広告表現だけでなく、採用手法まで考える
求人広告制作関係者にのみ向けて書いている当note。今回という今回ほど求人広告制作関係者のみ感満点なものもありません。あらかじめお断りしておきます。
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求人広告の制作を続けていると、どこかでなんとなくピークアウトっぽいときがきます。
硬軟いずれの案件も経験した。採用難易度の高い募集も、そうでないものも。クリエイティブを発揮した広告もつくった。効果が見込めている場合は流すことも覚えた。
何人か「自己流」を伝授した弟子もできた。ひと通り求人広告の作り方を体系立てて教えられるようにもなった。競合媒体のクオリティを見て、まだまだだな…なんて評価が下せるまでのものさしが自分の中に生まれた。
そんなある日。
ふと「もういいかな…」とか「これ以上はないかな…」なんて思う。
それも、もう限界!とか、これ以上無理!みたいな叫びではなくて。好々爺が己の天寿をまっとうするときの如く穏やかな心境。
そこまで来たら求人広告クリエイターとしては寿命なのか。
ぼくはそんなことはないと思います。
それどころか、そこからが本番です。
広告制作に飽きたら試合開始ですよ
いったん自分の中でコピーライティングを「やり切った」と感じたら、次はもっと上流から考えることをはじめましょう。そもそも媒体への掲載がベストなのか。他の手法とミックスすべきではないか。その際の露出ごとの表現は統合したほうがいいのか、部分最適化がベターなのか。
あるいはPR記事やタイアップ記事を作り、そこから採用情報への導線を引いてみる。インディード+無料掲載LPにWantedly、さらに自社ブログで点から線、線から面でコミュニケーションの設計をしてみる。
ブログを定期更新するリソースがない、というクライアントの声は本当か。定期更新しやすいフォーマットや編集機能を提案してみたらどうか。あるいはインセンティブ設計をするとか。
緊急度あるいは重要度および難易度が高い職種の場合、広告宣伝費と合算して集中的にリアルメディアに投下することも考えたっていい。
いつぞやのエンジニア募集のポスターを採用ターゲットが在職している企業の最寄り駅に貼る、というゲリラ広告が話題になりましたが、ああいうことだってもっと増えていいはず。
年間採用予算のリ・デザインを事業部長や採用責任者と膝つきで議論するのもいいじゃないか。
いくらでも考えることがありますよね。
しかも、いったん求人媒体で完成した、と思い込んでいる自分自身のクリエイティブを話の流れでぜんぜん違う場所に置くことになったとき。きっと自分の表現の耐久性や持久力が想像以上にないことに愕然とするでしょう。
「あれ?俺ぜんぜんダメじゃん」
少なくともぼくは愕然としましたね。
求人媒体とフリースペースを行ったり来たりすること。表現の舞台にとどまらずもっともっと上流からフリーハンドで思考すること。これらの取り組みが、求人広告制作者としてのキャリアをもう一歩先の場所まで連れて行ってくれます。
考えられることはもっとある
そこまでいけばそのクライアントの組織図まで踏み込んでトップと話をするべき。どの部署のどの職種を採用するのになにがボトルネックになっているのか。もしかしたら採用をいくら増やしても、マネジメントが機能していなくて定着しない、というような課題があるかもしれません。
これだと蛇口をいくらひねってバケツに水を注いでも、底に穴が開いているのと同じ。そう、採用広告で入口をつくったら今度は定着のための施策に知恵を絞る必要がでてきます。
課題によっては全社にまたがる場合もあり、そうなると経営理念がワークしているか、といった観点でのディスカッションが求められます。その結果、ミッション・ビジョン・バリューをリニューアルする、という仕事につながることも。
このように求人広告制作、特に企画を含めたコピーライティングをつきつめていくと、ゴールだと思った地点が終わりではなくむしろ横にも縦にも領域が広がるスタートになります。何も言えないです、夏でも冬でも。
でも広げた先でも成果を出したいのなら、まんなかにコアなスキルとしてコピーライティングを持ち続けることが肝要。コピーの仕事というのは書かなくなったらおしまいです。書かないと、書けなくなります。これは間違いありません。
コピーの書けない、あるいは下手くそなコピーライターあがりの採用ブランディングディレクター(便宜上そういう職種名にしています)の言うことなんて、説得力ないですよね。
どんなロジックを組み立てて土台をしっかりした採用ブランディングを打ち立てても、最後にクリエイティブマジックがないなんて。そんなんだったら代わりのそれっぽい輩がひと山いくらでいっぱいいますよ。
なにがあってもペンを置くな
ですから、もういいかなと筆を置くのではなく、常にペンは握り続けていきましょう。管理だけ、クオリティチェックだけを仕事にしないように。コピーの管理をする者がコピーを書かないでどうすんだ。
会社組織は個人を見てピークアウトだなと判断すると「別の経験を積ませて成長させよう」「そうすることで会社の成長にも貢献させよう」とご厚意でスキルやキャリアを分断しにかかります。これ、個人的にはよくないなあ、と思います。
なぜなら会社の成長と個人のキャリア形成は基本的に異なるものだから。競争戦略の専門家である楠木建先生の著作にもこう書いてあります。
会社の事業と個人のキャリアはまるで異なる。組織か個人か。目標が客観的で明確なのか(事業の場合は長期利益)、それとも主観的で抽象的なのか(個人のキャリアの場合は「やりがい」「達成感」「幸せ」)。さまざまな次元で本質的な違いがある。
(すべては「好き嫌い」から始まる/楠木建 著 文藝春秋 刊 P106より引用)
新卒で入社して長らく在籍していると、ムリクリな異動でもしばらくは新鮮だったり場面転換によってほどよくやりがいを感じられます。が、長い目で見るとマイナスのほうが大きいというのがぼくの持論。
スキルのピボットはあくまでセンターキャリアに軸足を置いたまま行なうべきです。もちろん自分の意志での異動やキャリアチェンジは大いにアリです。かくいうぼくもキャリアの途中、しかも最も重要な25歳から30歳までの5年間も居酒屋に寄り道していましたからね。
ただ、あんまりおすすめはしないです。ぼくの場合は本当に運に恵まれて戻ってこれただけ。しかも流れにまかせて戻るという鮭みたいなかんじで、なんの苦労も努力もしていません。もし苦労や努力が必要だとしたら居酒屋店長のままキャリアをスライドさせたでしょう。
と、いうことで全国の求人広告制作関係者のみんなたち。まずは「もういいか…」と思えるところまで夢中になって突き進んでください。そしてその後にこそ、本当の採用コミュニケーションの仕事のコクがあります。その時のために勉強と研鑽を積んでいきましょう。
決してペンを置かないように。
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