かーさんは、時々りんごをうさぎにする。 それが当たり前だと思っていたけれど、そうでないことに気がついたのは最近のことだ。 ぼくとて、14歳にもなればりんごのうさぎ…
お前さ、怒ることとかないの? と、隣の席の藤村がぼくの顔をのぞきこむ。両手を伸ばしたまま、机に伏せて顔だけをぼくの方に向けている。 15分間の休みをつかって、ぼく…
紺とかーさんとすごしていると、とーさんがごく普通の人間に見えてくる。 とーさんはとーさんで、変わっている。でもそれ以上に、紺とかーさんは変わっている。 ぼくと紺…
かーさんが泣くと、暗くなる。空気という話ではなく、この世のまるですべてが、かーさんの力で成り立っているかのように、何もかもが暗くなる。 かーさんが泣くのは決まっ…
制服のネクタイは少し窮屈で、ぼくは下校時にはいつも外してしまう。 教科書やノートが所狭しと肩を並べているかばんの隙間に、えんじ色のネクタイを押し込む。しわになら…
紺は今日も不機嫌だ。 渡り廊下で給食の残りの牛乳を飲んでいた。といってもそれはわざと「残しておいた」のであって、紺が「そうしたい」からそうしているだけだ。紺は給…
ハコニワ
2019年2月1日 22:53
かーさんは、時々りんごをうさぎにする。それが当たり前だと思っていたけれど、そうでないことに気がついたのは最近のことだ。ぼくとて、14歳にもなればりんごのうさぎに喜ぶことはもうない。でもなんとなく、テーブルにやつが現れると安心してしまうのだ。とーさんはよく、「藍はいつ思春期が来るんだろうね」と言う。それは、ぼくがあまりにも周りの中学生とかけ離れているからだという。周りの中学生とは、大
2019年1月27日 23:52
お前さ、怒ることとかないの?と、隣の席の藤村がぼくの顔をのぞきこむ。両手を伸ばしたまま、机に伏せて顔だけをぼくの方に向けている。15分間の休みをつかって、ぼくはメロンパンを頬張る。今はまだ2時間目の休み時間。たっぷりとした朝食をとっても、お腹は空く。いくらでも。藤村は勉強というものにまったくと言っていいほど興味がないようだった。いつだってつまらなそうに、頬杖をついたり居眠りしたり教科書
2018年12月24日 01:00
紺とかーさんとすごしていると、とーさんがごく普通の人間に見えてくる。とーさんはとーさんで、変わっている。でもそれ以上に、紺とかーさんは変わっている。ぼくと紺は、月に一度とーさんと会う時間を設けている。ぼくは密かにこの時間を心待ちにしており、数日前からなんとなくそわそわしてしまう。とーさんはおおらかで、いつだってにこにこしている。ぼくたちの話を、それがどんな話だとしても、目を細めて楽しそうに
2018年12月13日 23:51
かーさんが泣くと、暗くなる。空気という話ではなく、この世のまるですべてが、かーさんの力で成り立っているかのように、何もかもが暗くなる。かーさんが泣くのは決まって、紺とぶつかったときか、恋人と何かあったときだ。理由が明確なのは、悪いことではない。ものごとは、なんでも単純明快なほうがいい。「かーさんはナルシストなのよ」紺が吐き捨てるように言う。今回のそれは、紺とぶつかったことによるものだ。
2018年12月7日 23:19
制服のネクタイは少し窮屈で、ぼくは下校時にはいつも外してしまう。教科書やノートが所狭しと肩を並べているかばんの隙間に、えんじ色のネクタイを押し込む。しわにならないように、でもじゃまだと言わんばかりに。藍ちゃんは本当によくネクタイが似合うのね。はじめて制服に袖を通した日、かーさんは目尻を下げながら、そう言ってぼくのネクタイを締めた。ネクタイなんて今までふれたこともなかったぼくに、締め方を教え
2018年12月5日 21:22
紺は今日も不機嫌だ。渡り廊下で給食の残りの牛乳を飲んでいた。といってもそれはわざと「残しておいた」のであって、紺が「そうしたい」からそうしているだけだ。紺は給食と一緒に牛乳を飲むことを好まない。給食中は、どう考えても水かお茶しか合わないと譲らない。頑固なのだ、性格も、味覚も。ぼくは、給食中は牛乳と決まっているのならば、別にそれで構わない。合おうが合わまいが、そうなっているのだから。世の中に