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あいまいな夜 ①

「あ、そういえば山さん。この辺に、新しく日本酒のお店ができたらしいよ」

「へー、そうなん」

「えーと、ここここ!sake cafe ハンナ!」

「ええ、すごい隠れ家な店…中も見えないし、入りづらいな…」

「入ってみよ?なんか楽しそうじゃない?」

「緊張するなー」

「だいじょぶだいじょぶ!いくよ!ごめんくださーい!」

13年前、めぐみちゃんに引っ張られて僕はその店の扉を開けた

中は10人ほどしか入れないぐらいこじんまりとしていて、お客さんで一杯だった。

「座れるとこなさそうだよ?」

「あ、でも奥のおじさんが手招きしてくれてる!入ろう!」


その店は「ハンナさん」と呼ばれる女将さんが一人で切り盛りしていた。

「いらっしゃいませ。ごめんね。最近オープンしたばっかりでまだメニューがなくて、日本酒飲める?甘いのと辛いのどっちがいい?」

「私は辛いのがいいです!」
「僕は日本酒あんまわかんないから飲みやすい甘いので」

「食べ物もメニューないから適当に出すよ?いい?」

「はーい」

ハンナさんおすすめの日本酒
お手製のアテがどれも絶品で
その当時20半ばの若造達にとって
未体験のことばかりであった。

「日本酒うめえ!飯うめえ!こんな最高な事あんの!?」

「よかったねえ、山さん」

「いや、マジでめぐみちゃんのおかげ!俺1人だったら入ってなかったもん絶対!」

「えっへん」

めぐみちゃんはすっかりお店に馴染んで
隣のおじさんの日本酒うんちくをふんふんと聞いていた、


「あ、ハンナさん、ハナレグミ好きなんですか?」

「そうだけど、なんで?」

「いや、僕も好きなんです。さっきからこのお店でかかってる曲、僕大好きで」


ハンナさんは昔、
「宝島」という音楽雑誌でライターをしていたそうだ。
プロの音楽好きである。

美味しいお酒
美味しいご飯
大好きな音楽


「ごちそうさまでしたー」

「はーい、またまた、おやすみなさい」


「いいお店だったねえ」

「そうだねえ」

「あのさ、めぐみちゃん」

「なんだい?」


「来月も、ここで飲んでいい?」

「ええ!ごきげんさんやん!」


「だって、最高すぎて!」


「わかった。そこまで気に入ったんなら付き合うよ」


「ありがとう!また来月ね!」


めぐみちゃんと別れたあと、
四条河原町、高島屋向かいのデイリーヤマザキで

「こんなに幸せな夜があるもんだな」

と思いに耽りながらタバコを吸った事を
今でも鮮明に覚えている。

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