見出し画像

なんでもかんでも結論から先に言わなくてもよいのではないか

20代前半をすっとこどっこいコピーライターとして、そして後半をフィリピンパブ狂いの居酒屋店長として、文字通り無駄に過ごしたわたしはひょんなことからネット求人専業ベンチャー(当時)で30代のスタートを切った。

そこではそれまでの10年間では得られなかった「ビジネス」という世界のしきたりというか、お作法のようなものをイチから学んでいった。

当時、広報担当だったワイエス氏はぼくのことを「ハヤカワさんはウチの会社で社会人になったんだからね」と、それがさも自分の手柄であるかのように言った。

その恩着せがましさを差し引いても、確かに海のものとも山のものともしれない自分をよく一人前の職業人として扱ってくれたものだ。感謝しかありません。

もちろん設立から500日ちょいで上場するような会社である。ハードワークにつぐハードワーク。しかも出自が関西ということもあり、独特の価値観が跋扈していた。現場は常に炎上していたのである。

入社したての頃に参加させられたある会議での報告風景では

「……以上により、今後の数字は伸びていくものと思います」
「…なんやと?」
「え?ですので今後数字が伸びると思いま…」
「おんどりゃあ伸びると思うやないわボケェ!伸ばすんじゃあ!」
「ハ、ハイッ!伸びます!伸ばします!」

本宮ひろ志の漫画かよ。しかも怒鳴られているのはぼくの直属の上司で闇金ウシジマくんのような恐ろしい男なのだ。ウシジマくんが小さくなっている姿をあなたは見たことがあるか?

しかもこのやりとりは金曜日の夜中の11時に繰り広げられているのだ。アホでも学びますわな。


数え切れないほどたくさんある学びの中で、もっともインパクトがあったもの。それが上司への報告の際「結論から先に言え」である。

だいたいそれまで報連相すら知らなかったわたしだ。知っていたとしてもおそらく(チッ、ガキじゃねえんだからいちいちなんでも上役にチクってられっかよ…)というアホバカ丸出しの反骨心で無視していたことだろう。

しかしその会社では上司への報告・連絡・相談は仕事におけるキング・オブ・マスト。なおかつ報告したり連絡したり相談したりするお相手は、例のウシジマくんである。

わたしは動物的勘で上手いことやるしかない、と睨んだ。

そこで編み出したのが生贄作戦。わたしの部署は制作部で、わたしはのちにそこの部署の総元締めとなり、部員数も最大170名を数えるまでになるのだが、入社当時はたった3名でわたし以外は未経験者ばかりというお粗末な代物であった。

わたしはさっそく最も末っ子のボーヤにどうでもいい用事をいいつけて、ウシジマくんのもとへ報告に行かせることにした。

ちなみにこのボーヤはわたしのスパルタンな扱きで白髪になった、という逸話の持ち主である。しかしそれでもあきらめずに喰らいついてきた根性者でもある。いまでは業界でも珍しいロングトレイルライターとしてネパールやら北米やら東海道自然歩道などを歩き、書き、生活している。

「あ、あの…」
「あ!?」
「い、いえ、やっぱいいです」
「いいですってことはないやろがお前…」
「はいすみません、あの、あの」
「なんや?」
「実はハヤカワさんから頼まれてですね」
「ハヤカワちゃんがどないした?」
「あのですね、ええとこないだ上野さんが…」
「クォラァ貴様ッ!結論から言えッ!」
「ひ、ヒィイイイ!!」
「はよ結論から言わんかいッ!」
「いい、いいです、もう!許してください」
「アカン!お前ちょっとこっち来い!!」

なるほど、そういうことか。とわたしはこのときウシジマくんに髪の毛を引っ張られながら喫煙所へ連行される部下の後ろ姿を見て上司への報告のなんたるかを会得したのであった。


結論から先に言う。

これはいうまでもなくビジネスマナーの中でも基本中の基本であろう。ちなみにGoogleで「報告は結論から」というワードで検索してみてほしい。

約 24,800,000 件の検索結果中、最上位に来るサイトは『地方公務員.com』である。どんなSEOかましているんだろうか。つよつよサイトだ。

そしてここにはこう記載されている。

上司に対する報告は必ず結論から伝えるべきだと思います。
なぜなら、結論は絶対に必要な情報だからです。経緯だけ説明しても、『結論は何?』と言われてしまいますよね。
特に、上司が業務を詳しく理解している場合は、結論を伝えるだけで解決できる場合も少なくありません。無駄な時間を消費することなく最短で解決することができます。
『地方公務員.com』より引用

たしかに、ウシジマくんは常に忙しい。そしてほぼいつもイライラしている。なぜなら彼はウシジマくんだからだ。そんなウシジマ上司を怒らせないためにも結論を最初に報告すべきなのだ。

さらに

報告は結論から伝えることで時短することできますが、結論から伝えた方が良いもうひとつの理由として、経緯から報告すると言い訳に聞こえてしまうという点があります。
報告を受けた上司は、『(失敗などを)言いづらいから後回しにする=言い訳はいいから早く結論を言えよ』という風に感じてしまうわけです。
言い訳は非常に印象が悪く、『誠意が無い』『責任感が無い』と捉えられてしまいますので、意識してやめた方が良いです。
『地方公務員.com』より引用

なるほど確かに順を追って経緯から説明するとウシジマくんの心証が悪くなりそうである。

このように、報告を結論から、というビジネスマナーはひとえに上司に対する印象をよくするために存在するのだ。そのことがわかってからというものの、わたしはひたすら結論から先に報告する人間としてビジネス街道をひた走ってきた。

そして会社は上場し、部下は増え、部署は大きくなり、リーマンショックがあり、リストラをし、部署異動し、東日本大震災があり、いろいろあって、いやんなって辞めた。

その間、ずっと結論から先に報告してきた。だいたい15勝35敗、勝率でいうと30%ぐらいか。引き分けはなかったような気がする。


そしていまわたしは激烈なビジネス環境から身を引き、渋谷の神泉で文字通り霞を喰って生きるみたいな余生を過ごしている。

転職先の会社は特に結論から先に報告をしなくていい文化で、入社当初は戸惑うと同時にヤングがダラダラと経緯から報告しているのを見て「ちょwwwおまwwww結論はよwwww」と渋谷ベンチャーテイストで指摘をしたがどうも全体的にゆるいというか、ぜんぜん問題ないのだ。経営者も特にそれを求めていないようである。

さてそうなると滑稽なのは俺?という感覚にとらわれるからにんげんって面白いよね。

それどころか結論から先の呪縛から逃れると、なんとなく別の視点での考えが頭に浮かぶ。

たしかに結論から報告を徹底していると効率はいいだろう。わかりやすい。しかし早く結論がわかると人間、あまりその先というか、その元などに意識がいきにくくなるのではないだろうか。

いま、どうにも社会が痩せてきている理由のひとつに、なんでもかんでもわかりやすくする文化があるとにらんでいる。離乳食みたいなものばかり食べていると歯が退化したり、消化器が脆弱になったりするのと同じではないか、と。

その原因に手を貸しているのが、結論から報告の罠なのではないか。なんでもかんでも結論から報告せよということがわかりやすさ優先の社会をつくり、コミュニケーションから彩りをなくしているのではないかと思うのであります。

うわ、すごい強引…と思ったあなた!

そうですね、わたしも若干、強引だなと思っています。ただ、ときには部下の報告を経緯から順を追って聞いてみるのもいいんじゃないでしょうか。頭の中で、部下が語る状況や場面をひとつずつ想像しながら、理解しつつ、待ち受ける結論に心の耳を傾ける。悪くないと思いますけどね。

逆に結論だけ聞いてプロセスを見ずに誤った判断をしている経営者や幹部、その他えらいヒトたちが会社や社会を間違った方向に誘導してるんじゃないか、ぐらいの批判的精神を併せ持つのも、こんな時代には良いのではないでしょうか。

メリークリスマス、Mr.Lawrence!

この記事が参加している募集

#転職してよかったこと

5,964件

#仕事について話そう

110,014件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?