新macOS「Big Sur」のインターフェースから読み取る、Appleの未来への布石。
Siam → Cheetah → Puma → Jaguar → Panther → Tiger → Leopard → Snow Leopard → Lion → Mountain Lion → Mavericks → Yosemite → El Capitan → Sierra → High Sierra → Mojave → Catalina …… に続き、
秋に一般公開される予定のmacOS「Big Sur」。
(macOS Big Surプレビュー - Appleより)
今月にパブリックベータ版が公開されました。
インターフェースデザインを生業にしていない人でも「なんだかiPhone・iPadっぽくなってるなぁ」と感じた人も少なくないでしょう。
そうなのです!
私の見立てでは、単に見た目をナウくしてるというよりも、パソコンのインターフェースをiPhone・iPadでも成立するインターフェースに寄せたのだと踏んでいます。
その意味で、私は今回のアップデートに今までのmacOSのアップデートとは段違いの意図を感じました。
その意図とは、ARへの布石です。
(AppleがARデバイスを開発しているらしい……)
(遅くとも2022年には発表するらしい……)
(どうやらメガネ型らしい……)
(OS名はglassOSというらしい……)
……などなど、AppleのARデバイス開発に関する噂は様々あり、果たしてどこまで本当なのかは分かりません。
しかしGAFAM(Google, Amazon, Facebook, Apple, Microsoft)は5社とも、ARデバイスの特許を取得していたり、ARデバイスを開発中だと発表していたり、MRデバイスをすでに提供していたり(MicrosoftのHoloLense)と、AR分野にかなり等しくお熱ですので、かつてのスマホ革命と同じように近々ARデバイス革命が起こることは想像に容易いでしょう。
さて、AppleとしてはそのARデバイス革命が起きたあとの世界において、ARデバイス・パソコン・スマホ・タブレットと様々なデバイスを提供する上で、それぞれのデバイスのインターフェース(見た目・情報構造)やインタラクション(操作・作用)が大きく違うことは好ましくありません。
なぜならば、Appleの強みのひとつは、あらゆるデバイス間のインターフェースやインタラクションに統一感をもたせて、どこにいてもどれを触っても同じように操作ができる、一気通貫なデザイン思想にあるからです。
ということは、ARデバイスにおけるOSにおいても、そのインターフェースや操作感は、現状Appleが提供しているデバイスのOSと地続きのものとなる可能性が高い…!
想像してみてください。
ARメガネをかけて、現実世界に出てきた画面を操作する様子を。
そこでは、パソコンやスマホのように物理的に持つ、もしくは置くディスプレイはありません。
キーボードもマウスもありません。
空間にたゆたう画面やボタンを、指でポチッと押したり、スライドを動かしたりして操作していくのでしょう。
現在の世界では、パソコンとスマホとタブレットはそれぞれ便宜上の役割を与えられながら存在することを許されています。
パソコンは、作業に特化している。
スマホは、どこにでも持っていけて気軽に触れる。
タブレットは、本を読んだりゲームをしたり、最近では軽い作業なら困らずパソコンの代わりになり始めている。
しかし、あくまでそれは物理的なデバイスのサイズや重量の制約によって、便宜上適していそうな役割を想定したソフトウェアやコンテンツが提供されているだけであることを、私たちは見逃しがちです。
メガネ・コンタクトなどのARデバイスで作業をするときは、先述したように物理的なディスプレイが不要となります。
空間上のどこにでもディスプレイを置くことができるようになり、そのディスプレイのサイズを小さくも大きくもできるのです。
そうなってくると、もはや現在使っているスマートフォンやタブレットなどの規定された物理デバイスのように、ディスプレイのサイズが分かれている意味がなくなり、その境界はどんどん溶けていきます。
進化し多角化しすぎたデバイスたちは、AR革命によって遂にひとつになるのです!人類補完計画ならぬデバイス補完計画ですね?(なんのこっちゃ)
冗談はさておき、その役割としての境界が溶けていくということは、すなわちどのデバイスでもインターフェースや操作感が同じになっていくので、必然的にすべてのデバイスが、最も自由度が高く便利なAR上の操作感と同じように振る舞うようになっていくというのが、私の推測です。
そして、現在Appleが提供するデバイスにおいて、その「AR上の操作感」を実現するのに最も近いといえるのが「iPad」です。
iPadは、指でボタンをタッチしたり、バーをスライドさせたり、実際に現実にある「モノ」と同じサイズ・操作感に近いインターフェースを提供してきました。
ARのインターフェースはその性質上、現実の「モノ」の振る舞いに近い挙動を提供すると考えられるため、その意味でiPadのインターフェースとは相性がいいのです。
ですから、最新のmacOSのデザインも、ARが広く普及する未来を見越して、ひとまず「iPad」のインターフェースとインタラクションに寄せていくのは、必然のことであると私は考えます。
タブレットやタッチデバイスに慣れてしまって、ノートパソコンの画面を触ってしまうなんて話、よくありますよね?
私も2010年頃からそういう場面に何度も出くわしていますが、Appleは頑なに画面をタッチできるパソコンを発売しません。
しかし、大胆な予想になってしまいますが、私はAppleのパソコンはいずれiMacなども含めてすべてタッチできるように進化していくと考えていて、その理由は先述したデバイス補完計画にあります。
ディスプレイだけでなく、キーボードやマウスなどの入力インターフェースも遠い遠い将来的には消えていくものでしょう。
手で直接触れたり、音声入力したり、果ては脳からの信号で入力したり……なんて、それは行きすぎかもしれませんが、少なくともコンピューター技術は物理的な制約からどんどん離れていく方向に進化していくことは間違いありません。
Appleの新macOS「Big Sur」の発表は、僕にはそのような「脱物理」「仮想世界の構築」な未来へ向かっていくぞという決意の咆哮に聞こえました。
このような妄想を常にしながら、未来への希望と現実の制約を行ったり来たりしてかたちにしていく、心躍り苦しい作業だからこそ、インターフェースデザインという仕事を、私はどうしてもやめられないのです。
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