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10年かかるところを1年でやれ、という経営者がいる限り

キャリア採用というものがあります。いわゆる中途採用のことを指すのですが、この枠にも大きく2つの潮流がありまして。

ひとつは未経験者にも広く門戸を開いているもの。営業職や販売接客職の募集でよくあるパターンです。そしてもうひとつは経験者に限って募集するというもの。主に技術者がその対象になります。

求人広告の世界では上流が顧客だとすると、川上から『経験者募集』がどんぶらこ、とおりてきて営業担当者のもとでなぜか『未経験者募集』にすりかわります。しかしさらに川下にくだり実際に取材したり原稿をつくる段になると「その仕事内容は未経験者には無理だろう」という至極まっとうな理由から再び『経験者募集』に戻る。

すると営業担当が血相をかえて『未経験者募集』に変えようとする。作り手もなんとか『経験者募集』に戻そうとふんばる。丁々発止のやりとりののち、訴求内容やメッセージ、仕事内容は経験者向けのマニアックなものなのに、応募資格欄だけ、あるいは検索フラグは未経験者歓迎という非常にいびつな求人広告ができあがります。

なぜこんなことになるのか。

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これは非常に悩ましいところではあるのですが、構造上の問題をはらんでおりまして。ひとつには営業の注視するポイントがPVと応募数だからということがあげられます。

もちろん書類通過数や率、面接通過数や率などの歩留まりも気にはします。しかしそれらの数値はすべて入り口であるPVと応募数の大きさによって決まると考えられているのですね。さらに応募数が少ないとクライアントに怒られる。いちばんわかりやすい指標なわけです。

受注前にややオーバートーク気味に「応募来ますよ!いい人採れますよ!」とウタっていた以上、想定する応募数がこないとノイローゼになる。それがあまりに続くと、とにかく一人でもいい、採用されなくてもいいから応募来てほしい、とここに至ってノイローゼがイノローゼに進化するわけ。

求人広告営業のみなさんは日々、こうした悩ましい状況と戦っているわけです。本当にご苦労さまです。

そしてさらに恐ろしいことにクライアント側も掲載前までは「経験者以外いらないよ。母集団形成よりピンポイント採用。たった一人の応募でいいんだ。その一人がドンピシャならね」とか言ってたくせに、掲載一週間目で応募ゼロだったりすると「どうなってんの?応募ぜんぜん来ないじゃん!原稿直せよ、いまからすぐ!」と、サクッと宗旨変えなさいます。

これが嫌でリスクヘッジのために経験者募集を無理矢理でも未経験者募集に変えようとする営業の気持ちもわかる。わかるんだけど、そんな意味のないことを繰り返していると疲弊するよね。

わかってて意味のないことをやり続けていると、心底いやんなっちゃうでしょ。でも上記のようなことは多かれ少なかれあちこちの求人広告の現場で起きているんですよ。そのレベルの低さを嘆く、嘆かないということは一旦横においておいて。

だから求人広告という産業がいまひとつ社会のインフラにならないんですよね。景気にあっという間に左右されてしまう。なくてもいい産業扱い。

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このまま結論に向かうとまるで営業とクライアントが悪者でディレクター含めた作り手側の人間が正義、みたいになって不公平です。なのできちんと制作サイドのアカンところにも言及します。構造上ということは当然、作り手側にも課題と問題が存在するのです。

制作側に足りないのは情熱と行動力ですね。

どう考えても経験者募集をすることが正しいとおもえる案件で、母集団形成できなくともピンポイントで採用できる可能性がある求人広告を作ったら。営業がどう言おうがクライアントが宗旨変えしようが貫けよ、とおもうんです。そのために動けよ、足使えよと。

営業が目の前のめんどくさいことを避けようとしてるんなら、まずは言葉を尽くして説得。それでも動かないならあなたには迷惑かけないから、と断って、制作マンが責任者ですと言いつつクライアントのところへ原稿を持っていく。そしてその場でリスクについてもしっかりと説明する。

掲載開始後もフォローしながら、お互いに踏ん張る。スカウトなどのオプションがあるならサポートする。それぐらいやんないと経験者なんか採れないよということをクライアントと営業にわかってもらうアクションをすればいいんです。

ここまで踏み込んではじめて仕事といえるんじゃないか、とぼくはおもいます。それをやらないで文句ばかり言っててもなにも変わらないし、はじまらない。この文章は求人広告制作関係者にのみ向けて書いているのでハッキリいいますけど、これを読んでる求人広告制作関係のあなた、ぜーったい心当たりあるでしょ?

心当たりある!っておもったあなたが明日からアクションを変えることが、求人広告の未来を変えることになるとおもうんですよね。そう考えると、なんかワクワクしませんか?ぼくはします。

なに?そんな動きをすると利益が削られるからおとなしくしてろって上司に言われる?そんな会社すぐ辞めたほうがいいです。いずれその会社はなくなります。たとえ存在していたとしたって、中身はボロボロです。

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書いてるうちに筆がすべって、もともと書こうとおもっていた内容と大きく違ってしまったので、おまけみたいに本来書こうとおもっていたテーマを以下に綴ります。

ぼくはネット求人広告の会社に入れてもらうまで、求人広告1.5年、商品広告3.5年のコピーライター経験を持っていました。さらにそこから居酒屋店長の経験を5年。水商売の経験は求人広告づくりに大いに役に立ったので入社した時点で都合10年の経験値を持っていたわけです。

ある日、その会社のトップがぼくに言いました。新卒がお前ぐらい書けるようになるのにどれぐらいかかるのか、と。

ぼくは「10年、と言いたいですが、ぼく高卒だし、新卒はみんないい大学出てますから、5年ぐらいですかね」と答えました。

すると驚いたことに「そんなに時間をかけてはいけないヨ」という主旨のことをかなり強めの言葉でおっしゃるじゃないですか。

ぼくは背中で汗をかきつつ「では優秀なヤツを数人選抜してがんばって3年で…」と答えたのですが、これがよくなかった。

トップは「1年で君と同じレベルにしようネ」という主旨のことをほぼ罵詈雑言のような表現でおっしゃるんですね。

さらに「クリエイティブは営業より下位の存在であるのでいい気になってはいけないゾ」「ブラックボックス化してお山の大将になってはいけないんだヨ」という主旨の講話をほぼ恫喝のようなトンマナでなさってくださいました。ありがたいお話です。感謝しかありません。

でも、これと同じ現象ってクリエイティブの現場のあちこちで起きてますよね。

「タダで」も「誰でもできるようにしろ」もおなじ思想。他人が蓄積してきた時間は有料であり、その人のものなんです。その前提がない。

中途入社の技術者が入社時点で持っている能力は、すべてその会社以外の会社が投資してくれたおかげで身に付いたものです。なんならその会社は入社者の前職の会社にお金を払ってもいいぐらい。

そして、その価値を正当に評価する力がないから、応募資格欄の求めるスキルと給与支給額がまったくアンバランスな世界になり、そして今日も経験者募集はピンポイントですら人材を集めることができず、クライアントは怒りのはけ口を担当営業マンにぶつけ、営業マンは青い顔をして「だから未経験者歓迎フラグを立てとけばよかったのに…」とノイローゼになり、制作マンは深い悲しみの底に沈むのでありました。

おい、そんなとこに沈んでる場合じゃないぜ。立ち上がってせめてファイティングポーズぐらいとろうよ。求人広告制作マンのみんなたち。


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