こんな外注ライターは嫌だ
いつもお読みくださりありがとうございます。ふだんは求人広告制作関係者にのみ向けて書いているnoteですが今回は求人広告に限らない話です。
フリーランスのライターについて。
フリーランスのライターとは会社で雇用するのではなく、業務請負契約を結んで1本いくらで求人広告原稿を書いてもらう人のこと。前職では外注ライターと呼んでいたので、ここではそのように表記します。
ぼくが所属していた求人広告の会社は「営業4人に制作1人」という人数比で構成されていました。
制作メンバーひとりが月に制作入稿する本数は平均で新規15本、流用20本。計35本。これに平均単価をかけて4で割るとちょうど営業マンひとりあたりの月の売上目標アンダーになったんですね。
もちろんいろいろなオプションなどもあります。ベテラン営業なら新規で成果を出して横展開させるので、流用比率もグロスもあがります。なので一概にはいえないのですが、まあ、ならすとこんなもん。
ただ営業4人に制作1人のペースでコピーライターを増やしていくといずれ限界がくるのは明らか。最も多いときは170名だったので、つまり営業はその4倍いたってことになります。大企業かよ。
そして営業はバンバン辞めていくのに制作は割と定着率がいい。そうなるとあれですよ、いつ人数比が崩れて制作マン余りの状況が生まれてもおかしくないよね。
当時は生産ラインの工場長みたいな役目もあったので、言葉は悪いですが在庫のダブつきだけは避けたかった。コピーライターなんて職業は多少忙しいぐらいがちょうどいいんです。ひまなんてロクなことがありません。
そこで外注ライターを起用しようということになったわけ。当時コピーライターで募集かけると普通に3ケタ応募があったので、割とかんたんに外部ネットワークが築けるとおもっていました。
しかしこれがけっこう難しい。
これは!という人に出会えないどころか、ヤバくない?という輩が多かった。フリーランスのライターがいまほど市民権を得てなかったからか一癖も二癖もある人がワンサカいたのです。
しかも求人広告ということで、一般の広告に比べて格下に見られていたことも。ハナっから舐めてかかってきたライターも少なくなかった。
今回はその中でも特に印象に残っているライターを紹介しましょう。みなさんそんな馬鹿なと笑いつつ反面教師にしてください。特にヤングのあなた。こうなったらライターはおしまいですゾ。ですゾって古いなあ。
■ ■ ■
◎誤字脱字が多いA氏
これはライターの風上にもおけないです。人間ですから一箇所二箇所の誤字脱字は許そう。俺も気づいていないだけで誤脱しているはずですし。
しかしそれもせいぜい3ヶ所まで。5000文字程度の原稿の随所に誤字脱字があるのは完全にアウト。パーフェクトNGです。変な言葉ですね。
その外注ライターA氏はあまりにも誤字脱字が多くて現場から大クレーム。これなら中で作ったほうが早いと至極まともなご意見を賜りました。どれどれ、と見てみるとそりゃそうだと頷かざるを得ないレベル。
もちろん率直に指摘しますが本人特に悪びれた様子もなく。「ちょっと他の原稿が詰まってて」「スケジュールがタイトだった」「ロケ先で書いた原稿なので」と1ダースの言い訳。丁寧にお引き取り願いました。
◎スケジュールを守らないB氏
これも風上におけない系です。いったいライターの風上というのはどんだけ魑魅魍魎が跋扈してんのよ。外注ライターB氏はほぼ締め切りを守りませんでした。守ったのは初回のたった1回のみ。求人広告だからと下に見ているのでしょうか。ズルズルずるずる遅れていきました。
そのうち発注側も慣れてきて、B氏には提出締め切りを3日前に設定しよう、みたいな動きになります。すると敵もさるもの、4日遅れるのです。まさにいたちごっこ。往年の小林まこと先生を彷彿とさせます。
社内の締め切りならまだいいのですが(よくない)クライアント提出や入稿に関わる部分で遅れるのは本当に困ります。
それでも原稿が珠玉の出来、というのであればアルプス一万尺譲って言い訳ぐらい聞きます。だけどいたって普通のコピーなんです。
メンバーには「この仕事に就いた以上、たとえ親の死に目にあえなくても締め切りは守るものだ」と指導してきた手前、さすがに看過できません。きちんと筋を通した上でお引き取り願いました。
◎修正を受け付けないC氏
クオリティ管理でほとほと頭を抱えていたころ。本数まとめて請けてもらえてクオリティ管理も期待できるんじゃないか、との甘い考えで当時クリエイター派遣で名高かった某C&R社に依頼してみることにしました。
某C&R担当者から「めちゃくちゃ腕の立つベテラン」との触れ込みでやってきたライターC氏は確かに大御所感満点。あいさつも「ん」。名刺交換も「あ、よろしく」ってなもんでした。大御所ですから当然です。
打ち合わせもメモをとるでもなく、質問するでもなく。取材した営業の話を聞いているのかいないのか。小刻みにフンフンと頷くだけ。最後に原稿提出の日時をひっぱるだけひっぱって「じゃ」と帰っていきました。
ほどなくしてあがってきた原稿は…これのどこらへんがベテラン?っていうかヤバい仕上がり。とはいえ、提出日時をひっぱられたおかげでクライアント出しの時間はそこまで迫ってきています。
仕方なく、泣きそうな顔の営業をなだめすかしていったんは提出します。
すると案の定、先方からどっさり赤字が。それもニュアンスベースでの修正指示です。いわゆる「全訂」というヤツですね。ぼくは大物ライターC氏に「ほぼ全体にわたるのですが明日朝イチまでに修正をお願いします」とメールしました。
すると驚くことに「できかねる」とのレスが。
は?
できかねるですって?
これから海外ロケだから一週間ぐらい日本から離れるんだそうです。何のロケですかと聞いたらなんだっていいだろ、と逆ギレ。
ぼくはすかさずC&Rの担当者にクレームを入れました。しかしどれだけ怒鳴ろうがわめこうが、手元のボツ原稿はボツ原稿のまま。入稿締めは翌日夕方です。
泣く泣くてっぺん超える時間までかけて原稿をつくりなおしたとさ。
◎表現が紋切りのD氏
求人広告ね大丈夫ボク新卒で入社した会社で求人やってたからうんまかせてリクルートで賞もとったことあるしえ?みたことない?ぼくの作った◎◎の広告あれギョーカイじゃ有名なんだよ。
当時のぼくはこの手のセリフを聞くと安心しちゃうぐらいウブでした。「今度の外注さんはいいぞー」なんてアシスタントの女の子に履歴書をひらひら見せたりして。あ、いまなら個人情報云々でNGですかね。
一週間後、部下のディレクターが困り果てた顔でぼくのところにやってきます。なんでも例の外注ライターD氏が書くコピーがどれも温度感ゼロの紋切り型なんだとのこと。言ってることは間違ってないのでどう修正指示を出したらいいかわからないそうです。
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なんてこった。泣けるじゃないか。おい、Dさんは新卒入社した会社で求人広告をやってたんだぞ。しかもリクルートで賞も獲ったらしい。どうしたらこんないいコピーが書けるのか俺が直接聞いてみるわ。
1ヶ月後の面談で聞いてみたんですよ。そうしたらなんと、フリーペーパーの求人雑誌をお手本に書いていたんだそうです。っていうかどうやらまるパクだったらしい。
あれ?求人広告の世界では有名じゃなかったの?リクルートの広告賞は?俺の聞き間違い?
結局、営業サイドが誰も頼みたくない、ということで自然に淘汰されてしまいました。
◎資料を持ったまま飛ぶE氏
打ち合わせ時にごっそり資料を持ち帰って、そのままドロン、という人もいました。フリーになって5年目というE氏。もう結構いい年齢でした。
保険に入っていないらしく、風邪とかひいたらどうするんですか?って聞いたらポカリスエットは大塚製薬から出ているから薬効成分あるとおもうって。ううーん。
異常に汗っかきで、しかも病的なまでに恰幅が良いので、いつか健康面でよくないことが起きるんじゃないか、なんておもっていたところ。やりかけの仕事を持ったまま連絡が取れなくなった。
電話をしても出てくれない。メールをしてもレスがない。にゃんにゃんにゃにゃん、泣いてばかりいるハヤカワさん。仕方がないので履歴書にある住所に行ってみたんですよ。
とある街のアパート。その人の部屋の前に佇んでみます。電気のメーターは回ってる。さてどうしたものか。
鍵がかかっているかどうか確認しようとハンカチでドアノブを包んだ瞬間、俺の仕事ってなんなんだろう。そんなふうにおもう秋の午後でした。
もちろん不在。たぶん不在。ノックしても反応なし。電気メーターは回ってるけど。
一応、管理会社と大家さんにも連絡してみますが、親族でもなんでもない、単なる求人原稿発注者の言うことなんか聞いてくれません。もちろん実家の連絡先なんて警戒して教えてくれるわけありません。
ぼくは諦めてオフィスに戻り、クライアントに平謝りしてもう一度お時間をいただき、手元にある情報だけでわからないことをあらためてヒアリングしてなんとか求人広告をつくりました。
え?E氏はその後どうなったか?知らないです。
◎原稿を勝手に他媒体で流用するF氏
これほとんど犯罪でしょ。審査室同士のつながりがあって本当によかった。
◎ギャラが異様に高いG氏
ある日、売り込みの電話がかかってきました。お、自分から営業かけてくるなんて感心感心…なんておもい、会うことに。求人の経験もあり、ここ直近は大手代理店直請けのプロダクションでナショナルクライアントのキャンペーンを手掛けていたらしい。
この度はお時間を割いていただきありがとうございます、と物腰やわらかな方です。コミュニケーションスキルもある。年齢は…おお、35歳。脂がのってるころじゃないですか。しかも年齢以上にしっかりした口ぶりで、これなら客先にひとりで行っても大丈夫。
過去の作品を見せてもらいましたが、ん?これ見たことないなあ、どこに掲載されてました?というものが中心。でもデザインも悪くないし、話の内容からもこの人がしっかりディレクションしていることは明らか。
ぼくはすっかり気に入って、ぜひお手伝いしてほしい旨をお伝えしました。すると人懐っこい笑顔で「ありがとうございます!もし契約いただけたら独立後はじめての発注先になります。ぼくはハヤカワさんがそうだといいなと思ってまして」なんてちょっとハナのアタマがツンとなるようなことを言うじゃありませんか。
そしてだいたいの1本あたりのスケジュール感を伝え、ぜんぜん大丈夫ですよ、求人は手離れがいいですからできるだけたくさんお請けして売上のベースにしたいです。なんていってくれます。うれしいですね。
そして最後にギャランティ。ぼくはカマをかけてみることにしました。見本原稿を見せながら「Gさん、これ、一本いくらだとおもいます?」
と、いうのも当時、この手の仕事にしては破格というか、高いギャラを出していたからです。きっとびっくりして喜ぶだろうな。ふふふ。
「10万、いや最低でも15万ぐらいですかね」
うん、そうだね。そんなにもらえたらうれしいよね。俺もすぐ業務委託になるわ。俺月30本楽勝だから…月収300万円から450万円か。いい夢を見せてくれてありがとう、G先生。
■ ■ ■
冗談みたいな話ですがこれらはすべて実話。だいたい20年ぐらい前ですが、こういった怪しい人たちがライターを名乗っていた時代です。
当時はスマホもSNSもない時代。文章を書いて世に発信するのは、まだまだライターという肩書きの持ち主に分がありました。それだけに変わった人が多かったんでしょうね。
いまこれを読んでいる駆け出し物書き稼業のみなさん、ここに書かれていることの真逆をやれば、きちんとライターとして食っていけますからね。がんばりましょう。
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