詩「分かち合う」
いくたび春、はじめて花
ここに来るのははじめてだと
ここに来るたび母は話す
ここでいくたび花を見ても
母の記憶に残っていないから
日々細胞の入れかわる身体を
昨日も今日も同じ私だと思えるのは
昨日の私から今日の私へ
語り継がれる物語があるから
人と人が共に生きるとは
互いの物語の一節を
分かち合うこと
ーーだけど、
私の中にあり
母の中にはない花の物語
わすれる人となった母と
桜咲くたびこの場所に来る
たとえ記憶に残らなくても
それが二人の軌跡になるから
変わらぬ営みをくり返す身体を
去年と今年は違う私だと思えるのは
去年の私から今年の私へ
積もり続ける時間(とき)があるから
人と人が共に生きるとは
互いの時間の一節を
分かち合うこと
ーーだから、
私の中で過ぎ
母の中でも過ぎた春の時間
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