エンタープライズSaaSで不可欠になるCase Driven Growth
こんにちは、RightTouchの奥泉と申します。
弊社は「KARTE」を提供するプレイドグループから分社化したスタートアップで「RightSupport by KARTE(以下、RightSupport)」「RightConnect by KARTE(以下、RightConnect)」「等のプロダクトを開発・提供しております。
簡単な自己紹介
「Case Driven Growth」と顧客事例の素晴らしさ
私は元々、インサイドセールスの立ち上げをメインスコープとしていたのですが、徐々に役割を広げ、現在は新規市場の開拓をはじめとした事業推進に奔走しています。弊社の代表の野村・長崎が「Enterprise SaaSを考える」をテーマにnoteを書いておりましたので、私も僭越ながらそこに続きたいと思います。
今回は、市場開拓やマーケティングに携わる立場としてRightTouchの「Case Driven Growth」についてお届けしたいと思います。
※顧客事例でレバレッジをかけて成長する仕組みづくり
「Case Driven Growth」の大きな概念については代表である長崎のnoteに記載がありますのでぜひご一読ください。
突然ですが、私は顧客事例が大好きです。自分で作るのも読むのも、どちらも楽しんでいます。昔から小説を読んだり、人の生き方やストーリーを聞くことが大好きで、事例には企業の物語が詰まっているからこそ惹かれます。本気でビジネスに取り組む企業の挑戦が描かれた美しい事例を読むと、心が躍ります。
これまでに人生で読んだ物語の中で好きなTop3は、三島由紀夫の『金閣寺』、村上龍の『半島を出よ』、そしてSalesforceの「株式会社ツルガのSalesforce活用事例」です。ツルガ社の事例は課題背景〜導入効果〜ビジョンまで綺麗な一本筋が通った戯曲のようで本当に最高なので、ぜひ読んでみてください。
脱線しましたが私の嗜好にとどまらず、SaaSビジネスのグロースにおいて顧客事例はキーファクターとなります。
弊社がどのように顧客事例を捉えて活用しているのか、ぜひ皆様にお届けしたいと思います。
そもそもビジネスグロースにおいてなぜ顧客事例が重要であるか?
顧客事例のレバレッジ
顧客事例は、潜在層の獲得〜既存顧客のロイヤル化に至るまで、ビジネス・グロースに際したあらゆる局面で圧倒的にレバレッジが効くコンテンツです。
例えば以下3つのように、SsaSビジネスの重要なポイントでレバレッジが効く要素を孕んでいます。
1. マーケティング観点:ニーズ顕在化のためのコンテンツ
顧客事例は、製品やサービスの実際の効果を示す「生きた証拠」としての役割を果たします。具体的な数字やストーリー・導入後の変化を含む事例を紹介することで、潜在顧客に対して説得力を持たせることができます。これにより、単なる機能の説明以上に、顧客にとってどのようなメリットがあるかを具体的にイメージさせることが可能です。
2. セールス観点:購買意思決定の後押し
顧客は、製品やサービスの導入が自分たちのビジネスにどのようにプラスになるかを具体的に理解したいと考えています。顧客事例は、類似の課題を持つ企業がどのようにしてその課題を解決し、導入後にどのような成果を得たかを示すため、新たな顧客にとって成功の保証となり得ます。これにより、新規導入の際の心理的なハードルを下げ、よりスムーズな導入へとつながります。
また、多くのB2Bの購買プロセスでは、意思決定に関与するステークホルダーが複数存在します。それぞれのステークホルダーが製品導入のメリットを理解し、納得する必要があるため、顧客事例は彼らの疑問を解消し、意思決定を促進するツールとなります。特に、実際の顧客の声や具体的な効果を示すことで、社内での承認プロセスをスムーズに進めることができます。
3. カスタマーサクセス観点:顧客関係の強化と口コミ
顧客事例を作成するプロセスでは、既存の顧客と良好な関係を築くことも重要です。成功事例として紹介されることは顧客にとってもポジティブな経験となり、さらに強固な関係を築く機会になります。顧客の成功を自社の成功として共有し、顧客に感謝を示すことで、ロイヤルティの向上にもつながります。ロイヤルティの高い顧客はさらに新しい顧客をどんどん引き寄せてくれる。このサイクルができれば自然と顧客が流入してくる状態を作ることも可能です。
事例の重要性についてはBtoBに携わる方々であれば周知のことかとは思いますが、とりわけエンタープライズをターゲットにしているケースではさらに強い効果を発揮します。
以下にエンタープライズとSMBでの違いをまとめていますが、地上戦を展開する際、顧客事例の重要性は非常に高くなります。
Content is king. King is Case.
事業推進やマーケティングの手法は日々進化し続けていますが、届けるべきコンテンツの重要性は恒常的です。コンテンツは単なる情報提供にとどまらず、潜在顧客を顕在化し、顕在顧客を購買に導く際に重要となる強力なツールです。ブログ記事、ホワイトペーパー、ウェビナー、ケーススタディなど、多様なコンテンツを用意することで、ユーザーのニーズや興味に応じた情報を提供し、購買プロセスを進めていくことができます。
加えて、上述の通りBtoBのコンテンツの王様は顧客事例です。市場にいる顧客にとっては他社がどのように製品やサービスを利用し、どのような効果を得たかという物語が重要となり、これらがサービスそれ自体の信頼性の担保にもつながります。
事例の効果と重要性の本質は「欲望の模倣」「同一性と差異」
事例の効果と重要性について、一歩踏み込んだ解釈を進めるのであれば、以下が根源にあると私は考えています。(どちらも深入りしすぎると際限がなく難しいため、ここでは軽く触れるだけにします。定義解釈については私見をベースにしています。)
A.ルネ・ジラールが唱えた「欲望の模倣」の理論
フランスの批評家ルネ・ジラールの「欲望の模倣」について、近年、ピーター・ティールも再考していましたが、簡単にいうと、人間の欲望が自発的なものではなく、他者の欲望を模倣する形で生まれることを示しています。ジラールは、私たちが「自分が何を欲しているのか」を決める際、他者の行動や選択を見てそれを真似することが多いと考えました。他の人がある商品やサービスを欲しがるのを見て、それを自分も欲しいと思うようになる現象などもその一例です。
下図は有名な「欲望の三角形」の図解ですが、例えば以下のように当てはめて考えてみるとわかりやすいかもしれません。
他者(モデル): 顧客事例で成功を収めた企業。
対象(成功した商品やサービス): 他社が導入したプロダクトやソリューション。
自分(模倣者): 他社の成功を見て、自社も同様の結果を得たいと考える企業。
この関係性では、他社が商品やサービスに対する欲望を示すことで、自社もそれを欲しがるようになり、同様のソリューションを導入しようとします。つまり、他社の成功が「欲望のトリガー」となり、自社が同じ成功を目指して模倣するというプロセスが生じます。
顧客事例はこの模倣のきっかけとなり、他社の事例を見た企業が、その成功を模倣しようとすることで、新たな導入が促進されます。
※出展:http://rinnsyou.com/archives/1345
B.「同一性と差異」
欲望の模倣が事例の「必要性」を示すならば、「同一性と差異」は事例の「活用方法」を示しています。(フランスの哲学者ジル・ドゥルーズが思想した「同一性と差異と反復」からワードを引用していますが、解釈自体は本当に難しいため、ここでは深く触れないことにします。)
単純化すると、顧客事例は他社が成功した事例(同一性)として模倣されますが、各企業の背景や戦略によって独自の成果(差異)が生まれます。たとえば、同じソリューションを導入しても、業界や企業の特性によって結果は異なります。つまり、顧客事例を単に真似るのではなく、顧客の状況に合わせて成功パターンを適応させるようなストーリーテリングが重要です。
例えば、カスタマーサクセス支援をしていく際、顧客事例を参考にしてその企業と同じ成功を目指す(同一性)場合でも、自社の戦略や業界環境に合わせて「差異」が生まれるため、全く同じ結果にはならない点が重要です。顧客事例を単にコピーするのではなく、顧客の環境に適応させながら活用することが必要となります。
この同一性と差異をうまく使い分けることでよりパーソナライズした事例提案が可能になり、顧客を成功に導きやすくなると考えられます。
RightTouchのビジネス特性においてなぜ顧客事例が重要か?
ここまでビジネスにおける事例の重要性を掘り下げてきましたが、ここから、当社RightTouchにおいて事例がなぜ有効であるかお話ししていきます。
1. プロダクトの汎用性の高さ
弊社はカスタマーサポート領域において、複数のデータとアプリケーションを保有し価値を提供するコンパウンド型の事業展開を進めていますが、例えば、1stプロダクトである「RightSupport」を例に挙げてお話します。
「RightSupport」は顧客の「問い合わせ前」からサポートを改善・革新するというコンセプトで、以下を一貫して実現するサービスです。
・サイト来訪ユーザーの困りごとの把握
・ユーザーへのWebサポート施策の実現
・PDCAサイクルの実行
ノーコードでシナリオ型サポート施策やツールチップ、ツアーガイドを簡単に作成できますが、幅が広いため、自社のカスタマーサポートにとってどのような施策が適切かイメージしにくい場合があります。ここで事例が役立ちます。例えば、シナリオウィジェットの作成機能の場合、業界ごとに活用方法が異なりますが、具体的な事例を提示することで、活用方法をより明確にイメージしていただきやすくなります。
例えば、エンジャパン様ではログインエラーが出たお客様にだけ
ログインエラーに関するウィジェットを提示したり。
例えば、日本酒を扱うECサイトでは、訪問者ごとに最適な日本酒を提案するための「適正診断」コンテンツを作成できます。これは、ユーザーの好みや選択に応じて、適した日本酒をサジェストするアクションを自動化することで、顧客体験を向上させることが可能です。
シナリオウィジェット作成の機能自体は共通していますが、ユーザーのビジネスや目的に応じて使い方を柔軟に変えることが可能です。そのため、「何をすれば良いか」が顧客自身がイメージしにくい場合には、具体的な利用例やケースを提供し、「皆様にはこういう使い方ができます」と明確に伝えることが重要です。最終的には「この施策をそのまま導入したい」と言われる状態が理想です。
2.カスタマーサポート業界における業界構造の類似性・展開のしやすさ
カスタマーサポートは多くの業界で共通の課題があり、他業界への展開が容易です。例えば、ネット証券では新NISA関連、インフラ業界ではペーパーレス化など共通の課題が必ず存在します。
弊社ではこのような業界ごとの同一性を「業界ナレッジ」として以下のようにまとめています。
ただし、すべての企業が同じ状況ではないため、業界の同一性を把握しつつ、各企業に合わせた差異を探ることが重要です。このバランスが成功の鍵です。
RightTouchが考えるCase Driven Growth
では、グロースに不可欠な「事例」をどのように作り出していくのか。
大きく2つの要素/考え方が重要となると考えています。
①:リファレンスカスタマーの存在
リファレンスカスタマーとは、特定の製品やサービスを導入し、その効果を他の潜在顧客に紹介してくれる顧客のことです。彼らはエヴァンジェリストとして、実際の成功例を語ることで、事例創出を強力に後押しします。特にエンタープライズ企業では事例公開が難しいため、リファレンスカスタマーの存在が「Case Driven Growth」の重要な要素となります。この協力は、事例活用の成長戦略に不可欠です。
②:顧客事例を「深さ」「広さ」「構造化」で考える
事例はマーケティングからセールス、カスタマーサクセスまで幅広く活用できる強力なコンテンツです。例えば、マーケティングではリード獲得のためのホワイトペーパーとして、インサイドセールスでは架電用のトークスクリプトとして、営業ではクロージング時のROIシミュレーションとして、またカスタマーサクセスでは施策作成の参考として使用されます。各場面ごとに必要な事例の内容は異なりますが、それぞれのフェーズでレバレッジが効く重要なツールです。
営業提案では、事例顧客がどのような課題からソリューションを導入したのか、詳細で「深い」ストーリーが重要です。一方、インサイドセールスでは、「A社やB社も導入しています」と具体的な企業名を挙げることで「広く」興味を引くことが効果的です。このように、事例を活用する際の切り口は、提案のシーンによって異なるため、それぞれの場面で適切な情報を提供することが鍵となります。後ほど記述しますが、このような顧客事例の奥行きと広がりを「広さ」「深さ」と捉えています。
また、市場の変化によって、ターゲット企業も変わります。例えば、弊社が初期に注力していたのは「次世代CS型」の企業で、自己解決の促進に取り組みながら、顧客体験を重視する企業群です。しかし、今後は「The 王道CS型」へのターゲット拡大を考えているため、それに伴い必要となる事例も変化してきます。各ターゲットに応じて、適切な事例を提供することが重要です。特に、エンタープライズ事例の創出においては、業界トップ企業の事例を意識することが重要です。例えば、弊社ではリファレンスカスタマーであるSBI証券様との事例創出に積極的に取り組みました。
SBI証券様は、カスタマーサポート業界でHDI格付け3つ星を複数年取得しており、業界のトップランナーとして知られています。さらにはSBI証券様はネット証券の最大手。SBI証券様のケースがあれば他の証券会社様へもドミナントしやすくなるため、業界トップのお客様とのお取組創出には力を入れています。
▶︎SBI証券様とのお取組事例
https://youtu.be/ByxROpYLvdA?feature=shared
そこで、
・現在どのような事例があるのか
・そしてそれはどのビジネスシーンで使えるのか
・そして今後どのような事例が必要になるのか
を整理する必要があります。この整理を進めるために、「深さ」「広さ」「構造化」のフレームワークを考えています。これにより、事例の具体性や網羅性、そして理解しやすい形での提供が可能となり、ターゲット拡大に合わせて適切な事例を展開できるようになります。
1. 深さ
「深さ」は、事例のストーリーの深さを表しています。たとえば、具体的なビジネス課題と導入したソリューションの詳細な説明、さらにはその後の定量的成果(KPI改善、コスト削減、売上向上)まで掘り下げることが重要です。また、プロセス全体の振り返りや予期しなかった課題、解決に至るストーリーなども含めることで、他社にとってリアルな参考材料となり、説得力が増します。成功の要因や導入の背景、課題克服の具体例までを徹底的に掘り下げることで、その事例がどのような環境で有効だったのかを示すことができ、顧客にとって自社への適用可能性をより実感しやすくなります。
2. 広さ
「広さ」は、事例の種類の多さです。異なる業界、規模、地域など、幅広い事例を揃えることで、より多くの顧客が自社の状況に似た事例を見つけることができます。業界特有の課題や業務フローが異なるため、特定の業界だけに通用する事例ではなく、幅広い業界に適用できる事例の提供が必要です。例えば、製造業、金融業、ITサービス業といった異なる業種での成功事例や生成AI活用・経営貢献などテーマアップ観点でも事例を集めることで、多様な顧客に対して共感を引き出し、自社でも導入可能だという信頼感を生むことができます。
3. 構造化
「構造化」は、情報をわかりやすく整理し、誰でも容易に理解できるようにすることを意味します。事例をただ羅列するだけでなく、共通のフレームワークやフォーマットに基づいて整理することで、異なる事例でも比較がしやすくなります。事例においては、課題、解決策、結果の3つのフェーズに分けて記載するなど、見やすさと理解しやすさを重視した構成が求められます。顧客がその事例を読み取る際、すぐに自社との類似点や活用方法をイメージできるように、論理的かつ視覚的に整理された事例は、営業ツールとしても非常に効果的です。
例えば構造化については、マッピングすると以下のようなイメージです。
「切り口」とは、自社ソリューションをどのように訴求するかの軸を指します。厳密にしすぎる必要はありませんが、テーマ、商材、業界構造などで幅を持たせると良いでしょう。次に、その切り口ごとに導入企業をマッピングすることで、セミナー企画やインサイドセールスのトークに活用できます。また、切り口の整理は、提案時にターゲット企業との同一性を見つける際に役立ち、具体的な提案につなげることが可能です。
最近、パナソニック様の導入事例をリリースしました。パナソニック様の事例は「製造業での活用」「ライトチャネリング(サポートチャネルの最適化)」「問い合わせのWeb比率向上」といった切り口で整理できます。このように、事例ごとに切り口を整理すると、インスタグラムのハッシュタグのように、次にどの事例を作るべきかを議論しやすくなります。これにより、戦略的な事例創出が可能になります。
https://righttouch.co.jp/news/fdGidqk3
特にエンタープライズターゲットにおいては「深さ」→「構造化」(ここは演繹的思考が強いか、帰納的な思考が強いかにより順番は前後します。)→「広さ」の順に進めると良いかと思います。
①:1社の深い事例をまずは作ることにフォーカス
②:作った深い事例を擦り倒して顧客獲得を加速
③:今後必要になる事例を構造化して洗い出し
④:事例作成を加速し拡大
この流れが、Case Driven Growthの理想的な進め方だと考え、日々取り組んでいます。顧客事例はSaaSビジネスにおける貴重な資産であり、これを戦略的に活用し拡大していくことが、事業の成長に大きく寄与するはずです。事例を体系的に整理し、適切に広げることで、顧客獲得を加速させ、さらなる事業拡大につながると考えています。
つい大好きな顧客事例についてお話をしていて熱が入って長くなってしまったのですが、
RightTouchはエンタープライズ市場中心に急速に事業成長しており、一緒に働ける仲間を熱烈募集しています。
このnoteが面白いなと思ってくれた方、Enterprise SaaSについて関心ある方、RightTouch自体に興味を持ってくれた方、ざっくばらんな雑談やカジュアル面談からでも大歓迎です!