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ハロウィンとお菓子と、名も知らない彼女たち

「そのネイル、可愛いですね」

今朝コンビニのレジに立っていたのは、オーバーサイズ気味な制服を着て、アイラインの目尻をくっきり上向きに引いた20代の女性だった。

その爪は分厚く、オレンジや紫のベースにお化けやコウモリが賑やかに散らばっている。

私は手入れが億劫なのでネイルをしないが、人の凝ったネイルアートを見るのは好きだ。

思わず声をかけると、彼女はちょっとはにかんで「ありがとうございます」と笑顔を浮かべた。
いきなり話しかけたら変かなと思いつつ声をかけたが、コンビニを後にして口元が緩んでいる自分がいた。

ところで、ハロウィンといえばお菓子である。

私がコンビニで買ったのは、職場で配るためのお菓子だった。小枝の11袋入り。

私の職場は昼休憩にお菓子を配る・もらう慣習がある。
長く働いている人に聞いたところ、「必ず持ってこなきゃいけない訳じゃないから」とこっそり教えてくれた。

休憩室にいるのは10人前後。私は週3勤務のうち、週に1回曜日をずらしながら配ることにした。
出勤日はある意味ハロウィン状態である。

職場におけるお菓子の慣習はどこにでもあるのだろう。
義母からもよく、パート先からもらって食べきれないお菓子をいただく。

ふと思い出したのが、正社員時代にもらったなかで、1番おいしかったお菓子だ。

前の職場で、2週間ほど実習に来ていた年上の女性がいた。
同じ部屋で何かのデータ入力をしていた気がする。

特に話す機会もなかったのだが、彼女は実習を終える日にお菓子を配ってくれた。

函館の洋菓子屋・スナッフルスのチーズオムレット。

温泉まんじゅうくらいのサイズの、ちいさなスフレチーズケーキだ。

当時はチーズケーキが大好きだった。
「こんなおいしいお菓子がこの世にあったのか」と、束の間仕事を忘れて、大事に大事に食べた。

彼女に全力でお礼を伝えると、心から嬉しそうに笑っていた。

前職を辞めてからつらい思い出ばかりが付きまとっていた。
ようやくそれらを手放せたから、大切にしておきたかった記憶が戻ってきてくれたのだろう。

コンビニの彼女もスナッフルスの彼女も、全然知らない人なのに、お菓子ひとつで笑みが蘇るやりとりだった。


※ヘッダー画像はみんなのフォトギャラリーからお借りしました。ありがとうございます。

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