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子宮狂想曲

ようやく手術の日程が決まった。
大学病院なので、最初の診察の予約に2週間、検査の予約にさらに2週間、手術方針を決めるための予約にまた2週間かかった。予約していても、当日3時間は余裕で待たさせる。実は重病だった場合、検査の結果を聞く前に悪化して死んでいた可能性がある。

5月初旬。午前中の予約が午後にずれ込み、やっと番号を呼ばれた。検査の結果を聞くために婦人科の診察室に入ると、医者が開口一番言った。

「君、スポーツ心臓なんだね」

子宮関係なかった。
スポーツ心臓の方がホットトピックになるくらい、検査の結果は良好だった。ただただでかいという一点を除けば、筋腫に問題はないという。

子宮筋腫の治療には、薬と手術の2つの方法がある。
薬による治療では、女性ホルモンの分泌を薬で抑え、筋腫を小さくさせる。体を切らなくても済む代わりに、強制的に閉経させるので更年期の症状が出る。
現在、私の周りでこの治療をしている人が2人いるが、頭痛、眩暈、ホットフラッシュ、動悸、不眠などに悩まされ、かなりしんどそうだ。あと薬代が高いとも聞いた。
私の場合、筋腫が大きすぎるので長期間薬を飲み、筋腫をある程度小さくしてから手術する必要があるという。ならば、最初から手術で切除してもらった方が早く済む。
しかし、その手術の方法を決めるのに、非常に手間取ってしまった。
手術は、筋腫だけを切り取る筋腫核出術と、子宮ごと切り取る子宮全摘出術がある。以前も書いたが、ポルチオ(子宮頸部)だけ残せないか医者に相談するつもりだった。

ところが、この医者、最初から子宮を切り取る気まんまんなのである。
手術の説明が始まった途端、やたらと「丸ごと取る」という言葉が頻出するので不審に思い、「それって筋腫を丸ごと取るって意味ですか?」と医者に聞くと、「えっ、子宮取るよ?」と言う。「えっ」じゃないだろ。無邪気か。

「やっぱり取るの〜〜〜!? 子宮頸部だけでも残せませんかね〜〜〜!?!」

往生際の悪さを遺憾無く発揮し、40代渾身の駄々をこねたところ、先生は「43歳と7ヶ月でこの状態になっちゃってたら子宮ごと取った方がいいよ」と、受け取り側によってはSNSで大炎上しそうな危うい発言をしていた。
出産ベースで話を進める医者と、セックスベースで考える患者の会話がそもそも噛み合うはずがないのだ。そこは婦人科のプロなんだから噛み合わせてくれよとも思うが。
その日はとりあえず手術の簡単な説明だけで終わり、2週間後の診察で手術の方法を最終決定することになった。
もともと子宮自体には未練はないし、大きな大学病院の先生が言うんだからそうなんだろうなと諦め、子宮を摘出する覚悟を決めた。夫や両親、友人たちにも子宮を取ると宣言した。いざなくなるとなると寂しいもので、「今までたいしたお構いもしませんで…」と、急に労いの気持ちが芽生えた。


ところが。
2週間後、手術の最終決定をしに再び病院を訪れたところ、同じ先生に「それで、どうする? 子宮残す? 取る?」と聞かれた。

「えっ、残せるんですか?」
「筋腫だけ取ることもできるよ」

できるのかよ。
いきなり寄り添ってもらえたので、嬉しくて「よかった〜〜〜!!!」と絶叫してしまった。
手術を担当する別の医者に詳しい説明を受けた際、「お腹開けてみてやっぱりこれはヤバいと思ったら取っちゃってくださいね」と伝えたが、「必ず残しますから!」と力強く言われた。頼もしい。 それを最初に聞きたかった!

こんな経緯で、子宮は摘出しないことになった。ポルチオが残ってくれて本当に嬉しい。
それにしても、2週間のあいだで先生の心境にどんな変化があったんだろう。もしかして、先生あの時うんち我慢してた?
勝手な想像だが、前回の診察を横で見ていた看護師たちが「SNSに書かれて炎上したらどうするんですか!」と怒ったのかもしれない。私が「子宮(実際は子宮頸部)を残したいと希望したのに、○○病院で年齢を理由に断られました!」と、悪意ある書き方するタイプじゃなくて命拾いしたな。

手術まであと2週間弱。10日間の入院中、酒も煙草もセックスも我慢(セックスに至っては術後1ヶ月は禁止)しなければならないので、うっかり悟りを開いてしまうかもしれない。
退院後、やたらと無農薬野菜や「気」の話などをするようになったら、そっとしておいてください。


余談ですが、看護師さんに「お酒…普段結構飲まれますよね…?」とおそるおそる聞かれたので、検査で肝機能にやばい結果出てしまったのかと思ったら私のパーカーのせいでした。

二級酒ちゃん

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