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批判の中にこそヒントがある

「クレーマー」という言葉があります。言わずと知れた、商品やサービスについて文句(クレーム)を言う人達のことです。僕は演劇公演という形でお客様にお金を払っていただき、舞台をお見せしているわけですが、当然好意的な反応ばかりではありません。公演では毎回アンケートをお客様に書いていただいています。お褒めの言葉がある一方で、厳しいご意見やきついお言葉が書かれたものも多々あります。芸術作品ですから好み問題が絡んでくるのは致し方のないことですが、それだけでは片付けられないものもあります。

前回公演(2018年9月)「スキゾフレニック・ツーリズム〜迎え人はアリアを歌う〜」のアンケートの中に強烈なものがありました。この時の料金は4,000円でしたが「4,000円の重みを考えて下さい」「情けなくて涙が出ました。もし演劇を見たことがない人がいたら、絶対にこれはお薦めできません」と書かれていたのです。ここまで書くお客様はそうそういらっしゃいません。他の公演で「何も心が動きませんでした」といった辛辣なアンケートがありましたが、それを上回っていると思います。今までで一番きつかったです。
しかし、このお客様はまだいいのです。一番悲しいのは、何も書かないことです。あまりにも酷くて(または期待外れで)言葉もなく、アンケートを書く気にもならない。とにかく一刻も早く劇場を出たい。そういうお客様もいらっしゃるでしょう。ですから、ここまで思いの丈をストレートにぶつけて下さるのは大変有り難いことなのです。僕達はアンケートの中身より、回収率を重視します。それはそういうことです。

多くの人は、知り合いが出ている芝居を見に行くと、アンケートに正直なことが書けないと思います。後でその知り合いが見ることが分かっているからです。終演後にその知り合いに「どうだった?」と聞かれたら、余程空気の読めない人でない限り「面白かったよ」と当たり障りのないことしか言えないでしょう。関係者同士がお互いの芝居を見合っている小劇場の閉塞状況を考えれば、至極当然のことといえます。勿論そういう人はSNSやブログでもいいことしか書きません。腹の底では何を思っていようと、関係者の目に触れるところで本音は書かない・言わないと考えた方がいいでしょう。
知り合いからの賛辞は3〜5割増しくらいに捉えておくのが正しいと僕は思います。そう思っておかないと、いつの間にか裸の王様になってしまいかねません。

かつて、18年半続いたテレ朝の「ニュースステーション」という番組の最終回、キャスターの久米宏さんが最後の最後に語った言葉は、視聴者に対してのお礼でした。しかし、ただの視聴者ではありません。
「大勢の方が見て下さったお陰だと思いますが、想像もできないような厳しい批判、激しい抗議も受けました。勿論、こちらに非があるものもたくさんあったんですが、こちらが理由が分からない批判、故なき批判としか思えないようなものもありました。が、今にして思えば、そういう厳しい批判をしてくれる方がいて下さったからこそ、こんなにも長く(番組をやることが)できたんだということがよく分かりました。これは皮肉でも嫌味でも何でもありません。厳しい批判をして下さった方、本当に有り難うございました。感謝しています」
そう一気に語ると、久米さんは深々と頭を下げたのです。
あのアンケートに接して、僕はこの久米さんの言葉の意味がだんだん実感を伴って分かってきました。同時にいただいた池袋演劇祭の審査員のアンケートの殆ども、それはそれは厳しい言葉が並んでいました。僕は反発もしましたが、こういう言葉を下さる方がいらっしゃるうちは、僕は作品を作っていけるんだと思ったのです。

褒め言葉ではなく、批判や罵倒の言葉の中には、多くのヒントがあるのです。それは自分が何をやっているのか、何をやろうとしているのかを浮き彫りにしてくれます。そして、それがどう受け止められるのか、いえ、正確には跳ね返されるのかを明確に見せてくれます。何も言わずに去って行った人達からは伝わらないものが伝わってきます。肯定的な意見にも否定的な意見にも「手応え」はあります。が、聞きたくない言葉、痛い言葉だからこそ、耳を塞いではいけない。
批判に屈しろといっているわけではありません。ただ、絶賛の嵐の中にだけいると、逆に自分を見失ったり、方向性が分からなくなってしまったり、エネルギーを吸い取られてしまったりするのです。愛のある批判でも、愛のない感情的な批判でも、聞き流したり受け止めたりしながら進む。
何でも自分の糧にしてしまうメンタルの強さがないと、真に批判に打ち勝って多くの人の心に響くものは作れない。そう肝に銘じて、次なる作品作りに励もうと思います。

批判してくれる人がいるうちが華です。
誰も何も言わなくなったり、皆が社交辞令しか言わなくなったら、クリエイターの生命は絶たれるのですから。

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