見出し画像

【俳句鑑賞】パエリアの試食|荒田わこの俳句①

 パエリアのメンバーは、俳句の作り手であり、また読み手でもある。エイミーアットマイテーブルによる、『パエリア』の俳句鑑賞。今回は創刊号の作品の中から、荒田わこの作品を取り上げて鑑賞した。俳句を読み方がわからないという方にも、読み解きの補助線となるはず。

『パエリア』創刊号の作品に寄せて(前半)

エイミーアットマイテーブル

照紅葉釣つた魚の戻さるる

行秋や波打ち際を魚の影

 荒田わこは、ふんわりしている。なぜか魚が出てくると句が冴える。キャラと矛盾しない穏やかな作風が持ち味だ。穏やかならざるのはその再現力である。掲句は秋の吟行句。1句め、照紅葉が映える時間帯、午後も深まる頃か。釣人のキャッチアンドリリース、爽やかな秋の空気、光、風が、読み手の脳内にぐわわぁっと立ち上がる。これが再現力である。2句め、波打ち際の刹那のラインと、魚ではなく魚の影。両者茫漠たる組み合わせによる絵画性を味わってみて欲しい。実景を超える美しさを組み直す力、これも再現力である。「行秋」には一度きりの今年の秋を惜しむ心が本意にある。儚い事象にその心情を託しているのだ。何気なく見せていながら句中ではこれだけの仕事が成されている。「穏やかな」句は、実は非常に難しい。そこに力量が出る。

相談のある目をしたる冬帽子

 テーマ詠「直感」の投句。パエリアにおけるテーマ詠とは、事前に4者が各自5テーマずつ(季語や文字の詠み込みも含まれる)出し合う投句方式で、パエリアの句会はこのテーマ詠を主軸としている。さて初めて冬帽子の俳句を作る時、目に注目する人は多い。似通う発想は悪い意味で「類想」と呼ばれ、類想による類句から抜きん出るのもまた難行なのだが「相談のある目」は想定外の切り口に個性が出た。初学の頃は実景を実物をモノを描けと口を酸っぱくして教え込まれる。掲句は「目」という具象に「相談のある」という心象が乗り、その王道からのズラしが眼目である。心象から映像が立ち上がれば成功となるが評価はひと通りではない。「相談」という言葉の選択を説明的とネガティブに捉えることもできるが、私なら「相談」の喚起力を買いたい。モノ言いたげな目が確かにそこに見える。

 ところで俳句の世界の友人を俳友と呼ぶ。私は俳友のバックグラウンドを聞かないので知らないことのほうが多い。パエリアのプロフィールを読むと荒田は「ソーシャルワーカー」であった。知らなかった。それを踏まえれば掲句の陰影はいっそう濃く、存在を重くしながら読み手に迫るよう感じられる。荒田の俳人格がその職業と分かちがたく一対であることを、掲句は私に教えてくれる。


▼上記を含む荒田わこの作品全30句を掲載。『パエリア』創刊号はこちら

パエリアの試食 荒田わこの俳句②はこちら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?