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あいまいな夜 ⑦

え、ここもタバコ吸えなくなってる

ここも喫煙所ない...

あのデイリーヤマザキも無くなってる...

10年という月日は、京都の街を変えていた。


「お久しぶりです、ハンナさん」

「ああ、吹山くん、久しぶり、奥座って」

「甘いやつが好きだったっけ?」

「そうですね」

「元気だった?」

「何も変わってないです、10年前と」

「結婚とか、子供は?」

「いや、俄然独身」

「あれ?彼女いたよね?」

「あー、とっくの昔に別れました」

「そうなの?仲良かったのに」

「現実は小説やドラマみたいに上手くいかないってことですね」

「ふーん、そっか。なんか食べる?」

「あ、適当に出してもらえれば全部食べます」

「ははは、ほんとに変わってないじゃん」

「でしょ?そんなもんなんですよ」


めぐみちゃんと僕は

普通のカップルのように

何年かのお付き合いをして

普通のカップルのように

ほどなくして別れた。

普通のカップルのように。


何かをはじめるというのは

終わりに向かって歩くと言うことなのだ。


言葉の魔法なんて、

今となってはほんとにあったのかわからない。

少なくとも、僕は

そんな力を持ってなかったってこと。

あいまいで、幻のような時間だったけど、

相変わらずメニューのないこの店と

僕だけが何も変わってない。


今はただ、

めぐみちゃんが、

穏やかで優しい日々を過ごしていればいいなと思う



「なむなむ」

「なにそれ?」

「ううん、なんでもない。てかハンナさん、相変わらず繁盛してますね、初めてこの店に来た時もいっぱいだったなあ」

「たまたまよ、暇な時もあるよ、ほら!吹山くん!後ろのお客さんにおしぼり出して!」

「いや、僕も客なんですよ!変わってないなー、はいはい」

「あ、そうだ、吹山くん、今度ハナレグミのライブあるよ」

「うわ、行きたいな!チケット取れるかな」

「会場で会えたらいいね」

「ハンナさん!またお客さんが外から覗いてますよ!いっぱいだけどどうする?」

「えーと、その奥!2人入れる!」

ごめんくださーい!いっぱいかなあ...


「おーい!この奥あいてるよー!」



僕は、若い男女に手招きをした。



「この前さ、久しぶりにハンナさんの所行って」

うん

「色々、思い出してしまったから、短い小説を書いたよ」

え?

「こうすれば、めぐみちゃんは消えないでしょう?」


...君は本当に、


「ずるい奴だね」



あいまいな夜のあいまいな話

おしまい。




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