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気持ちスキルと落ち着きスキル

発達障がい診療って何するの?(6)

うまく対話がつづけられない場合、育ちの過程での愛着の課題が関係している場合もあります。その場合にもコミュニケーションをスムーズにするための潤滑油としてのマインドフルネスやアンガーマネジメントなどの技法や考え方は役に立ちます。より本格的なトラウマケアが必要になる場合もあります。

認知や行動の選択肢を増やす。選ぶのは本人

少数派のASDの方はなかなか多数派の人とわかり会えない状態にいます。
ですので仲間はずれにせず、きちんと分かる形で伝えてくれ、自分のことを聴いてくれ、自分の願いを叶えてくれる人のことを信頼して、その人の言うことも聞いてくれるようになります。

丁寧なコミュニケーションで聞いてもらった、分かるように伝えてもらったという体験の積み重ねが、その後の対話の土台になります。
対話的なやり取りをするなかで認知や行動の選択肢(バリエーション)が増えてくると自分からも徐々に気持ちや希望を表出できるようになってきます。

対話とは主に言葉をもちいた他者とのインタラクションを通じて、自分と世界を知ることです。対話により自分のことと世界のこと双方を知り、一つ一つ納得しながら世界を広げていくことができます。その過程で自分の居場所や役割を自ら選んで生きていけるようにるでしょう。

ASDの人は定形的な多数派とのリアルタイムのコミュニケーションは器用には出来ませんが、アートや書物などを通じて時空を超えた人と、あるいは自然や機械など人以外のものとたくさんの対話をしています。
そのユニークな世界の捉えかたや、発想、興味は人類全体にとって必要なものでしょう。言葉での表現が難しい場合もありますが、少数派の体験、そして表現が自由に保証されている文学や絵画、音楽などアートでの表現から彼らの世界を知ることができるかもしれません。

愛着の課題があって対話が成り立ちにくい場合


そもそも対話の本質はお互いの体験や主観を出し合いテーブルに並べて眺めてみるだけというとてもシンプルなものです。そして他者の体験や主観をそれをどう感じてどう行動するかというのは自分に属することです。
それでも対話が成り立たない時には、そもそも対話をしようとしない場合、そして、こだわり・プライド・被害妄想などのために対話が上手く続けられなくなる場合があるでしょう。
自分の主観や体験を語るということも怖いと感じたり、相手が自分の主観や体験を語っただけでも攻撃されたように感じたり、相手と自分の感情の区別がつかなくなっている場合です。

まとめてみると、以下のようなパターンがあるでしょうか。

・そもそも他人に興味がない。(孤立、受動)
・言っても無駄と考えて諦めている。(学習性無気力)
・相手を軽んじ下に見ている。(マウンティング)
・言わなくても応えてくれて当然になっている(誤学習)
・言わなくても応えてくれて当然と思っている(甘え、依存)
・わかりにくい表現での訴えになっている。(行動化や身体化)
・自他の感情の境界があいまい(バウンダリーがない)

これらはどちらかというと二次障害的ともいえます。
分かるように伝えてもらった経験、自分の訴えをわかってもらえた経験といった対話的コミュニケーションにおける成功体験が圧倒的に少ないのです。

多くはこれまでの親子関係や学校教育の中で、不適切な養育(マルトリートメント)をうけてきた、あるいは対等に扱われてこなかったという誤学習の結果です。力で抑え込まれてきたか(アビューズ)、放置されてきたか(ネグレクト)、すべて察して代行されつづけてきた(過干渉)などの歴史があるのではないでしょうか。そのため安定した主体的な自己というものが育っておらず、対話が難しいのです。

だからまず安心して話せる場、聞いてもらえる体験を増やすというのが必須になります。個人としてはマインドフルネスやアンガーマネジメントという技法や考え方が役に立ちます。さらに、より本格的なトラウマケアが必要になる場合もあります。

余裕がない場合、感情のコントロールが難しい場合

さて、対話が成り立つためには知識に加え、余裕も必要です。
余裕がないときにはパニックになり、メタ認知が働きにくくなくなります。またなかなかわかってもらえないと子ども返り(退行)をしたりします。

自分が余裕がないということに気づけないくらい余裕がないと心理的視野狭窄におちいります。そうすると関係性を相対化したり、相手の立場にたって考えるということができなくなります。見えていない背景や選択肢がみえないと、自分や人を傷つける方向になりかねません。

そういった時に適切な相手に適切な助けを求めることが出来ないと悲劇です。ケアは知識と余裕がある方が、ない方をケアしサポートするのが大原則で、逆だとマルトリートメントなどのリスクになります。

だから親や教師、医師などは自分が余裕があるかどうかということを常にモニタリングし、感情をコントロールすることが必要になります。そして余裕がないときには適切に援助希求ができるということが大切です。

どんな状況でも余裕を持つためにマインドフルネスが、感情のコントロールにはアンガーマネジメントが役に立ちます。

落ち着きスキルと気づきスキル

こういったスキルは誰にとっても役に立つもので、様々なソーシャルスキルの中でも基本になります。そしてそこから、いろいろ応用が効きます。
SSTではスキルのコンボなんてやっていました。

そこで、信州大学医学部付属病院子どものこころ診療部では、ソーシャルスキルスのなかでもピボタル(軸となる)領域をしぼった親子のアンガーマネジメントプログラムの開発を研究として行っています。

子どもたちが自分と周囲のことが分かるようになりメタ認知が育ってきた小学校高学年ごろに簡易的なマインドフルネス(気持ちスキル、感情に名前をつけたり強さで表したりする)とアンガーマネジメント(落ち着きスキル、その場を離れる、深呼吸をする、10数える、オリジナルスキル)を組み合わせたものです。

対象はプレ思春期の小学校3年〜6年のIQ80 以上でASDまたはADHDの診断がある方が対象です。4〜6人程度のグループでの2週間毎で1時間✕4回の低強度のプログラムですが、親子それぞれのグループ療法を別室でおこないます。最後に親子そろい、宿題としてスキルをつかってみて話し合おうというような親子でやる課題をだすのが特徴です。

さまざまな効果がでていますが、宿題により親子の対話ができるきっかけになるとういうことが実は一番大きな効果かもしれません。また親にも子どもにも仲間ができるというの隠れたアウトカムです。

とてもよく出来たプログラムだと思います。

(つづき→自立と支援について。)


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