好意的に解釈する人間など皆無である。アットホームも同様。

人材ではなく人財

これはその会社の代表の方針で…みたいなダルいシチュエーションだったりすることも少なくないケースです。

そうして、その会社の人財たちはみな一様に財産扱いされているとは思えないほど疲弊しているものです。あるいは上役の顔色ばっかり窺って戦々恐々としていたり。

一応、丁寧に説得してみるんですよね。

なるほど人材を人財と!材料ではなく財産であると!おっしゃる通り素晴らしい理念です。ただ残念なことに内向きの理念は外にいるうちはジブンゴトとして捉えづらいものです。入社後に洗の…いやすみません、マインドセットされるのは大いに結構なんですが、入社前のコミュニケーションとしては、ええ、あまりおすすめできな(ガチャ!ツーツーツー)

みたいなことも日常茶飯事。あまりにも高圧的にゴリ押しされる時など「うちのシステム当て字で入力すると文字化けするんすよ」とかわせたらどれだけよいか、とため息をついたものです。

いま思ったんだけど、ほんとにそういうプログラムを組んだらいいのに。ついでに誤字脱字ミスタイプの類もエラーかアラート出す仕組み。もういい加減できるでしょ。ITだのAIだののチカラはそういうところに使わんと。

実力を正当に評価

これもつい、そう言われたから、と書いてしまいがちなフレーズです。しかし読み手の立場から考えてみたいです。

実力を正当に評価って、何を持ってして正当と言ってるんでしょう。評価者のモノサシと被評価者のモノサシが必ずしも一致しているわけじゃないですよね。

しかも求職者も転職理由によっては「いまそんなきついこと言われても…」みたいなメンタルかもしれない。職場で疲弊しきっていて、少しでも刺激を与えると泣き出すニトログリセリンのような精神状態であることを考慮する必要もあるよね。

仮にそこまで凹んでなくても、見ず知らずの会社の人が評価に値する実力が果たして自分にあるのかなんてわかんないものです。

夢に向かって頑張ろう

夢とか笑顔とか感動といった甘いフレーズほど、求人広告というステージで滑る言葉もありません。意味の無力化、無重力化と言ってもいい。要するに中身のないペラッペラな表現です。

事業として感動を追求したり、笑顔を創出するとか、夢を叶えるというのはいいと思うんです。

それが雇用関係、労使の関係に持ち込まれると一気に嘘くさくなる。嘘くさいというか何も意味をなさない。結果、こういうフレーズを使う求人広告はブラックだ、なんて言われてしまうのです。せっかくいい会社だとしても。

先ほども言いましたが、夢に向かって頑張ろうと言われて「よおし!俺も夢に向かって頑張るゾイ!」なんて気持ちにならないですし、逆になる人はその会社に決して採用されないと思います。

となると、このフレーズは一体なんのためにあるのよ?


いかがでしたか?摩擦係数ゼロの求人広告表現たち。ここにあげたケースは全て、この言葉を使わずに表現する工夫と努力を必要としています。

言わずして、言う。

違う言葉を探すもよし、アプローチを変えてみるのもまた一興。

会社の沿革を紹介することでアットホームさを表現するとか、評価制度の中身を紹介することで実力が正当に評価されるんだなと感じさせるとか。

そのアイデアにこそ価値がある。求人広告クリエイターの存在意義があると思います。

かんたんな、手垢のついた、誰でもわかる表現でいっちょ上がりにできるのが求人広告です。だけどその中でどれだけもがき足掻くかによって質の高い採用成功体験を創ることができるのもまた、求人広告なのです。

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