見出し画像

【俳句鑑賞】パエリアの試食|荒田わこの俳句②

 パエリアのメンバーは、俳句の作り手であり、また読み手でもある。エイミーアットマイテーブルによる、『パエリア』の俳句鑑賞。今回は創刊号の作品の中から、荒田わこの作品を取り上げて鑑賞した後半の文章をお送りする。俳句を読み方がわからないという方にも、読み解きの補助線となるはず。

『パエリア』創刊号の作品に寄せて(後半)

エイミーアットマイテーブル

カトレアの鉢をはみ出す根が嫌ひ

 荒田はふだん嫌いとか絶対に言わない。話し言葉を慎重に選ぶ人である。だから余計に面白くて句会で取った一句。ちなみに句会の選は、その日の体調やグルーヴによって変わるし、それも楽しさだ。(上級者はブレません念のため) それはともかく、カトレアのゴージャスな上半身を荒田はそのまま許さない。下半身の見苦しさを暴き出すだけでは飽き足らず、「嫌ひ」で感情的にぶっ潰すという二段構えの攻撃性が猛烈に面白い。実はカトレアを嫌う俳句作りは多い。わかりやすく足りていないニュアンスの不足が気に食わないのだ。「好きな花は?」「藪柑子やぶこうじ」。俳人っぽくはこれが正答。我々の総意に支えられた珠玉の一句である。

大根を煮つつボヘミアン・ラプソディー

 パエリアではテーマ詠の出題自体を考える楽しさもある。昨年11/24のオンライン句会、 渡理いすか出題のひとつは「フレディー・マーキュリー」。フレディーの忌日に因む。かの名曲「ボヘミアン・ラプソディー」は罪を犯した少年の痛切な心を歌い、それを聴く作中主体は大根を煮ている。フレディーの語りかける「Mama~~」と大根。技術的な工夫は特になく、ただ大根をコトコト煮る音、優しい湿度、そして音楽が句の空間に投げ出されるのみ。工夫は、やり過ぎると鼻につくし、しなさ過ぎると駄句に陥る。工夫無くして穿うがつ句がいちばんカッコいいと思ってはいるが、これがまた狙って作れるものではない。経験や感性による説明も完全にはつかないし、それはただ賜物のように下りてくるような気がいつもしている。掲句はそういった成り立ちをしている。孤高のヴォーカリストへの鎮魂に溢れ、何よりこんなに悲しい大根の句を、これまでに見たことがない。


編者注:ちなみにヤブコウジはこんな植物。実は赤くて派手なのですが、花は想像以上の地味さ。著者エイミーアットマイテーブルは「一筋縄で行かない感」がどうも俳人は好きそうだ、というのを感じているのでしょう。


▼上記を含む荒田わこの作品全30句を掲載。『パエリア』創刊号はこちら

パエリアの試食 荒田わこの俳句①はこちら


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?