シティポップブームは”昭和レトロ趣味"の延長か
シティポップブーム
ご存じの方がほとんどだと思うが、2010年代後半から「シティポップブーム」が起こっている。1970~80年代に発売された日本のポピュラー音楽、ニューミュージックの中でも特に洋楽の影響を受けたシティポップへの注目が高まり、若者の間で流行しているのだ。
2020年前後の盛り上がり方に比べると少し落ち着いたような気もするが、それでも未だに人気は根強い。
そもそも何をもってシティポップとするか、つまり「シティポップとは何か」という定義づけは音楽マニアたちの永遠の議論のテーマではある。
だが、あえて一般的にシティポップとされている代表的なアーティストといえば、大瀧詠一、細野晴臣、山下達郎、竹内まりや、大貫妙子、松任谷(荒井)由実、八神純子、オメガトライブなどが挙げられる。これでなんとなく分かってくれればうれしい。もちろん、ほかにも該当するとされるアーティストはいる。
昨今はレコードの復調で、市場も活況を呈しているが、例えば山下達郎のレコードは中古でも最低1万円以上という高値で取引されている。
もっとも、山下達郎はレコードを再販しないという方針を取っていたがゆえのケースともいえるだろうが、竹内まりやでも中古は4000円以上という状況。ある意味で”シティポップバブル”といっても過言ではない。
2010年代後半からは、80年代風の楽曲を売り出す若いバンドも目立ってきている。
海外からの”発見”
Spotifyなどのサブスクリプションサービスの広がりで、こうした日本のシティポップがアジアを中心とする海外から”発見”された。
あくまで発見であり、「再発見」ではない。なぜなら、彼らにとっては新しいからだ。コロンブスが新大陸を”発見”したとき、そこでは長い間ネイティブアメリカンたちが暮らしていた、という事実と同じである。
韓国のDJ、Night Tempoらが日本のシティポップをリミックスした作品を発表していることもあり、アジアでの人気が特に高くなっている。
海外のクラブなどでも、シティポップがかかっているという話も聞く。
また、インドネシアでは現地の女性アーティストRainychが、1979年にリリースされた松原みきの「真夜中のドア ~Stay With Me~」を日本語でカバー。こちらも話題となった。
カバーだけに留まらず、自分たちで「80年代のシティポップを作ろう」というDIY精神にあふれる動きもアジア各国で起こる。
特に熱いのがタイ。
Polycatというバンド。この「君のピアス」は、なんと日本語詞である。
アジアのシティポップはいつかしっかり記事を書きたいのでここまでにするが、要するにシティポップブームは、もはや世界的なものになっているのである。
何が人気なのか
では、若者がシティポップに惹かれる理由とはいったい何なのだろうか。
最近、メディアでやたら「昭和ブーム」が取り上げられるようになった。
15年くらい前に映画「ALWAYS 三丁目の夕日」が流行ったのも、もはや”一昔前”の話になってしまったが、例えば若い女性の間で母親や祖母の着ていた洋服を着るのが”おしゃれ”だったりするらしい。
松田聖子など昭和アイドルの髪型も、”一周回って”可愛かったり、メロンソーダが「エモ」かったり、SNS映えしたりするのだ。音楽に関しても、例えばレトロブームの延長線上で昭和歌謡が流行ったり、レコードが流行ったり、という感じだろう。
ただ、個人的に世界的シティポップブームは、イコール昭和ブームではないものと考えている。
私を含めたシティポップ愛好家(とでもしようか)は、その「グルーヴ感」が好きなのである。
先述の通り、シティポップはニューミュージックの中でも洋楽の要素を多く取り入れたことが特徴だ。特に、黒人音楽のソウルや、ソウルなどの流れを汲むAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)の影響を大きく受けている。
時にオマージュなどもしながら、洋楽の洗練されたグルーヴ感を日本に持ち込んだのである。
まあ、雑な言い方をしてしまえば「オシャレ」「横ノリ」な日本語ポップスがシティポップということになる(もちろん全て横ノリ」とは限らないが…)。
かつて「日本語でロックができるか」を議論する「日本語ロック論争」なるものも勃発したのだが、結局はっぴいえんどは後世まで残るバンドになった。日本人が洋楽のフォーマットで音楽ができるようになったのだ。
ボーダレス化する音楽の聴き方
シティポップが世界から愛されていると聞くと「昭和時代の日本に注目が集まっている」と勘違いしてしまうかもしれないが、それは違う。
そもそも、70~80年代への回帰というのは全世界的な流れである。
例えば、ブルーノ・マーズなんかはどう考えても80年代のR&Bなんかを意識している。
また、大ヒットしたBTSの「Dynamite」なんかも、楽曲はもちろんMVもディスコをイメージさせる。
シティポップブームは結局のところ70~80年代へ懐古趣味的な側面はないことはないだろう。どこか懐かしく、それでいて新しさのあるサウンド。それが日本の若者、そして世界の人々を魅了している。
だが、シティポップは「1970~80年代の日本の音楽」であって「昭和40~60年代の音楽」ではないのである。
サブスクは次から次へと、自分が好きな音楽がシームレスに流れてくる。私もそうなのだが、「これ好きだな」と思った楽曲はどんどん聴いてしまうし、それに近い音楽は自発的に調べたりもする。
アクセスが容易になったからこそ、「自分のグルーヴ感」を自覚できるようになった。
それは、シティポップを「シティポップ」として、あるいは「日本の昭和時代のポピュラー音楽」といったジャンルとして聴く体験を超えたものだ。
インスパイア元であるソウルやAORと、地続きに聴くこともできる。このことが、多くの人がシティポップへと導かれてきた要因ともいえる。
要するに、皆が「なんかこれいいね」と思ったから流行っているのだ。
最後に、独断と偏見で選んだ「70~80年代シティポップの入門編」プレイリストを貼っておく。
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