hagurai_teru

【肝胆の底から一刀浴びせたれ!】刃喰いというユニットで殺陣をやっております。しかし当文…

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【肝胆の底から一刀浴びせたれ!】刃喰いというユニットで殺陣をやっております。しかし当文章は殺陣とは全く関係ありません。自己満足の駄文です。お目汚し失礼。

最近の記事

善業の向こう

とある地下鉄のホームで電車を待っていた。 何となく電車が来る方向に目を向けていると、その方向からホームの端を歩いてくる若者がいる。 暑い夏の日曜日の昼下がり。殺陣の練習に向かうため肩に刀ケースを掛けた俺は天井にあるエアコンの吹出口の真下で、心なしかおぼつかない足取りの若者を目で追っていた。 若者が俺の前を通り過ぎる。顔色が悪い。ちびまる子ちゃんに出てくる藤木くんの様だ。熱中症かと少し気になって通り過ぎた後も彼を見ていたのだが、20メートル程離れた所で俺は顔を逸らし前を向いた。

    • ひと夏の体験

      とある県の山間部にあるS村という所に知人が別荘を持っていて、夏はそこで過ごしているというので遊びにいった。 緑が綺麗、星が綺麗、空気が綺麗。夜になると上着が必要になるほど涼しい。村の人達が取れたての野菜や果物を持ってきてくれたり、地元の人しか行かない温泉に入ったりと、ザ・避暑地、ザ・田舎を一泊二日満喫した。 短い滞在だったので、二日目を夜まで過ごして夜行バスで帰ることに。 知人が車で一番近くの市街地にある停留所まで送ってくれた。山を下り、走らせること約1時間。市街地といって

      • 中央線慕情

        夜勤に向かうため新宿駅から中央線の下り電車に乗った。 家路につく人々で少し混んでいる車内、俺はドアにもたれて外の景色をぼんやりと眺めていた。 近くの吊革につかまる男女の会話が聞こえてくる。 男「楽しかったっすね~♪」 女「うん、楽しかったね」 男「またやりましょうよ♪」 女「そうだね、今度は店長とかも来れるといいんだけど」 男「そうっすね♪」 見ると2人ともまだ若い。学生か。会話から推察するに2人はバイトの先輩(女)後輩(男)で、今日は職場仲間で飲み会でもやったのだろう。

        • むんぎゅ

          特に小学五、六年の頃が一番アホだった気がする。 当駄文集の4話目にも記した謎の歌「セックスなんて〜わたしの興味〜♪」 を踊りながら歌っていたあの頃だ。 クラス中の女子に拝み倒してバレンタインデーにほぼ全員からチョコを貰い浮かれまくったは良いが、ホワイトデーにその全員からお返しを迫られ顔面蒼白になる。 警泥(警察と泥棒)という遊びで泥棒役として追われ、他人の家の屋根に上り「瓦爆弾!」 と言いながらその家の瓦を下にいる警察役にバンバン投げていたら家主に見つかって死ぬほどシバか

        善業の向こう

          クリスティーヌ

          クリスティーヌとは10年連れ添った。 一時は一生こいつと生きていくもんだと思っていたが、俺は彼女と別れる決心をした。どう切り出すか? 別れ話に何日もかけるわけにいかない。仕事も休まなければならないだろう。一日。たった一日でケリをつけてやる。 「レーザー手術だと入院しなくて良いんですよね?」 「ええ、その日に帰れますよ」 クリスティーヌとの出会いは26歳の秋。シャワー中にケツに違和感を感じて手をやると肛門から彼女が顔を覗かせていた。 「はじめまして♪」 …君は…もしかして…

          クリスティーヌ

          大根役者

          若気の至りで役者なんぞをやっていた頃――。 「…はい!」 苛立った演出家の声で稽古が止まる。不穏な空気に包まれた稽古場。ある女優さんとラブシーンを演じていた俺がその空気の根源である。 「なんなのそれ?」 煙草に火をつけ演出家が言う。 「完全にお前が足引っ張ってるじゃない」 「はぁ…」 「全然会話になってないし、愛情も感じないし」 「はぁ…」 「〇〇(女優さん)があれだけ仕掛けてくれてるのに一切無視だもんね」 「すいません…」 「何か私、やりにくい所あるかな?」 苦笑いしなが

          大根役者

          聖夜の密室

          俺は電車に揺られてデートに向かっていた。 頭のてっぺんからつま先までビシッと決め、小脇にプレゼントを抱えて窓の外に目をやり彼女のもとへと向かう若者にはクリスマスソングが良く似合う。頭の中で流れるマライヤキャリーに心躍らせ、ワムに少しだけ切なくなり、ジョンレノンでハッピーになる。さて、お次は山下達郎かというところで甘いバラードを掻き消すかのように直腸が太鼓を叩き始めた。 ん雨は夜更け過ぅぎにぃ~♪ ドンドン! ん雪へと変わるぅだぁろう~♪ ドンドンドンドン! んさぁいれぇんな

          聖夜の密室

          病院が嫌いな理由②

          風邪っぽい時は市販の薬で誤魔化しながらやり過ごすのが常であるが、その時は様子が違った。 3日程で鼻水や喉の痛みは治まったのだが、頭が割れるように痛い。熱も下がらない。 やがて痛みは範囲を広げて顔面の左半分、目から顎下にまで及んだ。 顔の半分が痛くて動かせないため表情もままならず、意図せずしてビートたけしの真似をしているかのようだが、声は似ていないので他人を笑わすことも出来ない。スカしたバーでイカしたネーちゃんにウィンクすることも出来ない。バカヤロ、コノヤロ。 とにかく熱と痛み

          病院が嫌いな理由②

          病院が嫌いな理由

          小学二年生の夏だと記憶している。 足を閉じると太腿に刺激された金玉に鈍痛が走るという謎の症状に襲われた。 「なんだろう…」 触ってみるとやはり痛い。小便をする以外のチンコの用途を知らない無垢な俺は下半身をマルダシにしたまま母親のもとへ行くと上目遣いに訴えた。 「キンタマイタイ」 「は!? 何で!?」 右手に包丁を持って怪訝な顔をしながら俺の顔とチンコを交互に見る姿に慄いたが、 「…わからない、でも痛い」 「……ったく」 バイ菌でも入ったかと心配した母親は町医者に連れていって

          病院が嫌いな理由

          ノスタルジア

          30歳のある日、実家からあんた宛に葉書が届いていると連絡があったので仕事の帰りに取りに行った。 葉書には汚い字で宛先に中野照久様、そして差出人にも中野照久。 ? 裏を見ると題名があり、「20年後の僕へ」 と書かれていた。 うっすらと記憶が蘇る。10歳の時に学校で、未来の自分へ向けて手紙を出すという何ともまあメルヘンな行事があったのだ。「へえ~」 と思わず声を漏らし、柄にもなくノスタルジックになる俺は学校の思う壺である。 郷愁にかられ、脳内で井上陽水の「少年時代」 が流れると

          ノスタルジア

          「みんなー、今度の土曜日は園庭で餅つき大会ですよー」 桃組の先生が手を口に添えて言うと園児たちは一斉に声をあげる。 「うわーぃ!!」 「やったー!!」 純粋。餅に狂喜乱舞である。かん高い歓声が飛び交う中、俺も皆と同様に青っ鼻をぶらんぶらんさせながら喜んだ。 興奮を煽るように先生が聞く。 「みんなはどんなお餅が好きかなー?」 俺は大きな声で答えた。 「しょ…のこもちー!!」 「しょ」 は醤油の「しょ」 当時の俺は餅の食い方などひとつしか知らなかった。醤油のみ。砂糖醤油でもない

          「間もなく~銀座~銀座~です」 19歳の夏。丸ノ内線の車内放送を夢心地に聞いた俺は右隣に座っていたOLの膝枕で目を覚ました。押し寄せる違和感……ハッとして起き上がる。 「すいませんっ」 金髪にシャツをはだけた見ず知らずのボンクラが肩にもたれかかるどころか膝枕で爆睡。さぞお困りであっただろう。 当然の謝罪である。 ところが―― 瞬間的に謝った俺になんとOLは微笑みながら 「大丈夫ですよ」 「…!!!」 びっくりした。なんという心の広さか。その微笑には「ボク、疲れてるのね。うふ

          おじさんも進化する 2015冬

          今年で齢四十になる。 拡がっていく額、頭髪と髭とチン毛の白髪、早食いに耐えられない胃腸、たかだか20分弱のステージに息切れするスタミナ、女性に「カッコ良かったですぅ~」 と言われて縮められない鼻の下。硬派という鎧を着ている時間は短縮の一途を辿り、ジャージ姿でうろつく日々も増えた。 しかしどうだろう。 枯れ行く心身を甘んじて受け入れるある種の「諦め」 は時として心地よく、更なる進化の始まりさえ感じさせる。筋骨隆々を組み伏せる方法論を探す。おっさんにはおっさんなりの素振りの仕

          おじさんも進化する 2015冬