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MY FIRST TOKIO

いまさらコクってもなにも出てきませんが、ぼくはれっきとした名古屋人です。しかし34年前に東京都北区神谷という街で第二の人生がはじまった、とおもっています。

そしてスタート地点が東京都北区神谷だったばかりに、第二の人生が思い通りにならなかったこと、あらぬ方向にむいてしまったことがたくさんある、とかんじています。

他責?ああそうさ、そうおもうならそうおもえばいいさ。

これは地方出身者にしかわからないかも知れないのですが、上京後、最初に住む街によってその後の人生はずいぶん変わるのではないか。そこには厳然たる街ヒエラルキーが存在しているのではないか、と本気で考えています。

そこには現代社会の抱える闇、格差社会の萌芽のようなものが見え隠れしている、といったらいささか言い過ぎでしょうか。もはや学術的な研究対象として取り上げてもいいのではないか。ところで萌芽ってどういう意味?

と、いうことで今回は徹頭徹尾独断と偏見で『上京後、最初に住む街』について無責任な発言を述べていきたいとおもうのであります。あくまで偏見ですのであしからず。

下北沢

30年ぐらい前は売れない役者、売れないミュージシャン(非フォーク系)、売れない作家の卵が朝まで安酒を飲んで吐瀉物を本多劇場脇、あるいは食品市場近辺に配置する、という風情のある街でした。

しかし近年になってこの街をTOKYOキャリアのスタートにするローカルヤングが急増。渋谷・新宿へのアクセスも便利な上に「山手線内側には魔物が棲んでいる」という都市伝説を信じる東北地方出身者にもちょうどいいロケーションがここ下北沢なのです。

彼らがシモキタの空気を吸うことでセンスを磨き、カタカナ職業人として恵比寿、代官山方面へと旅立っていくケースが目立ちます。ちなみに京王線沿線には上北沢という双子のような駅がありますが、そちらはこれといって取り上げるネタのない地味な街です。あるとすれば秋の奇祭「かみきたホイ」ぐらいですかね。

タウンカースト指数:☆☆☆☆

中央線沿線

駅名に「寺」がついた街で暮らしはじめると一生「寺」から抜けられない、というまるで暴走族みたいな風習がありますが、たぶん事実でしょう。それぐらいこのエリアでTOKYOキャリアをはじめると腰が座ります

なんというか街全体に漂うまったり感。あえて犬か猫かでいえば圧倒的猫フィール。まるでプジョーの足回りのようです。どの駅にも必ずといっていいほどカリッカリに痩せたロン毛の男がフォークギターを持ってウロウロ。そして無農薬野菜しかうけつけないのになぜか小太りなノーメイク女子も。ロン毛と女子はつがいだったりします。

しかしそうした生息者たちにも大学3年の半ばあたりから変化があらわれます。ロン毛はGIジョーのようなカットに。ギターはメルカリで売っぱらいます。無農薬はCANMAKEのいちばん安いコスメを買い求め、会社訪問であった嫌なことを忘れるべく鳥貴族でハイボールを煽るようになります。そしてつがいだったふたりが安アパートでの同棲を解消するころ、内定が出ます。

しかし男も女も中央線沿線からは決して離れようとしません。彼らは社会に出ると乗り慣れた中央線で新宿駅を目指し、西新宿の超高層ビル群に吸い込まれていく実にコンサバな人生を送ることになります。

タウンカースト指数:☆☆☆

池袋エリア

憧れの山手線内でアパートを探しはじめたものの、現実的な着地点として選ばれるのがこのエリア。IWGPと聞いてハルク・ホーガンのアックスボンバーによるアントニオ猪木の失神KOシーンをおもいだす世代は池袋に住む資格がありません。池袋ウェストゲートパークが第一想起される層こそ、この街にふさわしいといえましょう。

ただし池袋のアドレスが得られるのはひと握りのノーメンクラツーラのみ。ほとんどの被支配階級はよくて要町あたりをチョイスします。しかしこの要町、池袋にシマを持つ本職のヤサが多数点在し、なかなか静かに物騒です。そのせいか早くこの街をでるために手に職をつけるべく池袋西一番街の居酒屋に骨を埋める若者が後を絶ちません。

また東急ハンズや西武百貨店を擁する東口に比べて『ふくろ祭り』で賑わう西口北口界隈はどことなく暗く、地の果て感がいなめません。とくに地元で『GEOタワー』の名で通る線路沿いのマンションには複数の風俗店とともに例の要町在住の本職が通うオフィスもあることから、素人が容易に立ち入ることを許しません。

しかし本職の猛威も千川、小竹向原のあたりまでくると薄まり、手頃な家賃のアパートやワンルームマンションが多いことから、日芸の学生たちが入学後ただちに同棲をはじめやすいエリアとして重宝がられています。

タウンカースト指数:☆☆

赤羽エリア

うっかり赤羽、十条、東十条あたりに安アパートを借りてしまうと、自分は果たして本当に上京したのだろうか、ここは東京なのか、という錯覚に陥りやすい体質となります。

まず夕方になるとどこからともなくやってくる大量のコウモリに空を覆われてしまいます。コウモリはふだんどこにいるのかわかりませんが、筆者の知る限りでは幸田シャーミン「スーパーターイム」とナレーションするあたりから派手になり、あたりが暗闇に包まれる頃には消えてしまいます。

そして夜が暗い。さすがに赤羽駅前や商店街、十条銀座、東十条銀座あたりは照明が機能していますが、ちょいと脇に逸れた瞬間に漆黒の闇に包まれることでしょう。上十条5丁目の北端に位置するやたら坂の多いあたりなど、うっかり深夜に訪れると映画『八つ墓村』のロケ地とみまごう荘厳なたたずまいで迎えてくれます。

なぜわざわざ花の都大東京まできたのに、それまで住んでいた地方都市となんら変わらぬ街にいるのか。住みやすさを求めるならそもそも実家なんか出るんじゃなかった。ここで花の都大東京ライフをスタートさせたヤングはちょっと凹むことがあるとすぐに後悔し、最終的には帰省してしまいます

タウンカースト指数:☆

足立・葛飾・江戸川・江東エリア

隅田川を境に東側に位置するこれらのエリアは東京玄人、東京通の聖地。よほどのことがない限りファーストチョイスの対象外となります。が、万が一あやまって初手から居を構えてしまった場合、その境遇をポジティブに受け入れるしかありません。

四ツ木のあたりの迷路のように入り組んだ路地で「イシャはどこだ」などと言えるようになれば、立派な下町スト。もしかすると心の奥底に封印していたガロ的な感性を起動させることができれば、あるいはパラダイスかもしれません。しかしデジタル・ネイティブの令和ヤングはどうでしょう。いまひとつ馴染まないような気がします。

また錦糸町や亀戸など下町風情がいい感じに残っている、といえば聞こえはいいですが、想像以上にスターバックスが見当たらなかったり、昼過ぎから飲酒している人口が多かったり。駅前に佇むパチンコ・サウナ・焼き肉の三点セットがある意味、街の性格を決定づけているといっても過言ではありません。

木場や深川に安アパートを借りてしまったヤングは、町中にあふれる人情味と世話好きのご近所さんに絡め取られてカタカナ職業に憧れて上京したことなどすっかり忘れてしまいます。そして鳶や棟梁、漆塗師といったやたら漢字画数の多い職人への道を歩みはじめるのです。

タウンカースト指数:前略おふくろ様

千駄ヶ谷

ここはかの村上春樹さんが作家デビューする前にジャズ喫茶『ピーターキャット』を開くとともに居住していたことで有名です。そのせいか、日本全国、いや世界各国からハルキストがやってきます。

それ以外にもホープ軒があるので日本全国、いや世界各国からラーメンマニアがやってきます。それ以外にも国立競技場があるので日本全国、いや世界各国からアスリートがやってきます。オリンピックやるなら。

それ以外にもガチャマン景気で一時代を築いた繊維大手イトキンの本社があるので、あのすばらしい好景気をもう一度…と夢見るアパレルゾンビが日本全国、いや世界各国からやってきます。やってくるか?

タウンカースト指数:やれやれ

■ ■ ■

と、いうわけで、どこの街で東京をはじめるか、という問題は単に家賃や駅からの距離、築年数だけで考えるべきではないことがおわかりいただけたでしょうか。

もしあなたのご子息ご令嬢が「東京へ行くんだ!」などという夢幻の如く発言をした際にはこのタウンカーストとSUUMOを見せながら「仕送りとバイト代あわせても、シモキタは無理だろう?わざわざ東京まで行って西一番街の居酒屋の店員になるのか?お前に鳶職や漆塗師になる根性はあるのか?ああん?」と愛ある説教をかまして地方の人口流出を食い止めてください。

え?何?オレの子どもがどこに住もうが何になろうがお前には関係ないだろうって?おっしゃる通りです。すいませんでした。

BGMはフランク永井で『有楽町で逢いましょう』でした!

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