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園丁のいる風景

蕣(あさがお)のはなくう鹿やいつくしま
                正岡子規
新緑の季節
見慣れた景色の中のわずかな違和感
 
木の枝の高さが手入れの行き届いた庭のように人工的、水平に切りそろえられたようなボトムライン。
平地を覆う下草はゴルフ場の芝生のように刈り込まれた印象
石さらに、垣に繁茂する苔の高さ。
定規で引いたように「 Deerline 」が鮮明になる季節。
ディアラインとは鹿の行動範囲によってあらわになる
毎日の食の営みによって可視化されたライン
柵1つを隔てて外来種と在来種の間の結界線が島のように浮かび上がる。

古来より、人を寄せ付けない結界の地
「所に獣を狩らざれば、御山には男鹿啼き」撰集抄にある
狩猟行為は禁じられ、
永く、鹿だけがいつく島

人が住むようになってからも嚴島神社とともに神域化され藩有林、国有林として伐採や農耕が禁じられた。
鹿の数千年来の食の営みが、現在に至る島内全域の景観をかたちづくった。
伝統的な町家の戸口にある鹿戸

押すと開かず引けば開く。
動物的習性を利用した簡易な扉。

先住者である鹿に対して新参の不法占拠者であった我々の先祖が編み出した知恵である。
この島では鹿の行動範囲にかかる店舗も、観光客もまたディアラインの最先端に位置する。

「塵がない町」 
朝6時台静かな早朝、船着き場から海岸通りに差しかかるとどこからとはなく、竹箒(ほうき)の音が響き渡る。
神の島の住人は汚れを怖れるしきたりから実によく町の掃除をする。
1952年発行の岩波写真文庫「宮島」に記されている。*1

鹿そしてが見せる園丁としての所作は静かに無意識に場所をesthétique(審美的)そしてethical(エシカル)に形成し再編してきた。
その所作は、イツクしまの神事のように、
寄せては返すのようにめる。
園丁が風景の一部として同化する風景
それは最も緩やかに誰もがきづかないうちに変化のときを迎える。
見慣れた景色が見たことのない気色を帯びる時




園丁:造園を職業とする人。庭師。公園の草木の手入れや清掃などをする人。

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樹木のボトムラインが綺麗な線で見える宮島でよく見かける風景

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Waterline Grandline Deerline 宮島の地表景観を構成する3つのライン

IMG_9768のコピー

伝統的な町家に見られる鹿戸と黒塗りの簾戸

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