見出し画像

人は身勝手で弱くて、だけど~光る君へ

大河ドラマ「光る君へ」21話を終え、物語は越前編へと移ります。

まひろ自体の活躍はスポット程度でまだまだですが、内裏を中心に目まぐるしい世代の移り変わり、また一足先に出世を果たしたききょうこと清少納言の見どころも多くありました。

まひろ(吉高由里子)と道長(柄本佑)が別の道を歩み始めてからの感想を、独自にスポットを当てていきます。

汚れ役の対比~道兼と伊周

兼家(段田安則)の死後、実権を握っていた道隆(井浦新)が病死。
その間すっかり落ちぶれていた道兼(玉置玲央)を改心させたのは、幼少期あれだけ道兼にやっかみを受けていた弟の道長でした。

兄上の人生はこれからと説く道長に対し、「心にもないことを……」と観ながら思っていたら道兼も同じ台詞を口にしてびっくりしたものです。
藤原家はなんだかんだ兄弟愛が強いのと、道長自身が参っていたときまひろから志を説かれた影響があったと感じます。

ある意味、兼家という呪詛が抜けた道兼は人が変わったように慎ましくなります。
詮子(吉田羊)の働きもあり、道兼は関白となりますが疫病に倒れ、命を落とすことに。

道兼を美化して死なせないでほしいというのが正直な感想でしたが、彼がまひろの母・ちやはを殺めてしまったのはそもそもドラマの創作。
自らを「悪人」と自覚していた道兼の一言により、私はもう何も言わんよと黙って彼の死を見届けました。

最期まで道兼に寄り添った道長のやさしさ、「あの方の罪も無念も天に昇って消えますように」と琵琶をつま弾くまひろの気高い心に胸を打たれるエピソードでもありました。

個人的に、人間は「気づけるか、気づけないか」で大きく分かれると考えています。

道兼が己の犯してきた罪や愚かさに気づけたのなら、反面気づけなかったのが道隆の息子・伊周これちか(三浦翔平)といえます。

登場時こそは道隆の優雅さを受け継いだかのような振る舞いで「出木杉君」と心の中で呼んでいましたが、後継争いになると徐々に本性が見えてきました。

中宮・定子(高畑充希)の元へ怒鳴り込み、「御子を産め」と執拗に繰り返すさまは、かつての道兼と似て異なる狂気を感じました。

道隆や母・貴子(板谷由夏)に甘やかされてきたためか、とにかく態度がクルックル変わる。
自分の都合の悪いときは下手に出て、調子が良ければ威圧的に声を荒げる。もはや出来損ない君と呼びたい描かれ方でした。
往生際が悪すぎて、もはや弟の隆家(竜星涼)のほうがマシに思えてくるほどです。

長徳の変を機に、かつての栄華がなりをひそめた道隆の一家。
同じ母として、貴子に同情を禁じえませんでした。

末路に明暗が分かれた「汚れ役」の道兼と伊周でしたが、こういう役だからこそ感じられる体当たりの演技、気迫は両演者さんとも印象に残りました。

尊いって、大切にしたいと思えるものだ~中宮定子と清少納言

一方、早くに入内し一条天皇(塩野瑛久)との仲睦まじい様子、清少納言(ファーストサマーウイカ)との小気味よい主従関係が描かれながらも、徐々に立場を危うくしていく中宮・定子。
彼女も伊周たちのせいで内裏を出て、出家の道を選びます。

定子役の高畑充希さんは、本来主役級の女優さん。
主演を務めた朝ドラの「とと姉ちゃん」を後半から観ていました。
いつまでも残る少女らしさに加え、劇中で心労を増していくごとに美しさが際立つため、毎回目を見張ります。

21話では住まいの二条ていにまで火を放ち、命を絶とうとしますが、清少納言が決死の思いで引き止めます。
彼女の定子に対する忠誠心をウイカさんがものすごい熱量で演じているため、登場前のキャスティングの心配はもはや忘れ去っていました。

劇中では「定子さまのために、何かお書きになったら」とまひろが進言したことにより誕生した「枕草子」。
清少納言が文机に向き合い、定子のためだけに書く。
花びらが舞い、落ち葉が降るなかそれを読む定子。
四季の情景と叙情的な音楽に彩られた一連のシーンにため息が漏れました。

よく「尊い」という言葉が端的に使われますが、ただ「尊い」とだけ言葉にすると、本来の尊さが損なわれてしまうと私は感じます。

言い換えるならば、尊いとは「大切にしたいと思えるもの」。
定子と清少納言が共に過ごす日々は限りあるものですが、だからこそ尊さを増すのです。

書かずにはいられない~まひろと女流作家の共演

清少納言といえば、本来は紫式部と関わりがなかったとの見解が多くみられます。

しかし「光る君へ」こそが大河ドラマという名の壮大な絵巻物。
大石さんの脚本にかかれば、まひろとききょうが肩を並べて笑い合い、「蜻蛉日記」の作者である道綱母(財前直見)との邂逅も現実にあったかのように描かれます。

かつての「土御門サロン」での赤染衛門(凰稀かなめ)からの教えから始まり、幼い頃から親しんできた蜻蛉日記の作者との出会い、さらに同じく文才ある者として交流するききょうとの語らい。
さまざまな影響を受け、まひろは「書くこと」が人の心を動かすと無意識のうちに学んでいるようです。

為時(岸谷五朗)が越前守になるきっかけとなった漢詩をまひろが書いたのは大胆なアレンジで、若干残念ではありました。

今後出てくるかは定かではありませんが、清少納言の「逢坂の関」のエピソードも、本来の行成(渡辺大知)から斉信(金田哲)とのやりとりに変わりそうです。
だって行成、道長が好きなんだもの……手習いのときにやたら近くで道長の手元を覗き込んでいたので、まさかとは思っていましたが。

それはさておき、まだ源氏物語の草案は見受けられませんが、今のところまひろの文章で最も影響を受けているのはやはり、道長といえます。

道は違えど、魂は共に在る~まひろと道長

直接相まみえる機会は数度しかなかったものの、間接的なやりとりは幾度となくあったまひろと道長。

夜通し看病してくれた道長を想い、ひとり頬を緩めるまひろの愛らしさ。
献上された書簡の筆致をたどり、照らし合わせる道長のひそかで艶めいた一幕。
廃院で居合わせたと思ったら無言でまひろが帰るエピソードもありましたが……直秀が草葉の陰で「帰るのかよ」と呆れていたでしょう。

しかし、越前へ旅立つ前に文を送り、ふたりが会うシーンは感慨深いものがありました。
「おまえの字は分かる」「あなたの顔を見て分かった」。道長の求婚を断ってからの想いを打ち明けるまひろ、二人の妻とは明らかに異なる、愛おしさが溢れている道長の表情。
道は違えど、やはりふたりの魂は行きつ離れつ、共に在るのだと痛感させられました。

まひろと道長はもはやダブル主演といえますが、やはり柄本佑さんの表情や演技が回を増すごとに格段に良くなっていると感じます。

人は身勝手で弱くて、だけど

今記事でふれなかったエピソードを含め、幾重にも折り重なった出来事や心の動きから、人間の身勝手さや弱さが浮き彫りになるのを度々感じ取りました。

一方で、大切なもののためには強くあろうとするひたむきさも描かれており、そういった人間の両面を情感たっぷりに、余すことなく表現しているのが「光る君へ」の魅力だと思います。

番外編:越前編の豪華キャストに注目

22話からは越前に舞台を移し、宋の人々とのやりとりが描かれるようです。

最注目はやはり、宋の見習い医師として登場する松下洸平さん。
朝ドラの「スカーレット」で脚光を浴び、吉高さんとはTBS系のドラマ「最愛」で共演したのが記憶に新しい方も多いはずです。
下手するとまひろとの恋愛関係があるのかも……と予想しています。

また、21話の最後にちらっと登場したオウムは、「光る君へ」2人目の声優さんキャストです。

オウム役を演じるのは種﨑敦美さん。
「葬送のフリーレン」フリーレン役や、「SPY×FAMILY」のアーニャ役を始め、主演から脇役までこなす名バイプレイヤーです。
「めちゃくちゃ演技が上手いんだけど、どの声優さんだろう」と思ったらだいたい種﨑さんです(個人調べ)。

越前編はオリジナルの展開がかなり多くなりそうですが、その後は宣孝(佐々木蔵之介)の動向が気になるところです。
また、詮子を上回る怖さを醸し出してきた倫子さま(黒木華)に戦慄する回数も増えそうです。
道長が最も気をつけなければいけないのは、倫子なのかもしれません……。


※光る君へのマガジンはこちら。

この記事が参加している募集

#テレビドラマ感想文

21,860件

#日本史がすき

7,318件

サポートをいただけましたら、同額を他のユーザーさんへのサポートに充てます。