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社員インタビューは広告か、編集記事か

どっちでもええやん!
という声が聞こえてくる(それも確実に)テーマでお送りします。

コロナ禍で増えた仕事のひとつに、社員インタビューがあります。

社員インタビューというのは主に採用を目的に、企業のコーポレートサイトや採用ページ、Wantedlyなどのゆるやか求人メディアに掲載されるインタビュー記事です。

目的が明確でありつつも登場するのがほぼ無名の人なので、キャスティングの時点からライティングに至るまでちょっとしたコツがいるんですね。

これが増えた。ほんと増えた。めちゃくちゃ増えた。スタートアップから中堅どころ、果ては老舗の商社や物流企業まで。

どうしてこんなに依頼が増えたのかな?と考えてみました。

ぼくの能力とは無関係

このインタビューニーズの勃興がぼくの能力によるものであれば鼻の穴を広げてホクホクしてればいいんですけど、残念ながらそうではないです。

そもそもインタビュー記事は得意じゃないし、上手いなあ俺とか思ったこともありません。どちらかというと苦手なジャンルの仕事。

人の話を聞くのは好きですし、結構いろいろ引き出す自信あります。でも書くのがしんどい。インタビュー後にいつも思うのは、これで仕事が終わるならどんだけいいことだろうか、と。

とにかくテープ起こしから先がツラくて仕方がない。そんな人間のところにわざわざ依頼が殺到するわけないだろう。

でも実際にはかなりの案件が来ていて、オファーを捌ききれずに腕の立つ後輩にお願いすることも増えてきました。何社かは泣く泣くお断りしたり、スケジュールがあわずに代替日程を出したらそのまま音沙汰なくなったクライアントもいらっしゃいます。本当にごめんなさい。

こんな俺のところにまでオーダーがたくさん来るということはつまり、世の中にたくさんのニーズがあるってわけ。なぜなんだろうか。

きっかけはコロナから

いつからこんなに増えたんだっけ?と回想すると2020年の秋ごろからでした。コロナ禍が全国規模になり、たくさんの人を一箇所に集めるのが難しくなりました。つまり会社説明会の類ができなくなったわけです。

それどころか面談すらもリモート化が急速に浸透。オフィスに行けない、社員にも会えない。求職者が受け取る情報量はコロナ前の10分の1,いやそれ以上に減ってしまったといえるでしょう。知らんけど。

しかし、企業が求職者に情報発信したいというニーズはなくなりません。同時に新卒・中途問わず求職者が会社のできるだけ生っぽい声を知りたい欲求も引き続きなくなることがありません。

さらにさらに、コロナの少し前からですが採用手段のメインストリームは求人広告から人材紹介へ移行しつつありました。

求人企業(になりかわってクリエイター)が知恵を絞って自社の魅力をアピールしていた広告モデルから、基本的にクリエイティブ要素皆無な求人票+キャリアコンサルタントの口八丁モデルに変わってしまった。

求職者はおのずと応募先企業のコーポレートサイトや採用ページを頼りに色つきの情報収集に走ることになります。

それが、社員インタビューのニーズ増加を後押ししているんじゃないだろうか。たぶん間違いないと思うんですよね。

求職者からすればいちばん知りたい情報は「で、ぶっちゃけどうなんですかおたくの会社」ということ。本来なら活躍中の社員さんに新橋のガード下かなんかで一杯やりながら愚痴のひとつもご開陳してほしいところ。

そこまでじゃなくとも、そこで働く社員の声には触れたいわけです。

企業側も求める人物像に近い社員をピックアップし、武勇伝♪武勇伝♪武勇デンデンデデンデン♪ってな感じで成長譚を披露することで、応募者をふるいにかけたいと思ってるわけです。

また活発に情報発信しているよ!と宣言することでひとつの採用ブランディングにつながってほしい、という狙いもあるでしょう。

かくして社員インタビューのインフレは続いていくのであります。

で、表題の件ですけど

正直どっちでもいいかな、と思うのですが。

結論からいうと広告ではないでしょうか。

なぜか。

間に編集者が入らないから。

編集者が入らないと編集記事じゃない、とはいいませんが、少なくとも「編集者からの赤」的なものは存在しない。代わりに入るのは「クライアントからの赤」になります。

編集者の赤というものは、言うまでもなくそのコンテンツをよくするものです。しかし中には例外もあるみたいで、フリーライター界では「編集からの心無い赤が云々…」という問題提起があちこちで見られます。

結論として、編集とライターは対等である、ゆえに編集からの赤が理不尽な場合は断固として闘うべしという勇ましい論調になりがちです。

しかし、社員インタビューの場合、赤を入れてくるのはクライアントです。ここにあるのは指示命令以外の何ものでもありません。

編集者とライターは対等!という思想には諸手を挙げて賛同しますが、さすがにクライアントとライターは対等かというと、若干無理があります。

対等であるからこそ対立があるわけで、クライアントVSライターという図式は資本主義社会ではありえないです。もちろんクライアントに対して正直かつ誠実である態度としての「それって違いませんか?」はあったとしても、依頼者と受注者の関係であることに変わりないです。

そしてそれはなにもそれは白旗上げるとか職務放棄ではなく、むしろ高い職業意識によるもの。そもそもまともなコピーライターは自分は企業側の代弁者であると考えているからです。

そうなるとやはり、社員インタビューは広告であると位置づけるのが妥当かと思います。

ただし読み手の意識は

どうでしょうか。どうなんでしょうか。

読み手はここに、広告的要素をあまり見つけださないのではないか。もしかすると意外とフラットに、単なる編集読み物として読んでいるかもしれないという説を覆す材料が、いまのところ見つかりません。

そしてそのことをインタビュー記事の作り手がきちんと押さえておくことは、それはそれで結構大事なんじゃないかと思います。

作られるプロセス、承認される過程は実に広告的。だけれども、作られた中身、そしてその見られ方はかなり編集記事的であると。

これって結構、特殊ではありますが、逆にその特殊性を意識すれば面白いコンテンツに仕上げることもできます。またチャレンジングな試みをする際、クライアントに納得していただくロジックにも使えると思います。

そしてコピーライターが社員インタビューをつくるときの優位性がここにひっそりと隠されているともいえます。

顧客の課題解決に貢献するための文章作成は、コピーライターにとってのお家芸。きちんと狙ったターゲットに刺さる内容を、広告とはまた違ったテイストで、違ったトンマナで表現する。

求人票に書かれている無味乾燥なデータをいきいきとした生声に乗せることで相乗効果をあげることも難しくありません。求人広告だとしたら多少やりすぎな表現も、社員の言葉になら乗せやすいといえます。

コロナきっかけで仕事が減った…というフリーのコピーライターを何人か知っていますが、社員インタビューをおすすめすると多くの人が「編集記事かよ…」とか「単価が安すぎる」といって手を出そうとしません。

食わず嫌いってもったいないなあ、と思います。単価は確かに高くはありませんが工数の少なさや手離れの良さにも注目したほうがいいです。

お前が言うなって話かもしれませんが(笑)。

一方、もともと求人畑を歩んできたコピーライターには大きなアドバンテージだなあ、と思うわけです。がんばってほしいです。

っていうか、がんばりましょう!

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