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短編小説 あいまいな夜 

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京都のとある飲み屋で過ごした あいまいな夜の話 ※実話とフィクション半々のあいまいな話
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#短編小説

あいまいな夜 ⑦

あいまいな夜 ⑦

え、ここもタバコ吸えなくなってる

ここも喫煙所ない...

あのデイリーヤマザキも無くなってる...

10年という月日は、京都の街を変えていた。

「お久しぶりです、ハンナさん」

「ああ、吹山くん、久しぶり、奥座って」

「甘いやつが好きだったっけ?」

「そうですね」

「元気だった?」

「何も変わってないです、10年前と」

「結婚とか、子供は?」

「いや、俄然独身」

「あれ?彼女

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あいまいな夜 ⑥

あいまいな夜 ⑥

「私の話はざっとこんな感じかな。さ、どうだ!私のこと怖くなった?笑」

「いや、怖くはなってない」

「怖くは、なってない?」

「ああ、なるほど、怖くも、なってない」

「ふふん」

「ちょうどいい言葉が見つからない。そもそも僕が言葉に表していいほど、軽いもんじゃない」

「いいよ、大丈夫。山さん、もし私のこと嫌になったら言ってね」

「嫌になったらね」

「嫌にならないよ、とは言ってくれないの

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あいまいな夜 ⑤

あいまいな夜 ⑤

「山さん、こんばんは」

「笹川さん、こんばんは、お久しぶり」

「さて、てくてく歩きますか」

「あ、笹川さんが貸してくれた本、めっちゃ面白かった!他の作品も読んだよ!新訳走れメロスとか!」

「ああ!あれも面白いよねえ」

「京都が舞台だから、我々にとっては読みやすいね、ありがたい」

「うんうん、喜んでくれて何より。山さんにとって良きことがありますように、なむなむ!」

「あ!万能のおまじな

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あいまいな夜 ④

あいまいな夜 ④

「もしもし、ごめんね、こんな遅くに」

「いいよ、どうしたん?」

電話は苦手だ。
相手の表情や空気感
それらが見えない状態で
汲み取らなければならない。

今何をしてて、
どういう状態で電話をしてるのか。

何も分からない所から始まる。

「この前ね、ハンナさんのとこに一人で行ったの、何か悲しくなってしまって、勢いでハンナさんに喋ってしまって、困らせてしまった」

「そっか、そんなことがあったん

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あいまいな夜 ③

あいまいな夜 ③

「ハンナさん、こんばんは。それと頼まれてた九条ねぎ」

「ああ、ありがとう、座って。何飲む?」

「えーと、じゃあ、あの北島ください」

「はいはい、ちょっと待ってね」

「で、どうかしたんですか?」

「あのさ、この前めぐみちゃんが1人で来たの」

「うん、それで?」

「あの子、その日はすごい飲んでね、閉店の時間だったんだけど、もうちょっといさせてくれって言っててね」

「ほう」

「仕事での

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あいまいな夜 ②

あいまいな夜 ②

「こんばんはー」

「あ、吹山くん、めぐみちゃん、いらっしゃい」

あれからというもの、僕らは何度か店に足を運び、ハンナさんとお喋りをする日々を過ごしていた。

すっかり気を許してしまった僕は
必要以上に飲んでしまい
いつも後半ベロベロに酔っ払っていた。

「吹山くん、大丈夫?」

「あー、ハンナさん大丈夫大丈夫。問題なし!」

「めぐみちゃんは強いね、しっかりしてる」

「ね、山さんって男らしい

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あいまいな夜 ①

あいまいな夜 ①

「あ、そういえば山さん。この辺に、新しく日本酒のお店ができたらしいよ」

「へー、そうなん」

「えーと、ここここ!sake cafe ハンナ!」

「ええ、すごい隠れ家な店…中も見えないし、入りづらいな…」

「入ってみよ?なんか楽しそうじゃない?」

「緊張するなー」

「だいじょぶだいじょぶ!いくよ!ごめんくださーい!」

13年前、めぐみちゃんに引っ張られて僕はその店の扉を開けた

中は1

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